2話:異世界パーティー
「乾杯ーー!!」
乾杯の合図があってから、一斉に動き出す人々。百人は入れるであろうほどの広さがある食堂にも関わらず、集まった十数人の人々はとある場所に固まる。
勿論それはそれは言うまでもなく、龍翔と晟の元へだ。
「リゥ様! お久しぶりです! しかし本当にリゥ様かどうか疑うほどに顔とかお変わりになられましたね」
「でも声はかなり似てるよね。声の発声練習とかしてきた感じですか?」
「顔が変わってるのは当たり前だし、声も別に似せてるつもりはねーよ」
そんな冗談交じりの質問に、愛想良く笑いながら言葉を返す龍翔。久々の再会にも関わらず、それを一切感じさせないほどの柔軟な対応だ。そんな龍翔を見ながら感心しつつも、晟の方は対応に遅れる。
「あ、君が晟くん? リゥ様の恋人なんだって? いやー、向こうの世界ってのは楽しそうだねぇ!」
「なんか物凄く仲いいみたいじゃん? 口説いたの? 口説かれたの?」
「い、いや。別に恋人とかじゃなくて……えっと、ただ単に仲良くしてもらってるだけ……? ていうか、恋人ってどこから……ぁ」
なぜか龍翔の恋人扱いをされ、戸惑いながら辺りを見回す晟。すると、こちらを見て舌を出しながら笑っている人物――ゴウが見える。それを見た瞬間、晟は全てを悟った。
これは明らかに、ゴウの仕業だ。間違いない。そう確信するも、それはなんの意味も成さない。
次々と来る質問に押される晟は、ゴウに近付くことさえ出来なかった。
「恋人じゃないなら何? どういう関係?」
「恋人じゃないわけないでしょ! 謙遜よ謙遜!」
「謙遜なのか? そんなことしなくていいぞー?」
「でも君、かなり顔立ち整ってるよね。あ、そう言えばリゥ様も前はかなりイケメンだったんだよ? 今も確かにイケメンであるけど」
「かなりじゃないわよ! ものすごくでしょ。本当にイケメンだったんだから!」
「あ、あはは……」
話がどんどんズレていき、人々は晟の周りから離れない。
しかし、そんな風に人がごった返し、ガヤガヤとしていた集団が一転。一斉にその場が静まり返り、龍翔と晟の前に道が開かれる。
何事かと思ってその道の奥を見れば、二人の男がゆっくりと近づいて来るのが見えた。
一人は整った顔で、穏やかに微笑みながら。もう一人はよく分からないが、少なくとも笑ってはいない。
「よう! レイにゲンじゃねぇか! 久々だな!」
「あぁ、久しぶり。かなり変わったね、リゥ」
「久しぶりだな」
手を上げて笑いながら、歩いてきた二人の前に立つ龍翔。そんな龍翔が呼んだのは、残る四天王と呼ばれていた二人の名だ。そしてその後ろから、さっきまで少し遠くで笑っていたゴウも近づいてくる。
四天王と呼ばれる存在が四人、ここに集結したのだ。
「おお、四天王の揃い踏みだぜ。久しぶりに見るな……」
「まぁ、ここ十数年間はずっとリゥ様がいなかったからな……」
さっきまで大声で話していた人々の声が、かなり小声になっている。
そして何より、四人が集まるこの景色。確かに、四人が揃うとそれなり以上の風格がある。
「四人揃うのは、それこそシークレットロードの時以来か。懐かしいな」
「そうだね。あの場での事故はかなりの衝撃だった。あの後暫くは、この世界もかなり荒れたよ」
「確かに辛かったな」
「それは悪かったって。今戻ってきたんだから勘弁してくれ。それゆか代わりすら立ててないで俺の席が残ってるなんてよ。良かったぜ。またこうしてこういう食事ができるのも、みんなのお陰だな。ありがとう。さぁ! 食べようぜ!?」
「――おぉ!」
そう言ってリゥが合図をすると、さっきまで静かだった人々もまた喋り始める。やはり、この四天王の面々はかなりの信頼があるらしい。そして人々が散り散りになった後、四人は晟の方へ歩み寄る。
「君が、晟くんだね。話は聞いているよ。勿論、ゴウの変な話ではなく、しっかりとね。僕は四天王のレイだ。よろしく」
「ゲンだ。よろしくな、少年」
そう言って晟と握手を交わした二人は、一旦その場を離れる。
そしてその後にクロとシロの二人と少し話し、龍翔と晟とゴウは三人で有意義な時間を過ごす。立食会が終わるまでには晟も沢山の人と打ち解けることができ、異世界での出だしは順調だった。
そんな立食会が終わったのは、実に短く感じられた二時間後。途中で様々な余興を挟み、二時間はあっという間に終わった。




