9話:歴然の差
部屋の飾り付けだけで終わったサプライズは肝心の夕食を作り忘れるというミスを犯し、結局いつも通りリゥが料理を作ることとなった。が、レツたち十二人衆からすればリゥの手料理は二十年以上食べていなかった懐かしの味だ。久々に味わう懐かしいリゥの手料理は、彼らにとって正しく僥倖。数十年ぶりの味を思う存分堪能し、入浴を済ませた後は日付が変わる前に元あった個室で各々眠りにつき、これもまた数十年ぶりにリゥの家で夜を明かした。
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今更ではあるが、リゥの家のリビングは相当に広い。ソファで囲われたテーブルが置いてあるダイニングキッチンと壁の隔てがなく、リゥやアキラ、そして十二人衆らを含めた十八人が伸び伸びと寛ぐのになんの支障もない十分な空間だ。複数人用のソファは勿論、一人用のソファであったり大きめのクッションであったり、そもそも柔らかい絨毯に直接寝転がることも可能だ。
そんな至極寛ぎやすいリビングで目の前のテーブルにコーヒーを置き、リゥはソファに深く腰を入れてからゆっくりと話を切り出す。
「さてと。皆にも集まってもらって今日からみっちり訓練を……って思ったんだけど、どうやらそうもいかないらしくてな。――アキラ、確認だけど、今日の一時からだったよな?」
「うん。午後一時に宮廷があった場所だって」
「――?」
突然始まったリゥの話に、キョトンとした顔で首を傾げる優輝たち。唐突に切り出されたリゥの話に、「急にどうしたの?」と言いたそうな表情を向ける。
今のリゥの切り出しで話の全体を理解できるのはリゥとアキラのみ。今回の切り出し方では十二人衆も何かを察することは出来ても、全体は把握出来ていないようだ。
「今日の一時から、何かあるのか? 宮廷の建て直しとか?」
「建て直しもまぁ間違いじゃないな。でも、それは前提の話だ。今日は宮廷を速攻で建て直した後に聖陽郷の重役……まぁいつもの面々を集めて会議をやるらしい。議題は大きく定めて『今後』について。アキラとレツたちは当たり前として、優輝たちもだ」
「え、俺たちも?」
会議についての情報は、早朝にシロからアキラへ伝えられた情報だ。どうやらその会議自体が突然決まったようで、全員が集合してから色々と話し合う必要があるとの事らしい。
「まぁ特に何かあったわけでもないらしいからそこまで緊張することじゃないと思うけど、議題の大きさからして長丁場になるだろうから、多分特訓は明日からだ」
「うん、まぁ……それはいいけど。本当に俺らが行っていいやつなの?」
「大丈夫大丈夫。アキラだって初めはそんな感じだったのに、二ヶ月ちょいで立場上は聖陽郷第三位……主郷がいなくなったから繰り上がりで第二位だな。四天王、天使、十二人衆だから……あ、レツたちより上だな!?」
聖陽郷に来たばかりの優輝たちと、聖陽郷のトップを担うリゥたち。明らかに立場が違う中でこの世界の重役が集まる会議に参加することは、優輝たちにとってこの上なく緊張する状況だ。
しかし、もう既にその会議になんの緊張も抱いていないアキラもつい数ヶ月前にここへ来たばかり。会議への出席どころか、既に称号の位で並べれば十二人衆であるレツたちよりも上の立場になっていた。
「え!? アキラ天使なのか!?」
「あ、うん……クロさんの跡を継いで……」
「何ー!? おい、ずるいぞ! このっ! ついこの前来たばっかりのくせにー! おらおらおらー!」
「ちょちょちょ! そんなこと俺に言われても……っ! やめっ、やめ……! り、リゥくん助けてよ!?」
知らぬ間に自分よりも位の高い天使になっていたアキラに、目を丸くして驚く十二人衆たち。そしてその中でも一番の反応を見せるのがレツであり、リゥの隣で頬を掻きながら苦笑いするアキラに飛びかかって戯れる。
頬を引っ張ってみたり軽く拳骨でぐりぐりしたりするレツと、必死に抵抗するアキラ。ただの戯れで力を入れてないとはいえ、やはりアキラの力では全くレツを押し返すことは出来ない。そんな状況に、アキラは隣にいるリゥに助けを求める。
「えー、今めっちゃ眼福なのに止めるのもったいないじゃんー。アキラとか優輝たちってあんまりじゃれあったりしないからめっちゃ新鮮」
「楽しんでないでよぉぉぉ――!」
手を伸ばして必死に助けを求めるアキラだが、リゥはニヤニヤと笑みを浮かべているだけで完全に助ける気はない。寧ろ今までになかった珍しい状況を目の当たりにし、大層満悦そうな様子だ。
