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六話

 下校時刻が近づき、吹奏楽部員と一緒に帰ろうとすると、一人の少年に私は声をかけられた。


「よお」


「山川君、どうしたの?」


「ああ、ちょっとな……この人借りていい?」


 他の吹奏楽部員に声をかけると、彼は歩き始めた。この中学校は校門まで遠く、歩きながらでも話すことのほうがこちらとしてもありがたい。


「で、話って何?」


「単刀直入だな……まあいいけど」


 彼は少し目線を私から、正面を見ると話し始めた。


「合唱コンクールについてだ。俺は正直なところ勝てる気がしない。いや、たぶんこのままだと準優勝がいいところだ。それについて、どう思っているかについてだ」


 彼も単刀直入すぎると思ったが、私も少し考えていた。私たちは三年生で最後の行事であると同時に、これ以降クラスで一致団結して行うものはない。大事なものと分かっている。「ちょっと、山川君離れてもらっていい?」


「え、いいけどどうしたの……ああ、ごめんさすがに匂うか」


 私の意図をすぐに読み取り、彼は私との間に距離を取った。


 今日は秋には珍しく高温の日で、ハードな練習をする野球部からは汗のにおいか漂い、鼻が痛くなりそうだ。


「合唱コンクールねぇ、今のままじゃ難しいのは分かってる。けど、私も君も練習に大きく参加はできないでしょ。音楽の授業と昼休みぐらいでしょ」


「そうだな、俺たちはクラスの何かよりも、個人の一を優先しなければいけない」


「ピアノに関しては私が夏休みしっかり練習したからいいけど、指揮者とか、声量の調整とかいろいろあるから簡単じゃないってというのは分かるけど、どうして山川君は勝てないって言いきるの?」


「去年、明石といろいろあったんだ。そのせいで揉め事が多かった。俺は別に合唱は嫌いじゃないし、歌だって下手じゃないと自称できる。センスがいいとも言われたからな」


「揉め事?君たちのクラスって去年は優勝したんだよね」


「ああ、優勝した。結果はそうだ。けど、その結果にクラス全員は納得しなかった。それだけの話だ。悪いな、俺は逆方向だから」


 煮え切らない言葉を残すと彼は私とは逆方向に歩き出した。その言葉の意味を考えても、よくわからなかった。彼自身に問題がないところを見ると、やっぱり拓斗君に関係しているとおもったけど、彼から聞き出すのは容易じゃないのは知っている。そもそも拓斗君は私と話すことを拒絶している。けれど、彼がクラシックに精通しているのは確かだ。そこに私は違和感を覚える。有名じゃない曲を聞くほど、好きであるのならば、何故曲を歌わないのかすごく不思議で仕方がない。


 一番早い方法は直接聞くことだが、それは難しい。彼の様子を見る限り、明石と何かあったことは分かる。


 いろいろと考えたが、結論は出なかった。


 土田は夕暮れの方向に進み続け、家に着くころには日は沈み、月が出ていた。


「ただいま」


「おかえり、どうしたの。考え事」


「まあ、そんな感じ……」


 母親が私に気にかけて声をかけたが、体が重かった。日ごろからクラス委員、吹奏楽部部長をやっているため、ほかの人よりも目立つ立場に居て、プレッシャーにいつ押しつぶされてもおかしくない。


 自室に行き、制服のブレザーをハンガーに掛け、スカートを脱ぎカッターシャツを脱ぎすて、部屋着に着替える。


「ああ、疲れた……」


 このまま、ベッドに横たわり、寝てしまってもいいが、おなかがすいた。おなかから緊急信号が鳴り始めると、カッターシャツを洗濯機に放り込む。


「お母さん、今日の夕飯何?」


「サンマの開き」


「は~い」


 自身の領域とでもいうのか、自分の家に戻って来ると、気が緩み女子らしさがなくなってしまう。リビングに行くと、テレビのリモコンを持ち胡坐をかきながらチャンネルを動かした。


「佳奈美、もう少し女の子らしくしないとモテないわよ」


 皮を取り換えれば、会社帰りのおっさんでも違和感がない行動をしている。ここにせんべいでもあれば、まさしくおっさんになるだろう。


「いいでしょ、家なんだし。それに私モテるんだよ、今月も告白されたし」


「返事はしたの?」


「まあ、したよ……」


 たまたまやっていたバラエティー番組をつけながら、自分のスマートフォンをいじる。テレビはほとんど音楽みたいな感覚で付け、スマートフォンではSNSアプリを起動して面白そうなものを見つける。


「佳奈美、どっちかにしなさい」


「ハイハイ……」


 聞いているが、実行はしない。テレビはつけたままで、スマートフォンを触り続ける。今は、動画配信サイトで面白そうなクラシック音楽を探している。


「ナニコレ……」


 どこかで見たことがあるような日本人が外国人に囲まれながら指揮者をしている。面白いものかなと思い、ページを開き、イヤフォンをしながら聞く。邪魔になりそうなテレビは消し、大音量でその曲を聞く始めると、終わっていた。気が付けば、曲が終わっていた。夢中になり、気が付けば終わっていたというほうが正しい。六分と曲にしては少し短い時間だったが、その時間がないに等しい感覚だった。言い方を変えるならば、音楽の極致というものの一部を見たような気がした。


「……佳奈美、ご飯できたよ。佳奈美」


 何度か、母親に呼ばれていたのか、母親は何回もの名前を呼んでいた。


「あっ、ごめんお母さん」


 急いで呼ばれたため、癖で音楽アプリを落とし、スマートフォンをスリープ状態にした。その後、サンマの開きを食べながらテキトウに話を進めていた。他愛のない話をしていると食事は終わっていった。食器をシンクに置くと、先ほど聞いた曲を聞くため、スマートフォンを起こし、動画配信サイトにつなげる。癖で切ってしまったことに後悔したが、すぐに探せば見つかるだろうと思い、いろいろと動画を転々したが、途中で閲覧履歴を確認しようと思いついたが、時すでに遅し。履歴には探していた曲の一つ前で途切れてしまっていた。


「はあ」


 ため息をつき、また探す。けれど、見つからない。いろいろと探したが見つからなかった。彼是三十分。けれど、あの日本人の姿は見つからなかった。


 メロディーも曖昧で、曲名も覚えていない。見つけるのが困難を極め、私はあきらめることにした。


「見つからないものはしょうがないか」


 私は切り替えて、お風呂に入る準備を始めた。この後も中間テストに向けて勉強をしなければいけない。受験は今のままでも問題ないが、それでもいい点数を取ることは個人的にうれしい。今私にできることはそれだけだった。


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