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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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85話:主郷と天使

 リゥを引き止めた大全師の言葉に、その場の空気が俄に急転。大全師の言葉に全員が目を剥き、その中でも一番の反応を見せるのはやはりリゥだ。全く力の入っていなかった体に、緊張からか希望からかは分からないがかなり強い力が入った。


「覚えてる……だと?」


「ええ。覚えていますし、知っています。不甲斐ない限りですが、憑依されながらもその光景を()から見ていたんです」


「じゃ、じゃあ……全部、分かるのか? 俺のことも、ここのことも……!」


 暗く澱んでいたリゥの瞳に、生気や活気と表される光が再び灯る。


「――元より、皆使い捨てだったのでしょうな。彼奴の憑依――正確には人格憑依(ドネイト)と言う能力ですが、それに罹った者は全て憑依を解かれる前に死んでいる。だから、憑依を解いた後の事や憑依している対象の人格の行方は知らなかったのでしょう。勿論、こちら側も記憶を共有(リンク)出来ていたことも……」


「記憶を、共有(リンク)……?」


 大全師の言葉に首を傾げたのは、リゥだけではない。大全師に憑依していた男のことについてほぼ何も知らないリゥたちは、シロやクロも含め全員がその首を傾げる。


「――タイラント・グラトニー。それが、彼奴の本当の名です」


「タイラント・グラトニー……何でそれが分かる?」


「彼奴の能力、人格憑依(ドミネイト)は、人格を奪った相手を内側から完全に支配し、記憶をも自分のものにするのです。だから、私の口調や人格を数十年間演じきることが出来た。しかし、向こうがこちらの記憶を知れるように、こちらも向こうの記憶を覗く事が出来たのです」


 人格を奪い、成り済ます為に記憶にも干渉出来るタイラントの能力。しかし、その能力にも盲点とも言える欠点があった。

 記憶の干渉は一方通行ではなく、まさに共有。お互いに双方の記憶を知ることが出来る。


「――なら、あいつの言っていたことが本当かどうかも分かるか? 七人の幹部と、本組織の存在、裏世界に拠点を置くこと……」


「ええ。彼奴の言葉、その全てが事実です。組織の名前は特に無し。裏世界に拠点を置き、戦闘と蹂躙を繰り返してその勢力を拡大させています。今や裏世界のほとんどが奴らの支配下にあるらしいです」


「そんな連中が何で俺を引き込もうとしてたんだ? 邪陰郷に入れってことは、その組織に入れたかったってことだよな?」


「奴らの目的は、裏世界を支配しきってからこっちの世界にも侵攻すること。しかし、こっちの世界にも龍神族や鬼神族がいるように、向こうの世界にもそういった位の違う種族はいる。だから大きな戦力となりそうなリゥを引き入れ、その戦いに参戦させたかったのでしょう」


 タイラント・グラトニーと、その男が属する無名の組織。タイラントの言葉や情報に嘘は無かったが、やはり大事な情報は足りていなかった。知られてもいい情報の中でも聖陽郷に利益のありそうな情報を自ら渡すことで、それ以上の詮索を避ける。彼らの目的は、大方そう言ったことだろう。

 しかし、大全師の体が生きている状態で憑依を解いたためにタイラントの知る全ての情報を全て知ることが出来た。これは、向こうにとってもリゥたちにとっても大きな誤算だ。


「なるほど。俺を求めてたのは戦うための戦力を得るため……だったが、その目的の途中でそれが無理だと判断し、いつか敵となる可能性を考慮して早い内に倒そうとした」


「ええ。しかし、そんな変更した計画の中でリゥが早くもその本来の力に目覚めてしまった。そこで彼奴は今倒すことは不可能と悟り、私から憑依を解いて本拠地に撤退。今頃は、事の顛末を報告している頃でしょう」


 当初の計画の変更と、さらにその計画の頓挫。アキラを一度人質に取られ宮廷やその周辺にも被害は出たが、今回、向こうの思惑通りにはいっていない。

 しかし、それで安心していられるほど最高の結果だったとも言えないのが現状の事実だ。タイラントを仕留められなかった時点で、計画の失敗や聖陽郷の状況が向こうに流れるのは時間の問題。更に、もう数時間で大全師とクロは命を落とし、セントの復旧も迅速に対処しなければいけない。




