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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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81話:アキラの覚悟と晟の想い

 ――負けた。


 リゥの中頭の中には、ただ一つ――その言葉だけが浮遊していた。


 クラフト抑制剤。血液中に流れるクラフトの活動を抑制するために血管を広げ、暴走を防ぐ。同時に血圧も下がるため頭に血が上るのにも時間が掛かり、考える時間が与えられたリゥは判断力も増した。

 しかし、その効果時間が切れるまでは真面に想術が使えない。発動が遅くなり威力も弱まり、大規模な想術はそもそも使えない。また、クラフトの巡りが遅くなれば体も普段通りに動かすことすらも困難で、思考から行動までに多少のラグが生じる。

 抑制剤を使用したのは、ノーマントに来る前の移動中。あれから一時間半ほど経過した後にゼンジと戦闘を始めたため、残り十数分ほどで効果は切れていたはず。

 しかし、それよりも先にゼンジが気付くのが早かった。


 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼


「――さぁ、愈々この時を以て、お前は終わりだ」


 一歩一歩、ジリジリと確実に其の距離を詰めるゼンジ。そのゼンジの歩に合わせ、リゥの終わりも刻一刻と迫っている。


 しかし、完全に気を失ったリゥの意識は戻って来ない。目の前の勝利にゼンジは口角を上げ、ゆっくりとトドメを狙う。


「リゥくん!!」

「龍翔くん!?」


「リゥ様! ――っく!」


「早くしないとリゥ様が……でも二人を相手にしていては――!」


 地面に倒れピクリとも動かないリゥに、アキラや優輝、シロたちが叫ぶ。しかし、誰一人としてその声をリゥには届けられず、シロとクロも邪陰郷の直属幹部を相手にしていて近付けない。

 ゼンジの攻撃に警戒しシロとクロの結界で守られているアキラたちは、その二人が倒されない限り内側から外に出なければ守られている。よってシロとクロは自分の戦闘とリゥへ意識を向けられるが、リゥを助けに行けばその不意を突かれる。幹部からの攻撃ならまだしも、ゼンジから攻撃を受ければただではすまない。そうすれば、アキラたちの安全が確保出来なくなる。

 リゥを取るかアキラたちを取るか、四天王であるリゥに仕える天使としては、どちらも取らなくてはならない。どちらか一方しか選べない二つに一つの選択に、シロとクロは戦いながらも頭を悩ます。


 そして天使が一生経っても決断できないであろう状況に頭を悩ませ、ゼンジが勝利を確信していた瞬間――、


「――リゥくんッ!!!」


 叫び、自ら結界の外へ出た影。足場の悪い地面に足を取られながらも全力疾走でリゥの元へ駆け抜けたのは、他でもないアキラだ。

 リゥの元へ駆け寄ったアキラは倒れているリゥの顔を手で持ち上げ、突然の出来事に足を止めたゼンジをキッと睨み付ける。


「――ふっ、何だ? 天使が捨て身で助けに来るのかと思えば、リゥに付いていることしか出来ない足枷同様のガキじゃないか。こんな所でお前が出てきて何になる?」


 数メートル先でリゥを抱えるアキラを、鼻で笑うゼンジ。

 事実、アキラがリゥの元へ来たとしても何も変わらない。アキラがゼンジを倒せるわけもなく、自ら自分の命を危険に晒しただけだ。


 しかし、人生には無理だと分かっていてもやらなければいけないことがある。限りなくゼロに近い可能性にも、賭けなければいけないことがある。

 例え世界中の全員に無理だと否定されても、その可能性がゼロでないなら――、


「――リゥくんは俺が守る!!」


 その可能性に、アキラは全ての想いを賭ける。


 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼


 晟が龍翔と出会ったのは、中学入学の直後。まだ何も分からない晟が放課後に一人で学校内を彷徨っていると、不良らしき三人組に絡まれた。

 腕を捲り上げ、学ランのボタンを開けてワイシャツを出す。短ランや長ラン、まして特攻服でもないため一応は学校指定のものであるが、やっていることは殆ど校則違反。典型的な不良スタイルだ。