そして誰にも助けられないまま、寧ろ面白がったライやサドが加わりアキラは暫く弄られっぱなしだった。
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時は午前から午後に変わり、会議開始の予定時刻である一時より三十分前――十二時半を過ぎた頃、リゥたちはシロの迎えにより少し早く宮廷跡に到着していた。
「あー……やっぱ何回みてもこりゃひでぇわな。正直こんなとこで会議出来る気しねーぞ?」
「ええ。それは私も同意見です。ですので、これから三十分のうちに直して頂こうかと思いまして」
以前来た時とほぼ変わりない状態で放置されている宮廷。瓦礫の山となったそれは、原型を留めていないどころかもはやどの素材がどこに使われていたのかすら分からない。常識的に考えてみれば残り三十分では建物の修復は疎か、瓦礫の撤去すら一割も片付かないだろう。
しかし、シロの耳を疑うような発言にもリゥや十二人衆は全く表情を変えない。
「ほう? それは、シロとアキラの力でか? それとも俺と十二人衆でやるか?」
「レイ様たちとシム博士から、宮廷の構造を根本から変えたいようです。なので、私とアキラ様の力での修復は出来ません。こちらが預かった設計図なのですが……」
「おお……これを後三十分で造れってか……なかなかに容赦ないな」
シロから渡された設計図は、リゥの家よりも広い敷地に五階建てで建設される新たな宮廷の間取りだ。大きく変わったところは、アキラが准天使の称号を得た主郷の部屋である王室が無くなっていることくらいだろうか。一階はエントランスと大きなホールがあり、二階は大きな会議室が一つと小さな会議室がいくつかある。三階は四天王、天使、十二人衆とその他重役の個室があり、四階と五階は宿舎のように多数の個室が用意され、それぞれの階に食堂が設けられている様だ。
「よし、やるか! 瓦礫の撤去はシロに任せ――終わってんな」
「はい。私の仕事はこれだけですので。それでは私は皆様のお迎えに行きますので、後のことはよろしくお願いします」
設計図の全貌を軽く把握して早速作業に取り掛かろうとし、シロに瓦礫の撤去を任せようとしたリゥ。しかし、そんなリゥの言葉が終わる寸前、シロは最後の瓦礫を自らの能力で撤去し、既に準備を整えていた。
「――まじかよ。一気に何個も頼み事した俺が言うのもなんだけど、やっぱ天使って忙しいんだな……」
そんなリゥの言葉が届き切る前にシロはその場所から姿を消し、リゥは右腕をぐるぐると回しながら宮廷の入口なるであろう場所に位置をとる。
「さてとー……土台はイルとレツ、それからスイに任せる。柱はネイと……イオも協力してやってくれ。証明はライに任せて、フウとクラは全体を通して指示。残りは全員補助で……俺は遊んでてもいい?」
それぞれの分担をざっくりと決めた直後、さり気なくアキラの後ろに回ったリゥはそのままアキラの肩に腕を回して堂々とサボり発言をする。が、しかし。そんなリゥの発言に「はいどうぞ」と言える時間的余裕は無い。十二人衆の全員が声を揃えて強くそれを却下し、リゥは渋々今分担した全てに協力し宮廷を造り上げる。
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「うひぃ……終わったぁ……」
「お! おつかれー!」
「ほらほらリゥ兄! もう結構集まってるよー!」
「ちょ、お前ら! 何でもう休んでんの!?」
だだっ広い宮廷を囲う柵を作り終え、漸く宮廷を作り終えたリゥ。建物のみではなくかなり広く面積を取っている庭の外側を囲ったため、移動距離ですら相当なものだ。
そんな長距離継続的な想術の行使に肉体的ではなく精神的な疲労を体感し元の場所へと戻ると、そこには既に木陰で休んでいる十二人衆の姿が見えた。
「だって俺様たちの仕事は終わったしー?」
「そもそも最初にアニキが一人だけサボろうとしたからだろ」
「ぐぬぅぅ……」
リゥと十二人衆の会話に、数分前から宮廷の完成を待っていた人々が口に手を当ててくすくすと笑う。そしてその中には宮廷の新設を要請したレイやシムもいて、彼らも例外ではなかった。
会議に参加する面々の中で、例外なのはたったの五人。今のイルの言葉にピクリと眉を動かしたのは、同じく木陰で数十分間リゥたちの仕事を見ていたアキラたちだ。
イルの「一人だけ」という言葉。これが表すのは、アキラや優輝は端からカウントされていなかったということ。普段なら笑って見ていられたであろうリゥと十二人衆たちの会話に、今回ばかりはアキラたちの表情が曇った。




