#007 執事は辛いよ
最近とても寒いですね〜。
パソコンがフリーズしてこっちも大変ですが、まだまだ頑張ります。
──身辺警護2日目。
執事の朝は早い。
どれくらいかというと、時刻は午前4時30分を回った頃には支度を済ませなければならない。
主人たちが目覚めるまでの約3時間。我々は絶対に音を立ててはいけない。
一昨日にこの職に着いたばかりのトウマには荷が重いものだ。
炊事、洗濯を静かに手早くこなし、メイドたちと一緒に朝食を食べる。片付けもせっせと行い、午前5時30分頃からもう一度、主人たちの朝食を腕によりをかけて作る。
身辺警護にあたる者が主人を起こしに向かい、朝の仕事は終了。
なのだが……どうしてこうなった?
「トウマぁ?早く着替えさせて」
朝の支度は執事やメイドが行うもの。でもこれは……ダメだろぉ。
そばには14歳の幼気な少女が半裸で寝そべっている。これが王族の当たり前と理解しながらも自分の行動に少なからず罪悪感を感じるこの瞬間。通報されてもおかしくない。
「キ、キルカ⁉︎ダメだってせめてあっち向いてって」
「いいじゃない。朝なんだから」
「夜なんだからみたいに言うのやめて。そいうことは夜にしてぇ──!」
数分後──。
まあいろいろあってから、着替えを済まさせて食堂へ移動する。
綺麗なテーブルの上に置かれた高級フレンチ顔負けの朝食がずらりと並ぶ。
それを、公爵とその娘である姫たちが食べる。この公国の君主である公爵は不機嫌そうに、娘たちはキルカを除いて気だるそうに食べている。
公爵であるサラバ・グルス・モノロイドは傲慢だ。何かと使用人に文句をつける。使用人が嫌がるのも納得だ。
キルカは美味しそうに食べている。
「ねぇトウマ」
「なんですか?キルカ様」
「だから様はやめなさいって。もっとフランクに」
「キルカ様、主人と使用人は主従関係でございます。そのような言葉使いは、『周囲の人がいる場合は』誤解を与えかねません」
「そういうこと。仕方ないわね、じゃあ使用人さん」
「なんでしょう」
「この後の予定を教えてくださる?」
「かしこまりましたました」
◇ ◇ ◇
9時15分 諸外国の使者様との会見
「よくいらっしゃいました」
「お目にかかれて光栄です。キルカ・ドラーノ・モノロイド様」
「それでは、交渉を始めましょう」
キルカが14歳にして公務を行える理由。それは、頭脳にある。彼女の頭脳は賢者クラス、元の世界でいうと博士号にあたるっぽい頭脳の持ち主なのだ。
結果として、彼女の交渉には負けがない。
「──ではこれで決まりです」
「……わかりました」
してやられた使者は虚しそうに本国へと帰って行く。
公国については詳しくないが、公国は名の通り公爵が治めた小国を意味する。でも、公爵は爵位、誰かがその称号を与えなければ、公爵にはなれない。そうだとすれば、この公国の上にはもう1つ、大国があるのだろう。
「トウマ!ぼさっとしないで!」
「は、はい」
◇ ◇ ◇
13時30分 村の治安確認
「ここが、クルヌマ村……」
「クルヌマ村はねぇ、ここらの村じゃ一番治安が悪いの」
「え?そんな村に公女が来ていいの?」
「なに言ってるの?そのための身辺警護じゃない」
そいうことか。
トウマは深く納得して、ため息をついた。
が、実際に敵を撃退することは出来るのだろうか。額から汗がスゥーッと落ちる。
「おい、あんたら」
枯れきった声が二人の足を止める。声の主は目の前にいるがたいのいい男だった。
その腐ったような容姿は都会育ちのトウマには耐えられないものがあった。焦りが恐怖へと変わってゆく。一歩一歩近ずいてくる男に、恐怖を抱いたトウマはそばにいる少女にいった。
「ここは危ない逃げようキルカ」
少女からの反応はない。
「なにしてるんだ!逃げるよ!」
「トウマ。あいつを捉えなさい」
「はぁ?捉えるって、ぼくの仕事は身辺警護だ。君の安全が最優先だよ」
「……」
頑なに動かない少女とは対照的に男はグイグイとつかずいてくる。トウマは恐怖に耐え切れず、少女の手を取って走った。
しばらくして男の影も見えなくなった。
「何をしているの?」
キルカがキレ気味に言う。
彼女の仕事の中にヤツと闘うことは含まれているとは思えない。試しているのだろうか?
