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週末の金曜日の夜―――。
あたしは仔猫を拾った。
酔った勢いで・・・。
“仔猫”・・・と言っても、実は“人間”だったりする。
3ヶ月前に恋人にフラれた。
それから週末はだいたい行きつけのショットバーで飲んで帰る。
そしてこの日もタクシーで帰ろうとしていたら、
突然一緒に乗ってきた“男”。
少し茶色かかった癖毛で猫っ毛みたいなその男は
タクシーに乗るなり寝てしまった。
・・・ちょっとっ・・・
あたしはその男の頬をつんつんとつついた。
「・・・う、・・・ん・・・。」
微かに反応はあるものの一向に起きる気配がない。
むー・・・。
今度は少し肩を揺さぶってみる。
だけど、まったく全然起きてくれない。
えー。
マジですかー?
困った・・・。
「お客さん、どちらまで?」
なかなか行き先を言わないあたしにタクシーの運転手が痺れを切らして聞いてきた。
どーしよ・・・。
「・・・九段下まで。」
とりあえず帰ろ・・・。
酔っていたあたしは明らかに正常な判断力を失っていた。
だって、普段のあたしなら絶対警察とかに連れて行ってとっとと帰るとこだもん。
自分のマンションに着いて、あたしはその男と一緒にタクシーを降りた。
そして、少しずつだけど歩く事までは出来るようになったその男を
仕方なく部屋まで連れて帰る事にした。
だって放って置くワケにもいかないもん。
部屋に入って、とりあえずその男をベッドに寝かせた。
まさか一緒に寝るワケにもいかないし・・・
あたしはソファーにでも寝ようかな。
そう思ってあたしがベッドから離れようとした瞬間、
その男にいきなり腕を掴まれ、引っ張られた。
「え・・・ちょ・・・っ!?」
思いっきり抱き合う格好になって慌てて離れようとしたら
ぎゅっと抱きしめられた。
ええええぇぇぇぇぇっっ!?
は、離れられない・・・
ジタバタと暴れてみるけれど全然ダメ。
「ち、ちょっと・・・」
「・・・ん・・・。」
あたしの声にちょっとだけ反応する。
「ちょ・・・お、起きて・・・。」
「うー・・・ん。」
反応はするけど一向に離してくれない。
「ねぇってば!」
今度は少し大きな声で言ってみた。
「・・・。」
あれ・・・?
反応もしなくなった。
・・・そして、その男はピクリともしなくなった。
「・・・。」
どーすんのよ?
コレ!?
寝ようと思えばこのまま寝れるけど・・・。
少し覆いかぶさるようにしっかりと抱きしめられている上、
押し潰されないまでもその男の体重があたしに伸し掛かっている。
「はー・・・。」
とりあえず溜息をついてみた・・・。
「・・・。」
・・・あたしは観念してそのまま寝るコトにした。
―――朝。
携帯の着メロに起こされた。
この着メロは・・・会社からだ・・・。
何よ・・・もぅー・・・。
やや二日酔い気味の体を少しだけ起こして
ベッドの脇に置いたカバンから手探りで携帯を出した。
「・・・はい、もしもし・・・?」
『あ、一ノ瀬さん?朝早くしかも休みの日にごめん!』
会社の同僚・奥田くんだ。
「どうしたの・・・?」
『実は・・・ちょっとトラブッちゃってて・・・』
・・・トラブル発生?
『今日、納品予定だった“リストランテ・カターニア”の
テーブルとイスが間に合わないらしくて・・・。』
「え・・・それ、マズいんじゃないの?」
あたしは一気に目が覚めた。
『うん・・・非常に・・・。』
「あそこってたしか明日がオープンだよね?」
『そそ。』
「なんでまたそんな事になってんの?」
『うーん・・・どうも手配ミスらしくて・・・。』
「・・・。」
なんてこと・・・。
「と、とにかく・・・とりあえず今からあたし、会社に向かうから。」
あたしは電話を切って急いでシャワーを浴びた。
さすがに酔い気味のまま行くわけにも行かない。
お酒を抜かないと・・・。
そして、手早くメイクと着替えを済ませて、
何か引っかかることがあるような気がしながらも部屋を出た。