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「・・・子さん。」


昨夜、かなり遅い時間に帰って綺羅人が作ってくれた


リゾットを食べた後、疲れてベッドへダイブした。




さっき目を閉じたばかりなのに、


なんであたしを起こそうとするの?




「・・・凌子さん。」


なかなか目を開けないあたしの耳元で綺羅人の優しい声がする。




「凌子さん、早く起きないと遅刻しちゃうよー?」


そう言って綺羅人はあたしの頬をツンツンした。




「・・・んー・・・?」


薄っすらと目を開けるとエプロン姿の綺羅人の顔が


目の前にあった。




「・・・っ!?」


驚いてガバッと体を起こすと綺羅人が「おはよう。」と


満面の笑みで言った。




「お、おはよ。・・・て、もう朝っ!?」




「うん、そうだよ。朝御飯、もうすぐ出来るから、


 先に顔洗っておいでよ。」


綺羅人はそう言うとキッチンに向かい、トーストを焼き始めた。






「これ、綺羅人が作ってくれたの?」


顔を洗ってキッチンに行くと、ダイニングテーブルの上に


焼きたてのトーストとプレーンオムレツ、オニオンスープが


用意されていた。


トースト、オムレツ、スープ・・・どれも見た目は完璧。




どこかのお店のモーニングセットみたい・・・。




「昨夜、遅かったし疲れてたみたいだから少しでも


 寝てたいだろうと思って。」




「ありがとー、綺羅人。」




「ご主人様を助けるのはペットのお仕事♪」


綺羅人はそう言ってあたしの目の前に座ると


早く食べてみてと言わんばかりの顔をした。




「いただきます。」


プレーンオムレツにフォークを入れると


とろんと中からフルフル卵が出てきた。


そしてソースをつけて口に入れるとふわふわの卵が


口の中で広がってすぐに消えていった。




「おいしいー♪」


特に変わったメニューでもないし、


贅沢な食材を使っているワケじゃない。


それなのになんでこんなにおいしいんだろう?




綺羅人はあたしの顔をじっと見つめ、


小さく笑った。






それから、一ヶ月後―――。


夜7時、例の克彦さんと組んで進めていた住宅メーカーの仕事も


なんとか無事に終わり、いつものように会社を出ると


携帯が鳴った。




「もしもし、一ノ瀬です。」




『もしもし、マセキ家具の三浦です。』




克彦さんからだ。




でも、“マセキ家具の三浦です。”と名乗ったという事は


仕事の話だろう。




「お世話になっています。」




『お世話になってます。突然なんですが一ノ瀬さん、


 今からお時間ありますか?』




「はい。大丈夫です。」




『では、申し訳ないんですが・・・今から


 大手町のグラヴィーアホテルに来て頂けますか?』




「グラヴィーアホテルですか?」




『はい、ちょっとこの間のトキモトハウスとの企画の件で


 先方よりグラヴィーアホテルで再度打ち合わせがしたいと


 連絡がありまして。』




“トキモトハウス”とは、例の住宅メーカーだ。




「何か、問題が起きたんですか?」




『私もよくわからないのですが、そのホテルの室内を参考にしながら


 と言うことですので・・・今から来ていただけませんか?』




「はい、わかりました。」




『奥田さんの方には、別件でお伝えする事がありますので


 私の方から伝えておきます。


 部屋の方は後からメールします。』




「はい、ではとりあえず向かいますね。」




企画が一段落して、後からやっぱりこうしたいとか、


ああしたいとか言い出すのは今までもない訳じゃなかった。


住宅メーカーの人がたまたまグラヴィーアホテルの


室内を目にしてピンと来た物を見つけたのかもしれない。




あたしはグラヴィーアホテルに向かう途中、


綺羅人に電話した。




「もしもし、綺羅人?」




『うん。』




「ごめん、急に打ち合わせがはいっちゃって・・・


 そんなに遅くならないとは思うんだけど、


 おなかすいて我慢できなかったら先に食べててね。」




『うん、わかった。』




あれから、綺羅人はあたしが仕事で遅くなったり、


疲れて朝起きられない時は、食事の用意をしてくれるようになった。


最初はあたしの反応をすごく気にしていた。




でも、「おいしいよ。」とあたしが言うと


すごく嬉しそうな顔をするようになった。






―――グラヴィーアホテルに着いて、克彦さんから


メールで知らされた部屋のインターフォンを鳴らすと


すぐに克彦さんが出てきた。




こんな風にホテルで会うのは何ヶ月ぶりかな・・・?


ふと、そんな事を思った。




尤も、克彦さんとホテルで会うときは“恋人”として


会っていたワケだけど。






部屋の中には克彦さんしかいなかった―――。




「あの・・・他の方は?」




住宅メーカーの担当者も奥田くんもいない。




・・・?


まだ来てないのかな?




「三浦さん?」




克彦さんはあたしの問いには何も答えないまま、


ゆっくりとあたしに一歩近づいた。

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