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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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5話:食卓を囲う仲間

 四天王を初めとする六人が宮廷を各々出発してから約二十分後、六人にシロを加えた七人は目的地であった『ゲアノ』の店に再び集合していた。


「――そういえば、シロも白なんだよな」


「ええ。こちらが私の相棒『シロン』です」


 そう言ってシロが撫でているのは、真っ白な銀鳩の様な鳥だ。しかし、そのサイズはやはり大きく、向こうの世界の鳩とは比べ物にならない。

 やはりこちらの世界ではサイズ感が異なり、六人のペットの体長はどれもそこにいる七人より高い。


「ンじゃ、皆揃ったことだし行こーぜ!」


「そうだね。この店に来るのは久々だよ。しかもこの店は僕たちのペットも食事ができるからね」


 ペットも食事ができる。そう言われてアキラは周囲を見渡し、店の敷地の広さに確かな納得を得た。それこそ、リゥの家の敷地といい勝負をするほどに。

 しかし、驚くべきはそこではない。


「かなり寒いんだけど、リゥくんとかみんなは平気なの? こんな――」


 確かに敷地は目を張るほどに広大だが、アキラの驚きはもっと別の所にある。両腕を体の前で交差させて小さく身震いし、リゥのすぐ横に立つアキラ。

 そんなアキラの訴えは当然のことで、むしろ他の六人が異常なのだ。なぜならここは――、


「――こんな、山の頂上なのに……」


 そう。今アキラたち七人がいるここは、標高三千メートルは下らない山頂に位置する場所だ。

 その山の山頂はかなり広く、面積にして一平方キロメートルくらいはあるのだろうか。元々もっと高い山を途中でぶった斬ったような異様な形だ。


「んー? 来る途中に俺の上着あげたのに、それ着ても寒いかー? 仕方ないなぁ……ほれほれ、俺がギュッてしてあげるからこっち来なー」


 そう言って、アキラに向けて大きく腕を広げるリゥ。恥ずかしがって少しは抵抗があったもののこの寒さなのでアキラも仕方なくリゥの腕の中に入る。

 仕方なくと言っても、それはアキラの言い分でしかないのだが。


「まぁ無理もないですね。私たちは慣れていますし、アキラさんとは少し身体の造りも違いますから。それでも中は暖かいはずですから問題ありませんよ。早く中に入ってしまいましょうか」


 そう言って七人は店の方へ向かう。


「ゲアノ混合食堂……?」


 店の前にかけてある、大きく立派な看板。先の会話の内容からして、ゲアノというのは店主か誰かの名前だろう。そして混合というのも、さっきレイが言っていた人間とペットという意味だ。


「いらっしゃいま……あ、これはこれは! 四天王と天使の皆様がお揃いで! しかもリゥ様が戻っておいでではないですか! お久しぶりでございます。かなりお変わりになられておいでですが一目で分かりましたよ」


 店に入った瞬間、リゥたちを笑顔で迎え入れた老人。その老人の正体も知りたかったが、アキラには別の疑問があった。


「あれ? そういえばリゥくんって、前と顔とか変わってるんじゃなかった? それなのに、最初の時も今回も、なんで皆すぐに分かるの?」


 そう。リゥは約十六年前に死んでから龍翔として生まれ変わり、その容姿は前のリゥとは変わっているはずだ。それなのに、誰もが一目でリゥだと気づく。

 そんな違和感に今頃気づいたアキラは、すぐ後ろでずっと自分に抱きついているリゥに首を傾げて尋ねる。


「あぁ、そういえば言ってなかったな。俺たち四天王と天使はその立場を話す必要が無いように、『存在』に微妙な細工をしてるんだよ。その細工のことを術式とも言う」


「ンでもってその術式には色ンな形があって、その編み込んだ術式によって効力が変わるって感じだ」


「術式には、普段の生活に於いて使えるものや非常時に役立つものなど色々な種類があってね。今回のは、四天王と天使、それから主郷の大全師さんなどに編み込まれた『認識補助』の術式だよ。これを編み込まれた者は他者から認識の補助を受け、名乗らなくてもその存在が相手に伝わるという便利な術式さ」


「因みにその逆、『認識阻害』の術式もある」


「私たちは非常時に動くことが多いので、常に認識されてる必要があるんですよ。四天王や天使である事が伝われば、大凡の人は指示に従ってくれますからね」


「そのための術式を、初めて私たちがリゥ様の存在を見つけた時に編み込んでもらっていたのです。そうすれば、私たちは直ぐに探し出せるので」


 そう言って、四天王と天使の六人がそれぞれアキラに説明をする。


「それなので私たちは、すぐにリゥさんだということが分かるのですよ。それに、不思議とこの術式には疑念などが湧きません。その為に人は信じて疑わないのです。ですが、あなたにはそのような感じが致しませんね。十二人衆(・・・・)の方でもないようですが……一体?」


