3.佐古屋という青年
「え!すごい!
嘘、お店の奥にこんな立派な建物があったのね!
うわー、雰囲気あるー!」
「うん。喫茶店の奥が、家だとは思わなかったな」
「そうね。外からだと周りは木々で生い茂っていたし見えなかったのかしら、、、、、、」
少女達は普段馴染みのない建築様式と、懐かしいような木の香りに各々感嘆の意を現した。
そして、恐る恐る扉の向こうへと一歩を踏み出していく。
「皆様、同じように驚かれます。
日中電気はつけておりませんので、足元にお気をつけ下さい」
「え、ひゃっ!」
突然背後から聞こえた声に、少女達の中で一番後ろを歩いていた美優が驚く。
「大丈夫か、美優?さっきの店員さんだぞ」
美優の前にいた翼が心配気に、美優を見つめる。
「あ、うん、ごめん。いきなりすぐ後ろから声がしたから驚いちゃっただけ」
「はい!理子気を付けまーす!」
先頭の理子は、珍しさで気分が高ぶっているようだ。
――そうだ、翼の言う通りだ。灯華さんに促され、店の中を移動し始めた時に彼は一番後ろから付いて来ていた。確かお名前は佐古屋さんだったっけ。
でも、何だろうこの違和感は、、、、、、。なんて言えばいいんだろう?
――まるで、突然後ろに現れたみたい。
声を掛けるまで、彼は後ろにずっといたはずなのだが気配が消えていたような。そんな変な感覚がしたのだ。草履ならまだしも、下駄って結構音するよね?
美優はそっと後ろを振り返り佐古屋を、見る。
彼は、最初に会った時と同じようにふわりと微笑んだ。
美優にとってまじまじと彼を見つめるのは、これが始めてだ。
ちょうど扉を閉める前だったため、彼の姿は喫茶店の明かりを受けて浮かび上がり、この場にいる誰よりもはっきりと見えた。
――理子ちゃんも、翼ちゃんも納得したようにやっぱり、かっこいいな。
微笑んだ顔はまるで、陶器で作られた繊細なビスクドールのようだ。髪の色は少し茶色が混じっているのだろうか、毛先が光で透ける感じがする。美優の学校の男子はワックスとかいうもので髪を遊ばせるのを流行りとしていたのだが、何もつけていないサラサラと自然な髪質で一般的な長さだ。前髪は少し長い気もするが、野暮ったい感じは受けない。
身長は背が高いことで有名な、体育教師の田中先生くらいか。だとすると、180cmはありそうだ。
「どうかされましたか?」
「い、いえ!何でもありません、、、、、、」
――見つめ過ぎてしまい失礼ではなかっただろうか。
いそいそと学校指定のローファーを脱ぎ、きちんと揃えると二人を追いかける。
――さっさと目的を済ませ、早く家に帰ろう。
目前に続く長い廊下を、少女達はゆっくりではあるが確実に前へと進んでいった。