「――リゥ様。お話の途中で申し訳ないのですが、少し、姉様と二人きりになって来ても宜しいでしょうか?」


 大全師からの情報を元に、次の行動に首を捻ったリゥ。

 そんなリゥの無言で出来た沈黙の時間に、クロが静かに手を挙げた。


「いいんじゃないかい? 今まで、僕たちや聖陽郷のためにずっと尽力してくれていたんだ。最後くらい、姉妹水入らずで落ち着いて話したいことくらいあるだろう」


「そうだな。最後の時くらい、何も気にしないで二人きりになっても」


「ありがとうございます。――では姉様、行きましょう」


 最後のクロの願いを、迷うことなく快諾するレイ。そんなレイの判断にはリゥを初めとした全員が賛成で、快く微笑みながら首肯する。


「――あ、やっぱちょっと待ってくれ」


「はい、何でしょう?」


「シロ、アレ(・・)出してくれるか?」


「アレ……ああ、分かりました。――こちらで宜しいですか?」


 扉に手をかけ部屋から出ようとしたクロを呼び止め、シロに向かって手を出すリゥ。そんなリゥの『アレ』という言葉に一瞬首を傾げるも、その後直ぐにシロはその言葉を理解する。そして、差し出されたリゥの手のひらに被せるようにして手を出した。


「――! それって!」


「ああ。こっちに着いた時から、ずっと持っておいて貰ったんだ。俺が持ってると戦う時邪魔になるし、シロなら直ぐに出せるし転送も出来るからな」


 被せられたシロの手とリゥの手の間に出現し、その後リゥの手の上に落ちた黒く薄い板。それは、龍翔がこっちの世界に来る時に持って来ていたスマホだ。


「先ずはシロとクロのツーショットだ。そこ、二人で並んで」


「――こう、ですか?」


「リゥ様、一体何を?」


 そう言って、スマホを片手に持ちながら戸惑っているシロとクロをドアの前に並べるリゥ。

 服や髪の色が異なり、後は左右を反転させただけのようなシロとクロ。酷似と言うよりも同じと言った方が適切になりそうな二人が強ばった表情で全く同じ体勢で並び、リゥは若干口角を上げてシャッターを切る。


「はい次、俺ら四天王も入るぞ。ついでにゼン……今は大全師か。アキラ、ちょっとお願い」


「あ、うん!」


 シロとクロのツーショットを撮ったリゥはその後アキラにスマホを渡し、レイたち三人と大全師を連れて一緒に二人の周りに並ぶ。


「ま、待ってくれリゥ。これは何だい?」


「いーからいーから。ほら早く並べって! ――よし、これでいいか?」


 戸惑いながらその場に止まるレイの背中を押して無理矢理移動させ、それらしく並べたリゥ。

 そんなリゥの確認に、アキラは画面を覗きながら首を傾げる。


「うーん……ゲンさんがもうちょっと右かな」


「俺か?」


「そうだお前だ。ここにゲンはお前しかいねぇ。アキラの言う通り右にいけば……良くねぇな。アキラから見て右ってことか。ゲン、左にズレろ」


「あそっか、ゲンさんから見れば左か……」


「何がしたいのかよく分からんが……」


 アキラの覗く画面に、右半分が欠けて写るゲン。そんなゲンを移動させるべくアキラが指示を出すが、向いている方向を考慮せずに見たまま指示を出されたゲンは首を傾げながら右に移動。その違和感にリゥも首を傾げ、アキラの純粋なミスを気付く。

 スマホとカメラを知らずに戸惑うレイたちと天然なアキラをカバーしつつ、漸く立ち位置が決まる。


「じゃー撮るねー! はい、チーズ」


 そう言って、スマホのシャッターを切るアキラ。

 その後も十二人衆やアキラたちを入れて何枚か写真を撮り、たった数枚の写真で十数分が経ってしまった。


「――よし、よく撮れてんな」


「それ、本当に何なンだよ? いい加減教えろ」


 スマホのアルバムを確認し、満足そうに頷くリゥ。そんなリゥの持つスマホを後ろから肩越しに覗き、ゴウが眉間に皺を寄せながら声を掛ける。


「これはあれだよ、スマホ。こっち来る前に卓球台とかと一緒に持って来ただろ。んで、このスマホの機能にカメラってのがあって、その時の人とか場所を写真って言う絵みたいな感じで収めんの」


「ン? ――おお! 板の中に小せぇ俺らがいるじゃねぇか!」


「――――」


「なンだよ?」


 後ろから覗き込むゴウに画面を見せながら説明し、何やら既視感のある反応に直面したリゥ。

 ゴウの在り来りで何の面白みもない反応に、リゥは目を細めて冷たい視線を向ける。


「いや。お前がそんな反応しても可愛くねぇなって思って。――アイとかの方が適任だったな」


「はぁ……?」


 何も萌えなかったゴウの反応に嘆息し、一番に見せる相手を間違えたと心から後悔するリゥ。そんなリゥの言動に全く無理解のゴウは、再び眉間皺を寄せて首を傾げる。


「まぁいい。――クロもシロも、時間取らせて悪かったな。残りの時間は、二人でゆっくりしててくれ」


 クロの挙手から写真撮影で二十分ほどが経過してしまい、短い時間を更に削ってしまったリゥ。二人の貴重な時間を割いたことに気付いたリゥはゴウとの会話を一旦切り、その視線をクロとシロの二人に移す。