「あぁ、この超ベリーベリーキュートなショタはアキラだ。俺が向こうの世界にいた時の後輩で、一緒にいたいから連れて来た」


 聞き覚えのない単語にアキラが一瞬戸惑うと、その隙にリゥはアキラの紹介をしてニカッと笑いながら体をさらにアキラに寄せる。


「なるほど、そういうことですか。それでは私も自己紹介をしなければなりませんね。私はこの店の店主(オーナー)、ゲアノと申します。よろしくどうぞ。――それにしても、お二人はとても仲がよろしいようですね」


「そーそ。この二人ってば超仲良くてこっちはおいてけぼりだぜ、毎回」


 そう言ってゴウは肩を竦め、やれやれと言うようにため息を吐いて首を横に振る。そんなゴウの微笑に、ゲアノも若干苦笑いだ。


「ま、まぁこんな所で立ちっぱなしもなんですし、席の方へご案内します。相棒様方の方は?」


「ああ、六人とも連れてきてる。いつものと、新しいのが出来てたらそれも一緒で頼む」


 そう言って歩きながら後ろを振り向いたゲアノは注文を聞くように問い、それにゴウが慣れた様子で答える。


「分かりました。それでは後ほどご用意させていただきます。先ずはこちらへどうぞ」


 そう言って席に案内され、案の定リゥとアキラは隣。その隣に二人と一番仲のいいゴウが座り、向かい側にレイ、ゲン、クロ、シロの四人が座る形だ。


「本日はフルコースでよろしいでしょうか?」


「いいぜー! ゲアノンのフルコースはどれだけ大金出しても全く損しないからなー」


「それでは私も腕によりを掛けて作らせていただきます。暫くお待ちください」


 そう言ってゲアノは腕を捲り厨房の方へ戻る。


「ゲアノンのフルコースとか久々だな。てかまぁここでのことは大体が久しぶりなんだけどさー」


「ここの料理ってそんなに美味しいの?」


 昨日から何回も見ていて珍しくはないが、テンションの上がっているリゥを見てアキラは興味を持つ。


「あぁそっか。アキラはまだ食べてないし、あの人が何者かも知らないもんな」


「あの人は『調理師国宝』のゲアノさん。料理界に於いての『四天王』的な存在の人だ。この世界には『国宝』と呼ばれる存在がいくつかあって、料理や科学、美容や理髪、数多のジャンルに国宝が数人ずついる。その中でも『調理師国宝』は料理に長けた人に送られる称号で、その称号はゲアノさん一人にしか与えられていないものだよ」


「因みに、ゲアノンのフルコースなら一品それぞれ数十万単位の値段だ」


 明かされる老人、ゲアノの正体。そんな凄い人だということがわかれば、このような所に店を構えるのも納得が行く。それだけここは特別な食堂なのだ。そしてその金額にも絶句しながら、そんな事実に期待も高まる。


 そうして待つこと約二分。とてつもない速さで、一番最初の前菜が運ばれる。二分で作ったとは思えないほど綺麗な盛り合わせだ。


「お待たせしました。前菜、『超王鮫のムニエル、キャビア添え』です。超王鮫をムニエルにし、それから取れたキャビアを添えてあります」


 柔らかい歯ごたえに口の中で蕩ける濃厚な味。独特のコクがある味わい深い逸品であり、元の世界でも世界三大珍味と言われるキャビアの独特な味が相俟って更なる旨味を引き出す。前菜から心が満たされる、流石『調理師国宝』と呼ばれるだけのことはある料理だ。


「続いてスープ、『ファントムの涙』です。古来より幻の龍と称されるファントム。しかしファントムは地上から五万キロ程の高さでしか生息できず、なかなかその姿を表すことが出来ずに幻とされていました。そして生涯を孤独で終えるとされていたファントムが人間と接触した時にはその感動から涙を流す。その涙は長年に渡り体内で熟成され、感情に左右される涙であり、その喜びで最高の旨味とコクを引き出します」


 ユニコーンやペガサスなどがいるこの世界でも幻とされている龍の涙。この世界に一匹しか存在せず、子孫を残す繁殖機能はない。そのために発見が困難とされいて、特別な調査隊が数百年に一度見つけられるかどうかというファントム。その涙をスープにした逸品。そんなファントムの涙は涙腺や脳を刺激し喉を通した瞬間に、感動的な涙が毀れる。


「続いて魚料理、『ピュアフィッシュ』です。静かな海底に生息するピュアフィッシュ。その生息地帯には他生物は疎か、同種同士でも数メートルの範囲内に近付くとショック死することがあるとされている、世界で最も臆病な魚です。味わいを覚えさせて狙われてはいけないということから、ショック死した魚は食べられないように旨味を完全に消し去り体中に毒素を回します。そのため捕獲は困難を極め、生きたまま膠着状態(アグルタネイト)させ、殺さないように調理を完了させる必要があります」


 生きたままの捕獲と調理。人の域を超えた超人的な工程の後に生まれる神秘。その味は我を忘れさせ、食への感謝とその全てを疑わず肯定するピュアな童心を芽生えさせる。一時的に脳を支配され幼子の様な感心を抱かされるそれは神秘の旨味。口、体、脳、心、全てが一色に染まり汚れのない純心になる。


