表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
11/146

3話:初日の終わりと日常の始まり

「――ふぅ、楽しかったなー」


「そーだね! こんなに楽しめるなんて思ってなかったよー!」


 そんな会話をしながら、パーティを終えた龍翔と晟は宮廷を出て繁華街を歩いている。


「そう言えば、ここってどういう所なの?」


「ああ、そう言えば言ってなかったな。ここはこの世界の中心、『聖陽郷(せいようきょう)』って呼ばれる場所だ。そして今いるのが中央陽都の『セント』だ。そこから東に「イータン」西に「ウェータル」南「サグラス」北「ノーマント」っていうそれぞれ大きな街がある」


「じゃあこの世界は、五個の大きい国に別れてるってこと?」


「まぁそんなところだな。東は工業が盛んな街で、ほかの国より機械技術とかが進んでるな。西は商業とかが盛んで個人店舗が多く、色んなものが売ってる。南は自然が豊かで、農林水産業の全てが盛んだ。観光地としても知られるな。北は鉱山が多いから、鉱業が盛んだ。んでそういうのがこのセントに運ばれて取引される。それら五つ全てひっくるめて『聖陽郷』だ」


 新しい世界の説明に、晟はかなり興味津々だ。今までの世界とは全く異なる様子の世界に、晟も期待が高まっている。


「それでそれで! 次ってどこ行くの?」


「あぁ、次は家だな。俺は元々住んでた家があるけど、晟はどうする? 候補としては、宿泊施設に泊まるか、俺が言えば宮廷に泊めてもらうことも出来るし、あとはマンション的なのを借りることもできる。若しくは俺の家に来てもいいぞ?」


 家。確かに今日来たばかりの晟は、寝泊まりする場所がない。そんな晟のことを考えて、いくつか候補を出した龍翔。そして晟が選んだのはもちろん、言うまでもないだろう。


「な、なら! えっと……龍翔くんの家に行きたい、かな。他はなんかよく分からないし……もし、龍翔くんがいいなら……」


 少し恥ずかしげに下を向き、頬を赤らめながら話す晟。そんな晟を見て龍翔は一瞬キョトンとするが、その後晟の頭に手を乗せて優しく微笑む。


「いいよ。晟が来てくれるなら俺も暇しないし、晟なら大歓迎だ! 断られると思って一番最後にしたんだけど、それでも選んでくれて嬉しー!」


 そんな龍翔の言葉に、今度は晟がキョトンとする。スキンシップが異常に多いのに対し、変なところで自分を過小評価するのが龍翔だ。

 今回もまた何故か断られると予想していた龍翔にプッと吹き出し、それにつられて龍翔も笑う。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


「わぁ! ここが龍翔くんの家!? めっちゃ広い!」


 今日だけで既に何度目になるか分からないはしゃぎ声。それは同棲生活を決めて龍翔の家に着いた晟の声だ。


 そして目の前に広がる光景。立派な門のある敷地に、その奥には視界いっぱいに広がる庭があり、更に奥にある大きな家。大きいではなく、広いという晟の表現。それはこの光景にピッタリの言葉だった。

 フェンスに囲われた敷地の大部分は、建物ではなく庭。家も普通の家と比べれば遥かに大きいが、それ以上に庭が広い。そして庭には池や花、砂場やアスレチックのようなものもあり、公園や屋外遊戯場に似ている。そんな庭をキョロキョロして目を輝かせながら、晟は龍翔の後ろを歩き建物へと向かう。


「この庭広くない? これ全部龍翔くんの土地?」


「そうだよ。四天王とかは仕事が多いわけじゃないけど、一回の仕事の規模が大きいから。ってゆーか、団体で行う様な仕事を一人で何人分もこなしたりするんだよね。だから貰う額も多くなるってわけよ」


 やはり四天王という存在は、それだけ重宝されているらしい。これだけ良い扱いを受けていながら街の人々が嫌な目をしていないのは、それだけ街の人にも影響があることをしているのだろう。

 どんなことをしているのか具体的にはまだ分からないが、そのくらいの予想は晟にも出来る。


「あれ? 鍵とかそういうのはないの?」


「あー……流石に俺らの家に入り込むようなやつなんて居ないよ。それに、いたとしても入り込めない」


 家に着き、そのままドアを開ける龍翔に首を傾げる晟。すると龍翔は軽く笑い、庭に向かって指笛を鳴らす。

 直後、庭の草木のがガサガサと動き――、


「え、なにあれ……?」


 声を震わせる晟の目先。そこには、動物のような生き物が沢山顔を出している。馬のような生き物から狼のような生き物、犬や猫のような小さな生き物もいる。


「あれは俺が飼ってるペットだ。賢いやつらばっかりで、俺とか四天王とかそういう関係者以外の人間だけが入れば容赦なく襲いかかる。とはいえ、俺もこれだけ容姿が変わってるとさすがに襲われるかもとか思ったけど……やっぱり頭いいな。これだけ変わっても襲ってこないか」


 そんなもしもの怖い話をしながら、平然と笑っている龍翔。そして出てきた動物たちに手を振ると、くるりと後ろを向き家の中に入る。


「さぁ、ここが俺の家だ。靴はてきとーに置いとけばいいよ」


「あ、うん。おじゃましまーす」


「今日から晟の家でもあるんだから、ただいまでいいでしょ」


「あ、そっか。ただいまー」


 そんな龍翔のツッコミをサラッと受け入れる晟。意外とすんなり受け入れる晟に龍翔は少し驚いた感じでいたが、それ以上は触れないでおく。


「んーと、ここがまずリビングだ。んでそこがキッチン。んで向こうが風呂で、一階のトイレはあっちな。んであっちが来客とか来た時用の客間で、向こうは寝室。んで次は二階か……」