「――よぉ、お前一年かよ?」


「え、あ、はい……そうですけど……」


「そうかそうか。じゃあよ……金、くれる?」


「――え?」


 あまりにも突然で突拍子も無さすぎる発言に、晟の思考が停止した。

 しかし、今の言葉は決して幻聴などではない。目を丸くして唖然としている晟の肩に、不良らしき三年が不敵な笑みを浮かべながら手を置く。


「だからさぁ? かーね! 金をくれって言ってるわけよぉ……」


「え、いやでも学校にお金は……」


「知らねぇよんなもん。バレなきゃいーだろバレなきゃよ!」


「で、でも今は、その……も、持ってなくて……」


 晟の言う通り、この学校は財布や携帯電話などの持ち込みを許可されていない。その校則に従い晟も財布など持っていなく、要求を飲み込むことは出来ない。

 しかし、この手の不良はそんなことなどお構い無し。財布の有無を問わず――と言うより、このタイプの不良は持って来ていないであろう真面目そうな人間に絡む。


「今から持って来りゃいーだろぉがよぉ……先輩の言うことは聞いといた方がいいぜー?」


「そーそ。君、これからこの学校に来れなくなるよ?」


「一年生の一学期から不登校なんて可哀想でちゅねぇー」


 先頭に立っている一人は、オラオラ系の見るからに厳ついタイプ。その後ろには静かに威圧感を発揮する、実はかなり冷酷無比な一番怖いタイプ。そしてその横には煽り口調が実に癇に障る虎の威を借る狐タイプ。

 典型的な不良の三人組に、人気のない校舎裏。このままでは、本当にこの学校に来れなくなる。そう悟った晟は、入学早々の事件に泣きそうになった。


「――はぁーあ、やっぱりいたかぁ……」


「――! あぁ!?」


 口を結び、今にも泣き出しそうになった瞬間。突然降り注いだ声に、晟の涙が止まる。

 そしてその声に、三人組は晟から視線を外し怒鳴りながら辺りを見回す。


「三年に上がったからって急にイキりだして一年生とかに絡む奴……先生の前だと学ランのボタン開けたりしないくせに、放課後人目のつかない所でイキる奴って多いんだよなぁ……」


「チッ、何処だよ!? 誰だオラッ!」


 声は聞こえど、その声が何処から聞こえる誰の声なのかが分からない。どれだけ周囲を見渡しても見えないその人影に、三人組の不良は明らかに怒っている。


「上だよ上。ただ今特等席から事件の概要を録画中でーす」


 そんな煽り口調の言葉に上を見上げると、二階のベランダの柵にしゃがみこんでデジカメを構えている人影が見える。そしてその人影はカメラを顔の前からどかし、下にいる三人組を嘲笑うように笑みを浮かべる。


「テメェ、天野!」


「おーおー。俺のこと知ってんだー。俺も結構有名人? まぁそれも当たり前っちゃ当たり前か。あんだけ仕事頑張ってりゃーな。ま、俺はお前らのこと知らねぇけど」


「あぁ? 同じクラスだろうが! ナメてんのかテメェ!」


 デジカメ片手に煽っていたのは、当時の天野龍翔。この時出会ってから一年半ほど経った今も、この日この時の衝撃的な出会いは鮮明に残っている。


 この時から、龍翔は晟の中で大きな存在だった。


「っれ、そうだっけか? まぁただのイキリにゃ興味無いからな、俺。色々忙しいし」


「あァ!? テメェだってイキってんだろうが! 俺らが怖ぇからそんなとこにいんだろ!」


「うーわ、だっせぇ勘違いと挑発。お前らの悪事を録画する為に上にいたんだっての。因みにこれ、先生に渡された生徒会のやーつ。さっさとどっか行きな。立場上、これ職員室持って行かなきゃいけなくなるぜー?」


 二階から見下ろしている龍翔に、怒鳴りながら中指を立てる不良。しかし、そんな不良の挑発に龍翔は決して乗らない。学校の名前が書いてあるテープを見せ、そのデジカメをクルクルと回す。


「どうせ俺らがいなくなったって渡すんだろテメェ! こっち降りてこいや! じゃねぇとこのガキどうなっても知らねぇぞ!」


 全く挑発に乗らない龍翔に、晟を掴んで人質とする不良。そんな不良の行動を見て龍翔は「はいはい」と言いながら柵から降り、その姿が見えなくなる。


 自分だけでは全く解決出来なかったであろう状況に、その状況を打破できそうな龍翔が現れた。そんな奇跡的な出来事に、当時の晟は心底ホッとしていただろう。

 しかし――、


「ハッ、やっぱりアイツは馬鹿だな。おい、何か用意しろ。バットの一本でも使えばあんなイキリ一発だ」


 ――この一言に、晟は目を丸くした。

 自分が助けてもらえるという喜びに、龍翔の危険を考えていなかった。このままでは、龍翔がここに来たと同時に喧嘩が始まる。

 一対三で相手が武器を持っていたら、余程のことがない限り勝てない。龍翔をよく知らない晟と不良三人組の思考は全く同じだった。


 しかし、天野龍翔という男はそんな一般論に収まるほど普通の男ではない。


「――考えることが雑魚なんだよォッ!!」


 瞬間、武器を手にして待ち構えていた三人組の上から、その場を離れたはずの龍翔が跳んできていた。


「なっ、てめ……ぅぁっ!」


「おい、何やって……るぁっ!?」


 二階から跳び降りて来た龍翔は、着地よりも前に先ず一人に蹴りを入れ、着地した直後にもう一人の顔面を掌底で穿つ。

 二階から跳び降りている最中に、相手の顎を蹴り上げる。立っていても素人には難しいそれを空中でやってのけた龍翔に、晟も不良もただただ呆然とする他にない。


「おら、まだやんのかよ? お前らじゃ俺には勝てねぇ。分かったらそいつら連れてさっさと消えろ」


 目の前の状況にあんぐりと口を開けている煽り役に、顎で指示する龍翔。追い討ちをかけるでもなく、煽るでもない。すぐにこの状況を収拾しようとする龍翔のクールな姿勢に、この時晟は心から尊敬の念を抱いた。