「その魚料理を食べてからこその肉料理、『モノポリーステーキ』です。嘗て人間が栄えるまで、ありとあらゆるものを独占し、絶対的な力を誇り王と呼ばれていた存在『ゼンオウ』の肉。全てを独占し食べ尽くしたとされる『ゼンオウ』は代を変えても尚その糧となった生き物の旨みは消えず、『歴史(記憶)の運び屋』とも呼ばれています」


 全てを独占していた『ゼンオウ』のステーキ。モノポリーの名の通り、今までの味覚を凌駕し、圧倒的な存在感を口の中に残す存在。王の名の通り、強靭な肉は物凄い歯応えを感じる。今まで食べてきたステーキを全て凝縮させたような弾力。肉を噛む歯が弾き返されるような感覚に陥り、どちらが食べているのか分からなくなる。これは人間の食事ではなく、野生の捕食。その対象が人間なのかもしれない。そう思うほどの独占力。支配ではなく独占。体の全てを持っていかれるような感覚だ。


「そして主菜、『フリーセンター』です。地中、空中、水中からこの世の全ての食材の味を取り込んでいる、この世の中心の食材。その見た目は一つの大きな宝玉であり、食べる箇所によって肉や魚、野菜などと言った味に分かれている。その中にも甘味や酸味、苦味などそれぞれの味がある。それさえ食べれば一生飽きることはないとされるもので、想像によっても味は変えられる。全ては想像の限り、自由なのです」


 肉、魚、野菜、乳、食べる箇所によってそれぞれの特有と味が味わえる。牛肉、鮭、鶏肉、トマト、イクラ、ミルク、色々な味が次々と現れるが、不思議と混ざらない。口の中で各々が溶け込み、喉に、脳に、神経に、心に、記憶に。直接味を届ける。それぞれが直線上に進み、絡み合うことなく辿り着く。そんな珍品である。


「そしてここから最後の追い込みです。サラダ、『オリジンフラワー』――この世の始まり、それは植物から成る。光合成をし、酸素を作り、数多の生き物を生み、その生活を支える。食物連鎖の原点となる存在です」


 シンプルな形の白い花。それのみが乗せられた今までで一番貧相な皿。そしてその味も貧相――否。貧相ではなく、何も混合しないという元の味。肉などはそれぞれが何かを食べ、それが何かを食べ、さらにそれを続け、我々が食べる。しかしオリジンフラワーが摂取しているものは味ではなくエネルギーのみ。エネルギーを取り込み成長し、自分だけの、オリジナルの味わいを出す。口いっぱいに香りが広がり、透き通ったように喉を流れ、胃に到着。そしてそのまま瞬間的に消化され、血液を通り体の緊張を抜く。それにより体全体がリラックスし、落ち着く。


「さて、落ち着いたところでデザート、『シュガークッキー』です。デザートと言えばお菓子、お菓子と言えばクッキー。そして大切なのは甘さのみ。材料や工程の無駄を全て省き、素のまま故の懐かしさがある一品です」


 今では色々な種類が出る菓子の代表格、クッキー。しかしそのクッキーも色々な味が出ている。その中でも味付けを砂糖だけに厳選し、人に安らぎを与える糖の甘味のみを優先させたクッキー。それは飾らぬ素朴な味わい。童心でその全てを受け入れ、独占する。そして独占したその味のみで支配し、リラックスした体に自然と馴染む。


「そして最後、ドリンク、『環水』です。この世とあの世を繋ぐ三途の川。それは生と死の切り替わりの場所です。そしてその川を流れる『環水』は、体の中の水分を循環します。そして汚れているものを排除し、新たに新鮮な物に作り変える。そうして体を清める水です」


 人の体に一番多い成分、水。そのために、汚れている量も多い。その水分を全て循環させ、体を清める。様々な食材を取り込んだ今に打って付けの最終品目だ。そしてその水を一杯飲み、全てを洗い流す。口の中に残っていた風味も、食道で滞在していた味も。体から全てを流し、その味は記憶と心だけに残される。


「料理というのは、体で覚えるのではなく、記憶、そして心で覚えるものです。大切なのは何を食べたかではなく、どこで誰と食べたか。そして何を思ったかです。味に気を捕われ覚えていないかもしれませんが、今フルコースを食べていたあなた方は皆さん万遍の笑みでした。独占されても、支配されても、笑いあって食べていました。笑いながら感情を共有し、同じ食卓を囲える存在。そんな存在がいることを、決して忘れてはいけない。――それは、あの子たちも同様に」


 そう言って優しい笑みを浮かべながら、窓の外に目を向けるゲアノ。そんなゲアノが向けた視線の先には、幸せそうな顔をしながら食事をしている相棒の姿が見える。姿は違えど食べているものは同じ。同じ食材を同じ場所で食べるというのは、食べている側も、それを見ている側も気持ちの良いものである。

 ここにいる七人は、この食事を機に更なる親睦を深め、お互いに今後かけがえのない存在になる。


「そしていつか、真の存在にも……」


 そこにいる誰にも聞こえないような声で、遠くを眺めてそっと呟く。それは、料理に人生を懸けた、最高の料理人の最高で最大の望みであった。

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