14話:朝の戯れ
翌朝、アキラは庭園からする物音によって目を覚ました。
「ん……あれ? リゥくん、どこ……」
目を覚ましたアキラは、隣にいないリゥを探すために部屋の外に出る。アキラの足向かう先は、物音が聞こえた庭方面だ。
そして庭園に着いたアキラは、目前の光景に呆気に取られる。
「――ァァァァッ!」
「オラオラ、そンなモンかよォ!」
「まだっ、だァッ!」
庭園では、リゥとゴウが戦っている。そしてそれを、レイとゲンが無言で見つめている。
そんな二人を発見して、アキラは急ぎ足で駆けつける。
「あ、あの……」
「ああ、アキラくん。おはよう」
「あ、おはようございます。あの、リゥくんたち何してるんですか?」
「ああ。――修行……みたいなものじゃないかな。今朝はずっとあの調子で、もうそろそろ一時間になるかな?」
「そんなにっ!?」
目の前の激しい攻防。アレを一時間前からやっていると知り、アキラは驚愕する。
ゴウが強いということは、アキラも知っていた事実だ。昨日の会議でゴウとゲンが見せたものは、アキラの脳裏にしっかりと焼き付いている。
しかし、昨日とは比べ物にならないほど、今の戦いは激しい。
「ダァラァァァッ!」
「オラァッ!」
リゥの右ストレート。それをゴウは体を反らして避けると、顔の真上にあるリゥの右手を掴み、足を右腕に交差させる。そしてそのまま体重を掛けてリゥを倒そうとする。
しかしリゥはいち早く地面を蹴り、跳躍でゴウの上へ移動。左足をゴウに振り下ろす。
瞬間、リゥの腕を掴んでいた両手を離し、腕を交差させてガード。そのまま左足を掴み、力ずくでぶん投げる。
投げ飛ばされたリゥは空中で体を回転させ、体勢を整えながら着地。そしてそのまま止まることなく着地の反動を利用して地面を蹴り、ゴウを目掛けて一直線に跳ぶ。
そしてリゥは右手を前に伸ばし、ゴウも対抗するように右手を前に伸ばした。二人の拳がぶつかる。そう思われた瞬間――、
「そこまでだ」
一言だけ言葉を発し、リゥとゴウの間に割って入る影。そしてその影は今の二人の拳を同時に受け止めていた。
「ゲン……!」
そこにいたのは、四天王の一人で、昨日の会議でも圧倒的な力を見せ付けたゲンだ。
「なんだよ! 今いいところだったじゃねぇか!」
「アキラが、起きたぞ」
「え? おお! アキラー! おはよー!」
ゲンの言葉で漸くアキラに気付き、リゥはブンブンと大きく手を振る。
「おはよー……って、ちょっと待っ……ふぐっ」
リゥに返事を返した瞬間、物凄いスピードで迫ってくるリゥ。そんなリゥを見て、アキラは両手を前に出し待ったをかける。しかし遅い。そんな言葉を言い切る前にリゥはアキラに到着し、約二時間ぶりのハグを交わす。
「おいおい、さっきもそれやってただろ。まだ二時間しか経ってねーぞ?」
「時間と回数は関係ない! 出来る時に出来るだけやる!」
「え? ちょ、ちょっと……! さっきって、もしかして……」
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時は、二時間ほど前に溯る。
「おーいリゥー! 今日から慣らしで組み手やろーぜー? ……っておい!?」
そう言って、ゴウはリゥたちがいる部屋をノック無しに開ける。
そして部屋の中に入ったゴウは目前の光景に驚きの声を上げる。
「ふっあぁぁ……ん?」
「ン? じゃねーよ! 何やってンだおまえ!」
「ん? あ、ああ……」
若干寝惚けているリゥは、ゴウのうるさいツッコミに目を覚まし、目の前に……というよりも腕の中にいるアキラに気付く。
「ああ、昨日ハグしたまま寝ちった」
そんな風に笑いながら、リゥは右手で頭を掻く。
そしてアキラを動かさないようにそっと腕を解き、ベッドから立ち上がる。
「まだ寝てっから静かにしてろよな。熟睡中に起こしたら可哀想だろ。それに、今アキラが起きたら寝顔が堪能できなくなる」
シーっと人差し指を立てたリゥはそれを口に当てながら話す。
「いや、部屋に入った瞬間に抱き合って寝てる奴らがいたら普通はビビるだろ」
「『普通』は寝てる奴の部屋になんて入らない」
ゴウはリゥとアキラの普通でない行動に、リゥはゴウの普通でない行動にそれぞれツッコミを入れる。
「んで、なんだよ?」
「あ、ああ。これから慣らしの意味を兼ねて組み手やろーぜって」
「ああ、そういう事な。それなら先に庭に行って待っててくれ。俺は準備整えてアキラの寝顔堪能してから行くわ」
「なンだそれ、当たり前のように言いやがるな」
「そりゃまぁ、最近は当たり前になってっから」
アキラより早く起き、アキラが起きる前に寝顔を堪能する。それがリゥの日課だ。まだ数日しか一緒にいないが、寝顔を堪能するのはリゥの楽しみの一つである。
「まぁ、なンでもいいから早く来いよ?」
「おう。俺もあんまり長く見てると理性保てなさそうだからそこまで長くは見ねーよ」
「お前、それ言ってる自分が変態だって自覚あるか? 冗談に聞こえねーし、怖ーぞ?」
勿論半分は冗談であるが、満更にもないとは言えないのも事実ではある。
「とにかく、直ぐに行くから先行ってろって」
「わーったよ。ンじゃ、待ってっかンな」
「おう」
そう言ってゴウは部屋を後にする。
そしてリゥも素早く準備を整え、アキラの寝顔を満喫する。
準備を整えて部屋を出るまでには十分もかからなかったが、そのうちの半分は寝顔を眺めていた。
そうして庭についたリゥは、十数年ぶりの組み手を開始する。
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「ってなわけだな」
「ゴウさん見てたんですか!?」
二時間前にあった出来事を、ざっくりとアキラに話すゴウ。そんなゴウの話を聞き、アキラは頬を真っ赤に染めて目を丸くする。
「見てたっつーか、たまたま入ったらそうなってたみたいな?」
「同じです!」
「まーまー、そんなに隠すことでもないっしょ。大丈夫よ。大丈夫!」
慌てているアキラに対して、リゥは至って落ち着いている。まぁ、元々そういうことを気にする性格じゃないことは知っていたが、アキラは納得が行っていない。
「もー! 大丈夫じゃないし! 恥ずかしいし!」
「そんな恥ずかしいことでもねーって。気にすんな気にすんなー!」
「気にするよっ!」
見られたことをかなり気にしているアキラを見て、リゥは能天気に笑っている。
「ご歓談中すみません。会議に出席される方々がお集まりになられているので、みなさんも早急に大ホールへ集まるように、と」
見れば、ゴウのすぐ後ろにクロが立っている。会議に出席する人々が集まりつつあることの報告と、五人の招集をしに来たのだ。
「意外と早かったね。それじゃ、ゼンジさんを待たせるわけにも行かない。急いで向かうとしようか」
「そうだな」
そう言って、クロを含めた六人は大ホールへと向かった。




