プロローグ:原点
「――俺は君が好きだ」
青く透き通り、雲一つない快晴の空の下。とある病院の屋上で、一人の青年が一人の少年と向き合う。青年はゆっくりと手を伸ばし、今の発言に目を丸くしている少年の頬に手を触れる。
柔らかく、僅かな弾力のある、温かい頬の温もり。それを両の手全体で感じながら、己の心の中で好きだという感情が高まっていくのを自覚する。
そして青年は、言葉を繋げた。
「俺が今回行動した理由は、全て君にある」
しっかりと目を合わせ、視線を逸らすことなく、もっと言えば瞬きもしていなかったのかもしれない。頬を触られていた少年は呼吸すらも忘れていた可能性がある。
ふざけた要素など微塵もない。そこには素直な気持ちと、真っ直ぐな想いがある。
少年の頬に触れていた青年の手は、心情の変化からか少年の両肩へと場所を移している。
しっかりとその存在を確かめるかのように、グッと力を込めた手で、己の中で『成し遂げる』という覚悟が高まっていくのを感じる。
「君が好きで、君が大切だから――」
二人の視線は一ミリも動かず、動かないその瞳には、お互いの目がしっかりと映っている。車の音も、風の音も、人の声も、虫の声もしない。
二人以外の時間が止まっているようなその世界で、青年は一呼吸置き最後の言葉を放つ。
「――君の傍で、君を守りたい」
そう。それは決してかっこいい言葉ではなく、気取ることでもない、シンプルな希望であった。
だがその言葉が、目の前の少年の気持ちを揺るがし、そしてこの先の二人の未来をも動かすことになる……
二人のこれからの、『原点』だった。
プロローグ、『原点』を読んでいただきありがとうございます!
二人がなぜこのような会話をしているのか、この会話の後にどうなるのか……
〜〜
プロローグと言うことで、今回は名前を伏せています。二人の人物を青年と少年で表記していますが、本来はどちらも(精神的には)少年の範囲です。
描写の問題で青年、少年と表記してしまうことを、御容赦ください。