 そう言って軽く一階の説明をしたあとに、龍翔と晟は階段を上る。


「でも二階はほとんど使ってないからな。一番奥が物置みたいになってるから、その他の部屋を好きに選んで自室にしなよ。因みにトイレはあそこな」


「あれ? 龍翔くんの部屋はないの?」


「あー、元々一人だったし、あんまし使ってなかったからな」


 そんな風に笑う龍翔を見て、晟は階段に一番近い部屋を自室に決める。家が大きいため一つの部屋もかなり大きく、ベッドや机、その他の家具を置いても十分に余裕があるだろう。そして尚且つクローゼットのようなものもついていて、この家に不満を覚える理由が見当たらない。それだけ充実している家に、これから龍翔と二人きり。今からワクワクが止まらないでいるのは言うまでもない。


 そして二人は晟の荷物を持ってくれているクロの元へ向かい、荷物を受け取りその足で買い物をして戻ってくる。


「じゃー、そろそろ日もくれてくるし、飯食う? 簡単な物ならすぐ作れるけど」


「龍翔くんご飯作れるの!? 食べる食べる!」


「まぁ簡単なのしか作れんけどなー」


 そう言ってキッチンに向かい、ついさっき繁華街で買ってきた食材を出し慣れた手つきで料理を始める。

 そして初めて振る舞う手料理として出したのは、手料理の定番で簡単な材料でできるもの。ハンバーグだ。


「いただきまーす!」


 二人きりで食べる、最初の夕飯。決して豪華なものでは無い一般的な料理だが、二人にとっては特別な味がした。


▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 そして夕飯を食べ終わったあと、晟を連れて家の奥に向かう龍翔。玄関とは反対にある裏口に向かい、そこから外に出る。

「おー! これってもしかして温泉!?」


「そだよ! いいでしょ、露天風呂」


 晟の目の前には、白い湯気を立てている温泉がある。周りは木のフェンスと竹に覆われていて、床は綺麗な石造り。かなりの広さと風情のある、本格的な露天風呂だ。


「ね、晟。一緒に入らん?」


 冗談っぽく笑いながら晟の肩に抱きつく龍翔。そんな龍翔の言葉に驚いた晟は目を丸くする。しかしその後下を向きながら、晟はかなり小さい声で呟いた。


「――別に、いいけど……」


「お、まじで!? ……って、あれ? 照れてる? ねぇ照れちゃってる? 可愛いなぁー!」


 下を向いて龍翔から視線を逸らす晟に、龍翔は笑いながら煽る様に言葉をかける。


「――ぶはっ!?」


「もう! うるさいの!」


 晟の怒り(照れ)の一撃を顔面に食らう龍翔。しかしその攻撃は、お湯をかけるというなんとも可愛らしい攻撃だった。

 そして二人は夜景を楽しみながら温泉に浸かり、今日一日の疲れを流す。

 色々ことがあった一日。今日あったことを思い出しながら、晟も恥ずかしさを忘れて二人は楽しく喋り続ける。恥ずかしさではなく、熱さで顔が赤くなるほど時を忘れて長風呂を楽しんだ二人。


 そして温泉から出た後、それぞれ寝間着に着替える二人。するとやはり、ここでも龍翔はテンションを上げる。


「やっぱ寝間着可愛いなー! 持ってきて正解だったぜー!」


「そんなことないから! やめてよ!」


 そう言って、笑いながら抱きつく龍翔に頬を赤らめて否定する晟。しかしそれは言葉を否定するだけで、抱きつく龍翔に抵抗はしない。


「あ、そうそう。ベッドとか部屋とか他に色々あるんだけど、今日は俺と同じベッドな! 一人用だけど、まぁ晟は体も小さいしそっちの方が距離も近いからいいなっ」


 そんな風に笑って晟に抱きつき、一人で解決する龍翔。それを晟は全く拒もうとはしない。寧ろそれを無言で肯定している節もある。恥ずかしいのか肯定の言葉は出さないが、頬を赤らめて沈黙している姿は肯定と取ってもなんら問題はない。恥ずかしさから来る無言の肯定がまた愛らしく、それを見て龍翔は万遍の笑みを向ける。


「……もう寝るよっ! おやすみー!!」


「あー! もう、そうやってまたぁ……まぁそういうのも可愛いからいいけどなー」


 ずっと恥ずかしがっている晟は、顔を見せないようにくるっと後ろを向いて寝る。

 そんな晟を見てニッと笑い、晟の傍に寄り軽く肩を抱く龍翔。そして耳元に口を持っていき――、


「ふふっ……おやすみ。可愛い可愛い晟くん?」


 そう小声で呟いて、笑いながら元の場所に戻る龍翔。

 その声を聞いて、今まで以上に顔を赤らめて布団に潜る晟。

 今日はやはり、二人にとって最高の思い出の日となった。


 そしてこれから始まる日常の、新しい幕開けともなる。


 事件盛りだくさんの一日が漸く終わり、事件盛りだくさんの日常が始まるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