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―――ピピピピピピピピピ・・・
翌朝、いつものように目覚まし時計の音で目が覚めた。
「っ!?」
目を開けると、綺羅人の顔がすぐ目の前にあった。
「おはよう、凌子さん♪」
綺羅人は朝からにこにこしている。
「お、おはよう・・・て、綺羅人何してんの?」
てか、顔・・・近くない?
「凌子さんの寝顔見てたの。」
「・・・。」
「凌子さんの寝顔かわいい♪」
「・・・。」
可愛いって・・・綺羅人の方が“可愛い”と思うけど?
さて、そんな事より起きなくちゃ。
あたしはベッドから出て洗面所に行った。
すると綺羅人も後ろからついてきた。
「綺羅人も起きるの?」
「うん。」
「まだ寝ててもいいよ?朝ごはんなら作って冷蔵庫に入れておくし。」
「ううん、一緒に食べる。」
綺羅人はあたしと一緒にシャカシャカと歯磨きをし始めた。
そして洗面所から出て、あたしが朝食を作り始めると
何も言わなくても食器を用意していた。
綺羅人、こういうのに慣れてるな。
なんとなくそう思った。
別にたいした事でもないんだろうけれど。
「あ、そうだ、お昼は冷凍庫にご飯があるからそれを解凍してね。
それとおかずは・・・どうしよ・・・。」
「お昼は適当になんか自分で作るから心配しなくていいよ?」
あたしがおかずの心配をしていると意外にも綺羅人は自分で作ると言った。
「綺羅人、料理出来るの?」
「まぁ、多少は・・・」
「そっか・・・じゃ、大丈夫そうね。」
あたしがそう言うと綺羅人は「うん。」と言ってにっこり笑った。
朝食を済ませて部屋を出る時、綺羅人が玄関まで見送りに来てくれた。
「いってらっしゃい。」
「行ってきます。」
あたしが手を振ると綺羅人は可愛らしい笑顔でバイバイと手を振ってくれた。
こんなペットなら飼って正解だったかも。
綺羅人のおかげで上機嫌で出社して、朝のミーティング。
部長から新しい企画の担当者の振り分けが伝えられた。
あたしの会社はインテリアのコーディネートを専門にやっていて、
あたしはそこでインテリアコーディネーターの仕事をしている。
飲食店のテーブル、イス、食器類を揃えたり、
住宅展示場の部屋の中をコーディネートしたり。
今回の企画も、とある住宅メーカーの展示場のコーディネート。
企画書に目を通すと使用する家具類は全て提携している
家具メーカーの物にするらしい。
克彦さんの会社かな?
そう思っていると、やっぱりそうだった。
そして、担当者の欄に克彦さんの名前があった。
よりにもよって克彦さんが担当者かー・・・。
気が重いな・・・。
せっかく今日は朝から気分がよかったのに・・・。
でも、仕事だから仕方がない。
いくら別れたとは言え、仕事に私情を挟むのは自分としても嫌だし。
そして、さっそく克彦さんの会社で打ち合わせ。
午後一番で同期の奥田くんと一緒に克彦さんの会社に出かけた。
あたしと奥田くん、克彦さんと一緒に
ミーティングルームに入って打ち合わせをしていると
奥田くんの携帯が鳴った。
「すみません、ちょっと失礼します。」
奥田くんは携帯を持ってミーティングルームの外へ出た。
すると、克彦さんは二人きりになるのを待っていたかのように
口を開いた。
「凌子。」
「・・・。」
取り残されたあたしは克彦さんと二人きりになって
ものすごく居心地が悪かった。
だから、克彦さんに“凌子”と呼ばれても返事をしなかった。
「昨日、一緒にいた男・・・誰なんだ?」
「っ!?」
昨日?
あたしと綺羅人が克彦さんと同じカフェにいたの気付いてたの?
「彼氏?」
「・・・。」
「凌子。」
「・・・プライベートな事ですから、お答えする必要はないと思います。」
あたしが冷たい口調で言い放つと克彦さんは顔を顰めた。
「答えろよ。」
「・・・。」
「凌子っ。」
克彦さんが少しだけイラついているのが声でわかった。
そしてしばらくの沈黙の後―――。
電話を終えた奥田くんが戻ってきた。
あたしがホッとしていると、克彦さんは何もなかったような顔で
打ち合わせを再開した。