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三話

 テストの結果はいまいちだった。平均よりも十点も低く、結果は決していいとは、お世辞でも言えない。


「今日は……調子が悪いわね」


 これが入試一週間前ではなくてよかった、という気持ちとこれでは前期は難しいという気持ちが底から湧き上がる。


「宿題追加ですか?」


「そうね、ルールだからね。けど、どうしたの、ケアレスミスが多くない?」


 今回の過去問で一番ひどいのが、スペルミス。それも簡単な部分でだ。集中しきれていないことをそのまま表している。


「すみません……」


 何も言うことができなかった。


 その様子をしっかりと見つめている様子の土田、何か気になったのだろうか、僕も気配に気づき、反対の席の土田の方を見ると目線を反らされた。


 ええ、何それ……。


「終わりました」


 土田が解いてた問題も人と通り終わり、僕は今から見直しが始まった。解くことができなかったものは答えを見て、解き方を覚え、次につなげ、ケアレスミスをしたところはどうして起こってしまったのかを考える。


 そして、読むこと、訳すことができなかった単語は専用のノートに書き、次までに確実に覚えるようにする。これだけで、この授業は終わりそうだった。


「うん。土田さんは相変わらず、すごいね」


 遠目で反対側の机を見ると、滝川高校のテストで四十八点を出していた。俺は合格ラインを少し超えて、安定して合格できるラインに居るが、土田は満点をギリギリ逃したような結果だった。


 正直なところ、いい気分ではない。嫉妬もする、なんで塾に来ているんだとも思う。


 次時の授業は数学で、練習問題をひたすら解いた。数学は僕の得意分野なので、入試の問題でも、勉強前から合格点は出していた。だからこそ、数学で引っ張り、確実に合格を狙う算段をしている。得意分野だけあって、さっきの英語よりも格段集中できた。


「大野木君って宇治高受けるの?」


 練習問題を一通り終わらせ、答え合わせをしていると、隣から声をかけられた。


「そうだけど……」


「もう一つ上の、高校目指さないの?今からなら間に合うでしょ」


「……確かにそうだな。けど目指して、勉強して、合格して、なんになるんだよ」


「え?いいところの高校に行ければいいじんじゃないの?」


「いいところってなんだよ」


「それは、偏差値の高い高校じゃない」


 すごく一般的な回答だ。それは間違いがない。近くには商業高校、スポーツに力を入れている私立高校など、さまざまなものがある。けれど、一体そこを目指し、入って何になるんだ。


「私は将来何になりたいかなんて考えてないけど、間違いじゃないことは確かでしょ」


 間違いじゃない。その言葉が、僕のこころに残る。


 合唱コンクールの前日のことは間違いじゃない。勝つための最良の手段だった。そして、結果を残した。それは、正しいと胸を張って言えることは無いが、間違いではない、あいつならきっとそういうだろう。


「まあ、そうだな……けど、僕は正解をすでに見た。だから、どうしても踏ん切りがつかない。思い人がいれば、その人と一緒にハイスクールライフを過ごすのも正解だと思う。汗水流して、甲子園を目指すのも正解だと思う。けど、偏差値があーだこーだで高校を選ぶのは、自分の実力で選んだだけで、自分で選んだものじゃない。もしも勉強についていけなかったときに、やめそうだ。義務教育と違う高校は退学、留年もある。それは絶対に避けなければいけない。だから、生半可な気持ちで高校を選ぶのは僕自身良くないと思ってる」


 思ったことをひたすら羅列した。今の迷いも海が選んだ正解も


「……すごいね。私はそこまで考えてなかったよ……で、宇治高にはなんで行くつもりなの?」


「……」


 勘弁してくれよ。理由なんてあるわけないだろ。僕が正解してるなら、あんなに一杯言葉を放つわけないだろ……。


「あったら、先に言ってるだろ。土田さんは何処へ行くつもりなの?」


「佳奈美でいいよ、拓斗君。私は滝川に行く予定だよ。あそこ、吹奏楽で毎年東海大会まで行ってるんだ」


 そういえば、滝川高校は吹奏楽もすごく強いって母が言ってたな。まあ、今の僕には全く関係のない話だけど……。


「吹奏楽か、いいな。うらやましい」


 去年の合唱コンクールの前日。僕が呼び出される前に、体育館では吹奏楽と合唱団による演奏と合唱があった。そして、その後は生徒たちの出し物。その中でも吹奏楽は三曲演奏していた。僕にとっては馴染みのあるコンクールの課題曲が一曲、当時流行っていたアニメのオープニングとドラマのオープニングが一曲ずつ。課題曲の名前は行進曲ジャンヌ・ダルク。フランスの百年戦争を終わらせた、オルレアンの聖女の一生を曲にしたという作品だ。静かな田舎のイメージをもとにしたところメロディーで始まり、戦争、そして火あぶりにあって死ぬ。その物語を曲に落としたような作品だ。祖母からは何度か聞かされ、今でもメロディーを思い出すことができる。


「そういえば、ジャンヌ・ダルクのフルートのソロって去年は土田さんだったよな」


「佳奈美で……」


「ハイハイ、そこまで。二人ともおしゃべりが過ぎるわよ」


 手を叩きながら、講師がおしゃべりを止めに入る。さすがに僕たちの手が止まっていたため、注意をしたのだろう。再び、練習問題の答え合わせをすると、すぐに塾は終わった。


「起立、礼」


「「「ありがとうございました」」」


 号令が終わると、僕は机の上を片付け、僕は帰ろうとした時、土田に声をかけられた。


「ねえ、拓斗君」


「ん、何?」


「なんでジャンヌ・ダルク知ってるの?」


「別に、有名でしょ」


 音楽に携わる人間ならば、よく知っている。だが、普通の人ならばあまり知られている曲ではない。


「妖精卿アヴァロンと並んで有名だろ」


「なんで今年の課題曲まで……」


「そうなんだ。コアな人なら知ってるんじゃない。まあ、どっちでもいいけど。じゃあな」


「車くるまでならいいでしょ。私拓斗君と一緒にいろいろ話したいし……」


 車、つまり帰りは迎えがくるのか、うらやましい。


「悪い、僕自転車だ」


「そう……なんだ。もうすこし話したかったな」


「ん?今なんか言った」


「何にも……また明日合えるからいいかな」

 


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