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―――それから一ヶ月。


例の住宅メーカーとの企画で段々遅く帰る日も多くなった。


そして、今日は大詰めを迎え、一段と遅くまで残業をしていた。




昨日まではなんとかギリギリ綺羅人が


我慢できそうな時間までに帰ってご飯も作っていたけど、


今日は本当にに遅くなりそうだ。


もうすでに10時を回っているし、あたしはともかく、


綺羅人に先にご飯食べててもらおうかな。






一回コールして、一度電話を切ってからもう一度コールする。


それがあたしからの電話だっていう合図。




『もしもし。』




「もしもし、あたし。」




『うん。』




「あのね、今日はまだ帰れそうにないから、


 先にご飯済ませててくれる?」




『うん、わかった。』




「ごめんね、もっと早く連絡できればよかったんだけど、


 ちょっと忙しくて・・・」




『いいよ、気にしないで。』




「うん・・・。」




あ、でも・・・




「そういえば、冷凍庫にストックのご飯まだ残ってたっけ?


 あと、食材も・・・」


『あはは、そんなの気にしなくていいよー。』


食事の心配をするあたしに綺羅人は笑いながら、


大丈夫だと言った。




「う、うん・・・。」




『あ、ホラ、仕事忙しいんでしょ?


 俺の事は心配いらないから。


 仕事頑張ってね。』


そして、綺羅人は優しい声でそう言ってくれた。




「うん。」


あたしはその言葉にちょっとだけ癒された。




だって・・・こんな風に言ってくれるペットなんて、


世界中どこを捜したっていないよねぇっ?




「よっし!これでまだ頑張れそーっ。」


電話を切った後、携帯を閉じて思いっきり伸びをして、


あたしは自分のデスクに戻った。






―――それから数時間後。




「・・・し、死ぬ・・・。」




結局、あたしがマンションに戻ったのは午前1時を回った頃だった。




綺羅人、もう寝てるかな?




・・・カチャン―――。




綺羅人を起こさないようにそっと鍵を開けて中に入ると


部屋の灯りがついていた。


そして、リビングのドアから「おかえり。」と綺羅人が顔を出した。




「あれ?まだ起きてた?」




「うん。」


綺羅人はまるでご主人様の帰りを待ち侘びていた猫みたいに


あたしに近寄ってきた。




「凌子さん、ご飯ちゃんと食べた?」




「ううん、結局食べ損ねちゃった。」




「じゃあ、おなかすいてるんじゃない?」




「うん・・・、死にそう・・・。でも、ガッツリ


 食べたい気分じゃないし・・・。」




「リゾットとかは?」




「あ、それなら食べられそう。」




「じゃ、先にお風呂入って着替えておいでよ。


 その間に俺、作るから。」




「えっ!?」




「ほら、早く。」




「あ・・・うん。」


あたしは綺羅人に言われるがままバスルームに行った。




“その間に俺、作るから。”


て、綺羅人作れるのかな?




レトルトのリゾットとか買い置きなんてしていないし・・・。






「グッドタイミング、今ちょうど出来たトコだよ。」


お風呂からあがってリビングに行くと綺羅人がそう言いながらにっこり笑った。


そして、お皿にリゾットを盛り付けパセリのみじん切りを散らした。




「うわぁ、おいしそうっ。」


鮮やかなトマトの赤い色にパセリのグリーンが良く映える、


その綺麗な色彩のトマトリゾットは疲れた体を目から癒してくれそうだった。




「いただきまーす。」




「どうぞ。」


綺羅人はエプロンを外してあたしの目の前に座り、


にこにこしながら言った。




「おいしいっ。」


「ホント?」


「うん、お店の味みたい。綺羅人ってこんなに料理上手かったんだ?」


「普通だよ。」


「えー、でも、あたしこんなに上手に作れないもん。」


「そぉ?」


「だって味はもとよりご飯の固さも完璧だし。」


綺羅人のリゾットは見た目、味、食感共に完璧だった。




でも、綺羅人はいまいち自信がないのか、嬉しそうな顔はするものの


いつもみたいに目をくるくる輝かせていなかった。

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