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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第二作:〜果たされる誓い、『四天王』としての責務〜
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8話:サプライズ

 リゥと翼の繁華街デート。それは機嫌を損ねた翼を宥めるためにリゥが約束した事だが、実はそれも翼の作戦のうちだった。とは言っても、単純にデートをするためだけの作戦ではない。勿論デートをするというためには翼もそれなりに考えて行動するだろうが、そこまで急かして日程を決めることはしない。


 つまり、なるべく急がなくてはならず、それでいてデートとは別の目的があったのだ。


 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼


 リゥと翼がデートに向かい、リゥが現在居住している本邸にはアキラたち四人が残っていた。

 二人きりのデートということでアキラさえも連れて行かず、この日は今いる本邸の敷地の中でなら何をしててもいいと言ってデートに向かったリゥ。そんなリゥが家を出て暫くすると、優輝たちは一斉に忙しく動き出す。


「もう行ったよね? 流石にバレてないでしょ?」


「大丈夫でしょ。なんかめちゃめちゃ気合い入れてお洒落してたし」


「龍翔くんって偶にめちゃめちゃ勘が鋭い時あるからね……」


「多分翼以外の俺らじゃちょっと怪しまれてたかも」


 玄関をそっと開けて外を確認するアキラと、三階の窓から遠くを見渡す優輝。蒼空と蓮も庭の中や外を見て回り、数分後に再びリビングへと集合してリゥがしっかりとデートに向かったことを確認する。


 そしてその後暫くすると、玄関の呼び鈴が鳴った。


「おー、兄貴の家来るのも久々だなー」


「おはよう。今日は呼んでくれてありがとね」


「おはよ! こっちこそ来てくれてありがと!」


 玄関を開けた先にいたのは、もう既に何度か揃い踏みで顔を見た事のある十二人衆だ。

 元々の話では四天王も十二人衆も各々の仕事がありあまり全員が集合することはないようだが、アキラたちにとっては全員が揃っていることが当たり前のように感じられている。


「兄さんがシロさんに伝えた話だと集合は明日らしいですが……」


「リゥ兄さんに内緒でそれを訂正して呼んだってことは、今は君たちだけってことだよね?」


「うん。リゥくんは翼と一緒に繁華街に行ってる。今は俺たち四人だけだよ」


 リゥがシロを通して十二人衆に伝えた集合日は、スパーリングを行ったあの日から三日後。しかしその直後にアキラは宝天玉杖(ほうてんぎょくじょう)を使いシロへ直接連絡を取り、十二人衆である彼らを一日早い今日に呼んだ。


「これから忙しくなって、多分こうやってみんなで集まる事も出来なくなると思うから、今日はリゥくんにサプライズを仕掛けたいの」


 リゥとアキラがこの世界に来てから、二ヶ月以上もの間アキラはリゥに助けて貰ってばかりいる。勿論リゥはそんなことなど全く考えていないが、アキラにとってはまだ返していない恩義がいくつもあるのだ。

 そして優輝たちは、自分たちの意思でここに残ると決めたはずなのに、何故かリゥは罪悪感のようなものを抱いて優輝たちに尽くそうとしている。しかし、どれだけそれを伝えたとしてもリゥは尽くすことをやめない。


 よって、アキラは今までの恩を返すために、優輝たちはどうしても尽くしたがるリゥに少しでもその感謝を伝えるために、今回はリゥにサプライズを仕掛ける。


「おお! 楽しそうじゃん!」


「オイラたちはそーゆーのやったことなかったもんなー」


 完全に休暇状態にあるリゥやそもそも仕事のないアキラたちとは違い、十二人衆にも仕事や鍛錬といった日課がある。特にレツやイルはリゥとの戦いで課題が多く見つかり、今はそれらの克服をするためにも大事な時間のはずだ。それなのにも関わらずこうしてアキラの訂正を受け予定日よりも早く来たのは、リゥへの感謝があってこそだろう。