「ヤツと闘ってどうするのさ?」
「捉える。あいつがいるせいでこの村の治安は悪くなっている。諸悪の根源ってやつね」
「それも仕事?」
トウマは薄々勘付きながらも一応聞いてみる。
「当たり前でしょ」
「はぁぁー」
ため息をつく頃には恐怖は消えていた。
少し足が重いが行くしかない、そう言い聞かせてトウマは村に戻る。
◇ ◇ ◇
「戻ってきたか……ククッ」
当たり前のようにそこにいるなよ〜。
思わず言ってしまいそうな本音をこらえて、Lv 改竄を発動する。
『Lv 15 → Lv 60』
就職試験の時よりもLvを上げているが、コツは掴んできたから手加減もできるだろう。
そう考えたトウマはあらかじめ警護のために装備していたショート・ソードを腰から抜き、男に向ける。男は嘲笑したまま少しずつ距離を縮めて来る。それに合わせてトウマも距離を詰める。ソードを両手でしっかりと握り、準備万端あんトウマに対し男の武器は錆びたナイフ、勝負は見えているように思えた。
次の瞬間、男は一瞬で距離を詰めて言った。
「聖なる光」
これほど似合わない言葉を言うとは思わなかった。しかし、その言葉と同時に周囲は眩い光に包まれ、相手の姿は見えなくなった。
「気をつけてトウマ!そいつは元魔導騎士っぽいわよ」
キルカの言葉が頭に響く。
もう少し早く言って欲しい!魔導騎士なんてのもあるのか?
トウマは光の中で困惑しながらも冷静に状況を把握していた。
「喰らえ!」
殺気の声とともにナイフの先端がトウマに向かって来る。それを察したトウマはショート・ソードで防ぐ。
相手がひるんだ隙に速攻の突き技。前のような藍色の光は出なかったがしっかりと手ごたえのある一撃を入れる。
「うぅ……」
先ほどのまでの勢いをはなくなり、相手が隙だらけになる。よし、今だ……。
「ネット!」
捕獲するための魔法っぽいものをトウマではなくキルカが放つ。
「ちょっキルカ!いいとこ取りしないでよ!」
「女々しいこと言わない!早く縛って」
言われた通りに四肢を縛り、地面に転がせる。
「こいつは墓荒らしって呼ばれてるやつね、標的が死んででも相手の財産を狩り尽くすことからその名がついたわ」
「うわぁ」
今にも手を出しそうなぐらい蔑んだ目をしているキルカをみて少しばかり墓荒らしに同情する。とは言っても、犯罪者を放っておくわけにもいかない。キルカとトウマはモノロイド公国の警察まで墓荒らしを運んだ。
「これで今日の公務はおしまいです」
「わかったわ。最初にしてはなかなかだったわよ」
キルカからの初めてのほめ言葉に喜びを隠せないトウマだった。
◇ ◇ ◇
「墓荒らしがやられたってよ」
「それは大変」
「一番の下っ端を仕留めたぐらいで」
「調子乗らないで欲しいな〜」
1人、公国の中で随一の力を持つ男。2人、公国で随一の魔力を持つ女。3+4人、公国で随一の頭脳の兄妹。
公国の内部に潜む闇をトウマはまだ知らない。
夢の高校生活も近いですが、次回の話はもっと面白くしたいです。
ブックマーク・評価・感想をオネガいします。お願いします。