「――君、大丈夫?」


「あ、え……は、はい。大丈夫です……」


「そっか! 良かった良かった。もうちょっと早く来てれば良かったんだけど、見回りの前に部活に顔出しててさ。怖い思いさせちゃってごめんね?」


「い、いえ! 助けてもらえただけで良かったです! 本当にありがとうございました……!」


 あっという間に二人を倒した龍翔に、ダッシュで逃げる三人組。そんな三人組が見えなくなると、龍翔は優しく微笑んで晟の頭を撫でる。


「君、名前は? 一年生でしょ? なんでこんな所にいるの?」


「あ、えっと……紅月晟って言います。どの部活に行こうか迷って歩いてたら、こんな所に来ちゃって……」


「そっかそっかー。確かに初めてじゃ迷うよなー。もしまだ部活決めてないなら、うちに来たらどお? 卓球部なんだけど、体育館の二階で練習してるから。もし時間あるなら今からでも見学来る? 一応ちょっと職員室寄ってからじゃないとあれだけど」


「あ、はい! 是非!」


「ん! じゃー行こっか! えーっと、晟くん?」


 この日初めて出会った自分の為に、危険も顧みずに不良三人を撃退。その後もそのまま放置ではなく、困っていた晟の手を優しく微笑みながら引いてくれる。前者はともかく後者は良く考えれば当たり前だが、この時の晟はそんな当たり前のことに心から救われた。


 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼


 ――憧れだった先輩の背中を追って隣に並び、晟はその大切さを身に染みて実感した。そしてそれが段々と好意に変わっていることも、晟は薄々感づいていた。


 しかし、そんな龍翔に晟は素直になれず、それはこっちの世界に来てからも同じ。二人きりになり少しは素直になれたはずだが、それでも一番伝えたい想いは未だに伝えられていない。


 伝えられずに終わりたくない。終わらせたくない。まだまだ伝えたい想いがあり、龍翔にも、リゥにも、返さなくてはいけないものがある。


 だから、だからこそ――、


「――俺がリゥくんを、龍翔くんを! 今度は、俺が助ける番!」


 未だ意識の戻らないリゥの顔を強く抱き締め、アキラはゼンジを睨みつけたままそう啖呵を切った。


「――くだらないな。なら、二人まとめて死ねばいい。二人同時にあの世へ行け」


 アキラの啖呵にゼンジは深く嘆息し、数メートル離れた場所からアキラとリゥを目掛けてゆっくりと手を伸ばす。

 明らかにトーンの落ちたゼンジの声に、アキラの脳内ではこれまでにないほど激しい警報音のようなものが鳴っている。アキラの中にある野生の勘が目の前まで迫っている死に反応しているのだろう。


 しかし、アキラはその場から逃げられない。自分の覚悟に従っているというのもあるが、そもそも足が竦み全身が震え、立ち上がることも不可能だ。あまりの恐怖と死の実感に、走馬灯さえ見えた。龍翔との思い出も、リゥとの思い出も、アキラにとってその全てが大切な日々。そんな大切で幸せだった日々が、アキラの脳内を駆け巡る。


「――死ね」


 ポツリと、一言だけ静かに発したゼンジ。

 瞬間、青い炎の柱が渦を巻いてリゥとアキラに襲いかかる。


「――ッ!」


 手足が動かない。こんな状態で守ることは不可能。でも、守らなければいけない。


 守らなければいけない。アキラが守らなければ、リゥは救えない。晟が守らなければ、龍翔に想いを伝えられない。


 守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。守らなければいけない。


 アキラが、晟が、守らなければいけない。守らなければいけないのに――、


「――助けて……リゥ、くん……龍翔、くん……たす、け、てっ……! 助けて……っ!」


 ――両目から大粒の涙をボロボロと零し、アキラ()は、リゥ(龍翔)に助けを求めていた。
















































































































「――任せろ」


 瞬間、目を瞑ってしまっていたアキラの周りに激しい旋風が発生。アキラを中心にその風は半球状に展開し、それに飲み込まれた炎は瞬く間に消失。

 二人の目の前まで迫っていた死は、いつの間にか大きく遠ざかっていた。

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