 今までの話や関わり方から見て、リゥと十二人衆の仲の良さは言うまでもない。それは、たった数日しか見ていない優輝たちでさえも容易に想像出来るほどだ。

 そんな彼らにとっては、リゥの帰りを祝うということも兼ねられるのだろう。

 アキラにとっても優輝にとっても、そして十二人衆にとっても、今回仕掛けるサプライズにはそれなりの想いが込められる。


「それじゃあまず飾り付けしたいんだけど、こっちの世界ってあんまり飾り付けするようなものが売ってなくて……もう買うタイミングもないんだけど、どうすればいいと思う?」


「部屋の装飾ですか? それだったら……こんなのどうです?」


 元の世界であれば、近場のショッピングモールにある百円ショップなどで大抵の装飾物は整えられた。しかし、この世界ではあまり個人的なパーティという文化は広まっておらず、家や部屋の装飾品やパーティグッズはほぼ売られていない。


 そんな現状にあったアキラの心配に素早く応えたのは、自然の想術を扱うネイだ。思案顔で首を傾げるアキラの問いにネイがパチンと手を叩くと、合唱したその手の上に一輪の花が浮かんだ。


「これで飾れないですか? 他にも色んな花出せるですよ」


「おー! 凄い! しかもいい匂いするし、これって本物?」


「想術で作ったものだから自然の花じゃないですけど、匂いとか肌触りは本物ですよ」


 ネイが一瞬にして作り出したのは、薔薇によく似た真っ赤な花だ。ネイから渡されたその花は確かに見た目も匂いも肌触りもアキラの知る花と同じもので、偽物だと言われる方が信じ難い。

 自然の想術で作り出される物は、外見からその特徴まで全てが等しいものか、意図的に特徴を変えているもの。今回の花は正しく前者で、後者は(しば)()の様なものだ。

 そして前者の場合は、構成物質以外の全てが本物と同じであるため、花としては本物と称して何ら問題は無い。しかし、人工的にクラフトから直接作りだした花は、植物としての話をすれば本物とは言い難いものだ。


「なるほど。そういう飾りなら僕たちにも出来そうだね」


「そーやねー。オラたちの想術でも、色々飾れそーや!」


 スイやネスがネイの行動に感心し動き出したかと思えば、十二人衆は既に全員が各々動き出していた。


 レツとライが炎と電気で照明を作り、それをクラやフウが覆う。炎にも溶けない氷はその光を煌びやかに引き立て、氷や風の中でパチパチと音を立てる電気は炎と共に線香花火のような鮮やかさを演出。

 スイはシャボン玉のような物を部屋にいくつも作りだし、ふわふわと浮かぶそれはイオによって様々な色へと変わり何とも言えない味を引き出す。

 また、イルは意外にも器用に加工した土を部屋に飾り、セトやネス、グラは各々能力で様々な物を部屋に固定いた。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


「うわぁ……! すご! こんな綺麗な飾り初めて見た!」


 十二人衆たちにとって初めての装飾はそれなりの時間を要したが、確かな技術とアキラたちの指示によって今までで最高の出来となっていた。


「これで後は兄貴たちを待つだけだな!」


「うん! 翼には六時に帰ってきてねって言ってあるから、もう少し待たないとだけどね」


「そっか。あ、ならさ! そっちの世界での兄貴の話とか聞かせてくれよ!」


「いーよー! その代わり、前世のリゥくんの話も聞かせて!」


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 レツたちが来てから準備に掛かった時間は約四時間。レツたちが来たのは朝の九時に二人が家を出てから一時間後。つまり、サプライズの準備を終えた時間が丁度日中の二時を回った頃だ。


 しかし、リゥと翼が帰って来るまでの六時までの四時間はあっという間に過ぎていた。

 レツが過ごした数十年と、アキラたちが過ごした数年。その間に起きた事柄を話すにはあまりにも時間が少なく、その場にいる合計十六人の一番思い出に残っているエピソードを話し終えるだけで終わってしまった。


「――! 帰って来た!」


 十六人全員の個人トークが終わり、次は愈々全員での話を始めようとしていた頃。その中の誰しもが時間を忘れていた中で、その例外ではなかったはずのサドの耳がピクリと動いた。


