#006 新転地
新展開投入!序章も残り半分となりました。
これからもよろしく御願いします。
早速の誤字脱字の報告ありがとうございます。
「今日からお世話になります。アスト村から来ました、コバヤシ・トウマです。トウマって呼んで下さい。よろしくお願いします」
手早く、自己紹介を終わらせて仕事の説明を受ける。
トウマ以外の執事は見るところ5人。いずれもなかなかの高齢で、いかにも出来る紳士という感じがする。
「ではトウマさん。我々、執事の仕事は主に炊事、洗濯、主人のお世話、そして、主人の身辺警護にあたります。トウマさんは経験がないとのことでしたので、執事長のアラタさんに世話役を頼んでおります」
「ご、ご丁寧にありがとうございます。精一杯頑張ります」
「アラタさん!新人のトウマさんです。よろしくお願いします」
「おぉう」
と言って物陰から出てきたのは6人目の執事。執事長、トオトキ・アラタだった。
今までの5人とは打って変わって、ゴツい体に眉間に大きなシワの入った顔。到底、執事になる人とは思えない男だった。
わかりやすく言うとヤクザだった。
「今日からお世話になります、コバヤシ・トウマです」
「自己紹介はいらない。とっと仕事を始める。経験がないのなら、腕は立つか?」
「そこそこですが……」
「よし。じゃあ、まずは俺が実力を見る。及第点なら身辺警護を任せる」
「わかりました!」
◇◇◇
「ルールは簡単。先に相手を参らせるか、意識を失わせた方の勝利。魔法の使用は可。人体への直接攻撃もありだ。ではいくぞ」
アラタさんの合図により模擬試合が始まる。
アラタさんの装備は短剣と先ほどの執事服に急所を守る防具をつけただけのもの。対して、トウマは手帳に厨二臭いあの服装。防具には大した差はみられない。が、魔法の使用が可ということはLv改竄もありになる。少し罪悪感を感じながらも手帳に書き込む。
『Lv40、武器生成・片手剣』
さすがに全力を出すわけにもいかない。
いつものLv15からワンランク上げてLv40に改竄して片手剣を具現化する。
全力時に比べると力の入り方が圧倒的に弱い。片手剣もエクスカリバーと比べると発布スチロールのように軽い。
「行きますよ!」
「遅い──」
気がつくと、体が宙を舞っていた。
触れられてもいないのに、気迫と素振りによって生まれた強風で飛ばされたのだ。
なんというパワー。
「おいおい、こんなもんか?」
「これからですよ!」
着地して全力で相手目掛けて駆ける。軽い片手剣に精一杯の力を込めて2連撃。
ミストを倒した時のような光は生まれず、擦りもしなかった2連撃が風を切る音が聞こえる。
「ちっ──はぁぁぁぁぁぁああああ‼︎」
ダメ元で振った剣がアラタさんの剣に当たる。
今までに感じたことのないような腕の痺れと緊迫感。トウマの剣は藍色に輝いていた。
ミストの時の閃光とは一味違った感覚がある。なんというか、『これが本当の自分の力』という感じだ。
「驚いた……テフニカを使えるのか⁉︎」
「テ、テフニカ?」
「知らずに使ってんのか?はっはっはっはぁ。おもしれぇなぁお前。名前はなんだっけか?」
「コバヤシ・トウマです」
「そうか。トウマ!合格だ。明日からキルカ嬢の身辺警護に当たってもらう。テフニカの話はまた今度だ」
「わっわかりました」
◇◇◇
──翌日。
「改めて、今日からキルカの身辺警護にあたることになった、トウマです」
「身辺警護?トウマって強かったのね」
「いやぁ……そこそこだけど」
トウマは、だだっ広い城の中を歩きながらそう言った。
昨日の決定でトウマの仕事は身辺警護となった。
公族の身辺警護を任される場合、一時的に準騎士の資格が与えられるらしい。因みにアラタさんは聖騎士の資格を持っている。
「今日は特に国務はないから、私が城の案内をしましょう。身辺警護の任はしっかりと果たしてくださいね」
「了解!」
真っ白な空間にこの広さとくると、ドールと出会う、あの空間を連想する。
天井には無数の天使の絵。壁には歴代の国王。いかにもな城だった。
キルカの案内で、一つずつ部屋を回る。
「ここは、謁見の間。許可なく入ると斬首だから気をつけてね」
「ここは、舞踏の間。貴族や王族のパーティー会場よ」
「ここは、決闘の間。立会人の元で決闘が行われた場合、敗者は勝者に隷属するわ」
「ここは、拷問の間。敵国の捕虜を拷問する場所よ。いろんな意味で……ね!」
「ここは、娯楽の間。城内にいるものの憩いの場よ」
「ここは、寝床ね」
いろいろ気になる部屋はあったが、取り敢えずは大体見ただろう。
「ん?」
ふと、まだ入っていない赤色の扉を見つける。
真っ白な城の中では一際目立つその扉は、怪しげな光が扉から漏れている。
ゴクリと生唾を飲み込んで扉を開ける。
「そこはダメ。ダメだってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
言った時にはもう遅い。キルカの忠告より先にトウマは扉を開けてしまう。
そこには──たくさんのぬいぐるみが転がっていた。
ぬいぐるみに関しては素人のトウマも、質の良さと量の異常さは理解出来る。言うなれば、最高級のブランド品の素材を、そのままぬいぐるみにしたかのような。
顔を赤らめて絶句する彼女をよそに、トウマはクスクスと笑いを堪えていた。
「キルカって、やっぱり子供だったんだね」
「ど、どういう意味よ⁉︎」
「いやぁ……ねぇ……」
意味深に言葉を濁すトウマの目線は部屋の方を向いていた。
第一に、トウマはまだキルカの部屋とは言っていない。それでも、キルカには十分すぎる恥だったのだろう。
さっきまでのテンションはだだ下がりだった。
「元気出してよ、キルカ」
「私は十分元気です!」
意外な一面をもう一度見せたキルカに意外と心を惹かれいることにトウマはまだ気づいていない。
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次回も16時投稿です。※2日後のです!