6.疑いの芽
「この中に犯人は、いないんだよね?」
理子が、恐る恐る確かめるように周りを見渡しながら呟く。
次の日の放課後、視聴覚室に10人程の女子が集められた。彼女達
――「彰先輩ファンクラブ」に属する2年生達が一斉に下を向く。
「あのさ、理子。
ルールを守ろうとしてきたうちらが、あんなことするはずないじゃん?」
「そ、そうだよ!ファンクラブに入ってない隠れファンの子が送ったんじゃないの?」
「あ! 2組の志穂とか特に怪しいかも!
あの子、ファンクラブに入ってないけど彰先輩の話するとすごく嬉しそうな顔するもん。」
「それか、やっぱ1年生?
入学したばっかでファンクラブの存在知らないとかありえそー」
――あぁ、もう嫌だ、、、、、、、
早く、この時間を終わらせてほしい
早く、早く、、、、、、
美優は泣きたい気分だった。この淀んだ空気の中から逃げ出したい気分だった。
こんな他人を疑い続けるような会話は聞いていて決して気分がいいものではないし、仲間だと思っていたメンバーの子の口からいつ自分の名前が挙げられるのか、気が気ではなかった。
そして、予想はついていたが結局話はまとまらなかった。不毛な会話であっという間に時間が潰れ、部活や塾が待っている子はいそいそと視聴覚室を後にした。
手紙に書いてあった奇跡の始まりとやらが今日からだったのもあり、彰先輩の身に今日一日何も起きなければそれでいいとみんな思った。
何かあればまた集合すればいいんだと、お開きになった。
「理子、大丈夫か、、、、、、? 損な役回りだったよな」
翼が、理子に近づき声をかける。
「ううん、平気! 3年生も本気で犯人を探そうとは思っていないみたいだし。
彰先輩を逆恨みしてる人のいつものいたずらだろうって、、、、、、」
「そっか、、、、、、
理子ちゃん、彰先輩は今日も部活だよね?」
美優もそっと近づき、遠慮がちに聞いてみる。
「うん。大会が近いのもあるし、いたずらが理由でさすがに部活は休めないって言ってたみたい。」
理子は2年生のファンクラブの中で、リーダー的な存在だった。それゆえに、彰先輩に関する情報を仕入れるのは人一倍早かったし、今日のようなファンクラブ関係の揉め事を丸く収めるのを役割としていた。
今回の犯人捜しは果歩先輩からの依頼だ。昨日グループトークで聞いてみたものの、自分が犯人だと書き込む女子は当然現れなかったのである。
「私たちもそろそろ行こっか?」
用事がなく最後まで視聴覚室にいた、理子、翼、美優の3人は彰が部活を始めるであろうグランドへと足を向けた。