 音の想術を扱うサドの能力は絶対音感。とは言っても、勿論一般的な定義のそれではない。

 サドの絶対音感は、自分を中心とした一定の範囲内にある音からその物の状態を把握出来る能力だ。指定した範囲内に人が入れば、その者の動きから生じる音により身長、体重、性別、筋肉量、体調、機嫌、状況、その他諸々の情報が読み取れる。

 勿論、名前や生年月日と言ったような直接体に関与しない情報は読み取れず、意識して隠されれば隠されているということは分かっても何をどう隠しているかまでは読み取りにくい。それは対象の実力により、リゥほどの存在が本気で隠そうとするならばその気配を悟られることすらなく相当近くまでは距離を詰められるだろう。


「念の為結構範囲伸ばしてたはずなんだけど、やっぱり広くするとそれだけ遠くは精度も落ちるから……五百メートルまで伸ばしてたけど、もう三百メートルもないよ。やっぱりつばさくん……だっけ? あの子に絞っておけば良かったかな……ゆっくり歩いてるみたいだからまだあと数分はかかるだろうけど」


 サドの能力は基本的に範囲内にあるものの状態を知るものだが、一度綿密に把握した相手が範囲内に入った瞬間にそれを感知することも可能だ。勿論リゥも把握済みであり、本来ならば五百メートル圏に入った瞬間に感知できるはずだった。が、リゥは前世からの癖により普段からある程度音を消してしまっている。

 よって、もう時間の無いアキラたちは一旦話を中断。予定した段取りの通り、各々が静かに音を立てず暗い部屋に潜む。


 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼


「本当にもう終わってよかったの? 翼なら夜中までまだ帰らないって言うと思ってたのに。もしかして体調悪い?」


「ううん! そーじゃないけど、まぁ……なんとなく?」


「そーおー?」


 繁華街でのデートを終え、家が見えてきた所で予想と反してまだ明るい時間から帰ると言い出した翼にリゥは疑問を抱いていた。

 リゥからすれば、今回の翼の言葉にはかなり疑問が残る。成る可く早くと急かした割には、まだ暗くなっていない六時に自ら帰ると言い出した。特に何かを疑うといった様子ではないが、やはりリゥの勘は鈍くない。詮索こそされないものの、翼はいつ確信をつく様な言葉が来るかとかなり焦っている。


「――あ! りゅーくん! 家まで競走しよ! どっちが早く着くか勝負! 負けた方が勝った方の言うことなんでも聞く!」


「お? おぉ……まぁいいけど、翼が競走って珍し……」


「よーいどん!」


「ちょっ!?」


 元々素直な性格の翼にとって、一度疑問を持たれれば言葉巧みにそれを誤魔化すということは至難の業だ。怪しまれ難いという方面での人選のため、怪しまれれば最後。翼にはそれをはぐらかす術はない。

 よって、翼はこれ以上の会話自体を無くすため、話す余裕も時間もなくなる家までのダッシュを提案。そして多少怪しまれることを覚悟で、リゥの言葉を打ち切り走り出した。


「ちょ、翼……! ――せこいぞぉぉぉぉぉ!!」


 有無を言わさず走り出した翼に一瞬戸惑いながらも、リゥはその背中を追って走り出す。


「やったー! 俺の勝ち! りゅーくんは後で俺のお願い聞いてね!」


「くぅっそ……ほとんど差が縮まらなかった……!」


 出遅れた時間と同程度の時間差で家に着き、若干本気で悔しがるリゥ。勿論想術の類いや本来の脚力を使えば余裕で抜かせる距離だが、それでは全く面白味がない。リゥとしての体ではなく、龍翔としての体で勝負をするからこそ面白いのだ。