「あ、はい。ありがとうございます。――リゥ様。もし宜しければ、その写真……ですか? それを拝借しても宜しいでしょうか?」


「ん? ――ああ、そうだな。全然いいぜ。出来ればその画面から動かさないでくれると助かるけど……」


 クロの出願に、苦笑いをしながらスマホを渡すリゥ。リゥの龍翔時代を知っているアキラたちならその理由に検討もつくだろうが、それを知らないクロたちにはリゥの発言の意図が分かるはずもない。

 しかし、スマホを渡すことに抵抗があるのは思春期の子どもの性だ。まぁ、リゥが気にしているのはアルバムや検索履歴だろうが。


「――? え、ええ。操作方法も分からないので、大丈夫だと思います」


「ん……まぁ、それもそーだな。うん」


 案の定、リゥの言葉に首を傾げるシロとクロ。そんな二人にリゥも多少の不安を押し殺して微笑みながら頷く。


「――それでは、お先に失礼します。ほんの数日、数ヶ月、数十年、数千年とお世話になった日数は異なりますが、皆様と過ごした時間は、その刹那までかけがえのないものでした」


「ああ。俺たちもそう思う。二人には、いつも世話になった。特にアキラたちのこと、身を呈してまで守ってくれて、本当に今までありがとう」


「俺も、俺の壊しちまった場所の修復とか、マジで迷惑かけた。結構仕事増やしちまってマジですまン。――でも、すンげぇ助かった。ありがとな」


「僕はリゥやゴウに比べて迷惑はかけてないと思うけど、その分一緒に仕事して助けられたことは数多くと自覚している。一緒にしていた仕事は、本当に楽しかったよ」


「――俺も、直接関わることは少なかったが二人がいるだけでどこか安心出来る面があった。特に、レイがいないとリゥとゴウの二人には心配があるからな。長い間、本当に有難う」


 ドアの前で踵を返し、深々と頭を下げたクロ。そんなクロの言葉にリゥたち四天王も続き、各々が短く纏めた別れの言葉を贈る。

 そして一頻り四天王が話し終えると、ゲンは後ろで沈黙している大全師に目を向けた。


「――最後だ。アンタも、何か言ったらどうなんだ?」


「――いいえ。私に、そんな権利など……」


「権利などの話じゃない。伝える感謝や労いの言葉があるかどうかだ。ここ数十年を除いても、クロとは数千年の時を共に過ごしていたんだろ?」


 ゲンの促しに下を向いたまま首を横に振った大全師の言葉を、途中でリゥが一刀両断。そんなリゥの言葉に、色々と追い込まれていた様子の大全師の目の靄が微かに晴れる。


「――今までの、御身の働きに……心より、感謝を申し上げます……私の築いた聖陽郷に忠誠を誓い、発展やその他様々な事に尽力してくれたことに、心から感謝を……」


「お言葉ですが大全師様、私は天使としてやるべき事をやったまでです。そしてそのやるべき事を与えてくださったのは、主郷である大全師様……一人の人間としての感謝ではなく、聖陽郷を統べる主郷としての労いの言葉を頂きたく思います」


 ゲンとリゥの言葉に諭され、つまりながらも感謝の言葉を述べた大全師。しかし、その言葉を受けた当の本人は納得のいっていない様子。

 未だ自責の念に駆られている大全師はそんなクロの様子に戸惑うが、クロにとって大全師とは聖陽郷を統べる主郷。そんな存在を前に、クロはその場で片膝を突き再び頭を垂れる。

 そしてそのクロの姿にゴクリと息を呑み、大全師は再びゆっくりと口を開いた。


「――今まで、私や歴代の四天王に仕え聖陽郷の為に尽力してくれたクロよ。数千年に渡る其方に、数多くの者が救われたことだろう。そしてそれは、私も例外ではない。――大義であった」


「――有り難き幸せ。聖陽郷の末席に加えてくださり、更には天使の名を与えて頂き貴方様のお役に立てたこと。これ以上の栄誉はありません」


 大全師の主郷としての言葉を受け、頭を上げないまま言葉を返すクロ。最後に主郷と天使としての会話を終え、クロは職務を全う出来た自覚と共に清々しい笑みを浮かべた。


「それでは、お先に失礼致します。皆様のこれからのご武運を、心よりお祈り申し上げます」


 そう言うと、クロはシロと共に部屋を退室。シムの案内で部屋を移し、最後の時を姉妹水入らずで過ごす。

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