「まぁお願いは後でするから、取り敢えず中入ろー! お腹も空いたし!」


「んー……だから外で食べてから帰ろって言ったのにー」


「いーのー! 夜は家で食べたい気分だったんだもんー!」


 やはり、翼の言動に若干の違和感を感じているリゥ。

 またもや首を傾げて疑問を抱き始めたリゥの背中を押し、翼はぐいぐいと家の中にリゥを押し込む。


「わ、わかったわかったって! ――それにしても静かだな……皆寝てるの? 流石に外には言ってないよな――?」


 普通ならば、リビングに通じる廊下を歩いていれば話し声が聞こえるはずだ。余程小さい声で話していなければ、ドア一枚隔てた程度では筒抜けになるのは当たり前。そして現に、リゥの独り言は確かにアキラたちに届いていた。


「――あ?」


 廊下からリビングに入る扉には、中の明かりが抜ける程度の曇りガラスが貼ってある。にも関わらず声どころか明かりすら盛れていないドアを開くと、そこにあったのはアキラたちが待っているはずのリビングではなく、家という建物には全くそぐわない岩の壁だ。

 家を出る前には絶対なかった異様な物の存在に、リゥは無理解を顕にした声を漏らす。


「――おかえりー!!」


 目の前の岩に眉を顰め、謎の壁に手をかけようとした瞬間。リゥの手が触れる直前にその壁は音もなく消え去り、その奥から現れたアキラたちが大きく叫ぶ。


「おぅわっ!? ――え?」


 突然消えた岩の後ろから出てきたアキラたち。そんな彼らの大きな声に目を丸くし、リゥは瞬時に腕を引き体を仰け反らせる。

 そしてそんな驚愕の直後、リゥは今までに無いほどまでに装飾された部屋に目を奪われていた。


「ど、どうしたんだ……? これ……レツたちも……」


「サプラーイズ! リゥくんを驚かそうと思って、レツくんたちにも協力してもらったの!」


「そーゆーこと! 今日は俺様たちが兄貴を饗すぜー!」


 今までの積もりに積もった感謝は、とてもでは無いが一晩で返せるものではない。しかし、返せないからこそ、少しでも地道に返していくことに意味があるのだ。


「そしたら早くご飯にしよー! 俺もうお腹減ったー!」


「もー。翼じゃなくて龍翔くんのためにサプライズしてるんだよー? まぁ今日は翼のお陰で準備が出来たからいいんだけど……って――ぁ」


 直前にあったレツの言葉から、もう既に完全にズレている翼。しかし、リゥと翼が昼食を摂った時間は同じだろう。そんな翼が空腹なのであれば、それはリゥも少なからず同じような状況ということ。

 そしてそれは翼の言葉に突っ込んだ蓮にとっても例外ではなく、きっとこの場にいる全員が同じ状態だ。

 が、しかし。一度首を振った蓮が全員に共通するその状態に気付き言葉を改めた直後。蓮は何かを思い出したかの如く目と口を丸くし、それを近くで聞いていたアキラたちも同じく声を漏らす。


「どうしたの?」


「――そういえば、ご飯……作ってないや……」


「――――」


 蓮の言葉に翼は耳を疑い、その視線から蓮を含めたリゥ以外の全員が視線を逸らす。


 想像以上の完成度で仕上がった装飾に満足し、その余韻に浸ったまま思い出話に耽ったアキラたち。「もてなし」には欠かせない食事を完全に忘れていたアキラたちは、もう既にリゥも翼も見ることが出来ない。


「――ふっ、ふふ……っ」


 沈黙が続いたその空間で、きっと一番大きな音はアキラたちの速く大きくなっている鼓動だろう。リゥと翼の二人以外が何もかもから完全に目を背け冷や汗を流す中、ゆっくりと今日一日の状況を把握したリゥは愈々笑いが堪えきれなくなっていた。


「――さ! 夕飯でも作ろっかな!」


「ああああああああああああああああああ!!! 次!! 次こそ絶対にリベンジする――!!!」


 完全に失敗したアキラたちのサプライズにリゥは敢えて何も触れず、延々と目を背け続けるアキラたちの横を歩き腕を捲りながらキッチンへと向かう。

 そんなリゥが通り過ぎると、天を仰ぐようにして大声で叫ぶアキラ。


 そして似たりよったりな反応をしている優輝や十二人衆たちを前に、リゥはいつになく笑顔で夕飯の準備をしていた。

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