#004 夫は転生者でした
急展開からの新事実。トウマの活躍はまだまだ止まりません。
最近、荒野行動に嵌りまくってます。
嵌る=ハマるを最近知りました。
「なんだこの水?」
空を覆い隠す大量の水。
女将さんの指差す方向にはそれがあった。
ひょっとしたら、さっきまでの水生成がついに効果を現したのだろうか。
「うっ眩しい」
見ると手元にある手帳が光っている。
『水生成料が限界に達しました。手帳をかざして水を放出してください』
頭に直接、声が響いてきたような感じがした。
水を放出?手帳をかざす?当然のごとく、トウマは動揺する。
「何ヲ・シテイル」
しびれを切らしたミストが攻撃してくる。
ヤバッ。また避けられない。
突然の攻撃に体制を崩し、手帳を落とす。直後、『ドーーーーン』という凄まじい音ともに激しい雨が降り注ぐ。
「ん?なんだ⁉︎雨?」
上空にある水が炸裂して雨となり降りかかった。
その証拠に、光っていた手帳が元どおりになっていた。
「ミ……ズ」
雨がミストにかかり、透明な巨体から銀色の球体が露出する。
「お客さん!あれです。あれが核です」
「やっぱりか。もっと離れてください、女将さん!」
あの銀玉目掛けて攻撃すればいいだけだ。集中!
トウマは自分に言い聞かせる。これを逃したらもうチャンスはないだろう。
「──ウッ」
雨の影響のせいか、明らかにミストの動きが鈍くなっていた。
先ほどまでの俊敏な動きとは一線を画す鈍い動き。Lv最大で底上げしたトウマの身体能力を行使すれば隙を突くなど造作もない。
「そこぉっ!」
自分の力を聖剣に込めて撃ち放つ。
光の刃、正しく閃光と呼べる一撃が巨体目掛けて放たれた。が、惜しくも核には届かない。
魔法のような現象に驚く暇すらない。
「フザケルナ!」
「まだだ!」
もう一度、聖剣を強く握り、大きく跳ぶ。
先程の要領で力を込めて撃ち放つ。
光の刃がまたもや、夜空をかける。そして、ダメ押しの物理攻撃。
エクスカリバーは核に突き刺さっていた。
具現化した武器は持ち主から手を離れて数秒が経つと具現化が解ける。
──数秒後。
エクスカリバーは光の粒子となって消えた。それと同時に核もヒビが広がり崩壊する。
「バ・バカナ」
段々とミストの体にもヒビが入り崩れ始める。
大きな音がするわけでもなく、静かにミストはチリになった。そこには、ベァーウルフと同じように綺麗な宝石があった。
しかし、色も大きさもまるで違った。
◆◆◆
【使徒への転生権】 ☆10(最大)
詳細は不明。
◆◆◆
使徒への転生権?
詳細不明って……。意味ねぇじゃんこの力。
いまいち、この宝石も能力の使い方がわからないんだよなぁ。後で女将さんにでも聞くか。
『ステータスダウン』
『Lv15、体力回復』
「よし、こんなもんか」
ミストを倒して経験値が貰えたと思ったが、Lv最大だったので何も変化しなかった。
そういえば、ベァーウルフのときもなかったしな。
「お、お客さん!大丈夫ですか?」
「問題ないです」
「そうですか。ご無事で何よりです」
「そんなことより、さっきの使徒ってなんですか?」
「──使徒は神々の使いです。天使とも呼ばれ、一部の宗教からは信仰する対象にもなりますが、実際はただの人殺しモンスターです」
「人殺し……ですか」
「使徒の殺傷対象は人間そのものだけではなく、人間の作り出すもの全てを対象とします。町や村を襲うこともあります。定期的に国の兵士が動きますが──あの強さです。敵うはずもありません。そのため、天災と呼ばれて放置し続けました」
「国が放置したのですか?」
「そうです。天災に人類は立ち向かえないと放置したのです。これにより、人類は5大勢力から脱退しました」
「5大勢力とは?」
「ご存知ないのですか?人類を含む亜人たちの共同勢力です」
共同勢力、国連みたいなものかなぁ。
──亜人って言った?
「亜人!」
「はい?亜人ですが」
「亜人って、エルフとか獣人とかドワーフとか竜人とかすか!」
「え、えぇそうですけど」
「この世界にはたくさんいるんですか?」
「この世界?お客さんもしかして転生者ですか?」
えっバレた?バレちゃまずいんだっけ?ってかなんでバレたの?
こんなにテンション高いから?
あまりの急展開にトウマは額に汗を浮かべながら言う。
「な、何を言いますか女将さん。ぼくはこの村で生まれてこの村で育った村人ですよ」
「村人?じゃぁなんで宿屋に泊まるんです?」
「そ、それはアレですよ…」
「わざわざ隠さなくてもいいですよ。私の夫も転生者でしたからよくわかります。場所を変えましょう」
「──はい?」
◇◇◇
しばらく歩いて宿屋に戻った。
薄暗い食堂でロウソクに明かりを灯す。
「では、どこから話しますか」
「まず自己紹介しませんか?ずっと女将さんと呼ぶのも堅苦しいので」
「そうですね、そこから始めますか。私はクラヤマ・ミカです。ミカでいいですよ」
「ミカさんですか。ぼくはコバヤシ・トウマです、トウマって呼んでください」
「では本題に入りましょう。私の夫、倉山・ソウゴは転生者でした。彼が現れたのは15年前、ひょろっと現れ、世界を救いました。周りからは英雄などと囃し立てられました。彼はそれが嫌だったのか、公爵からもらった領地をアスト村と名ずけ、引きこもりました。その後、村を訪れた奴隷商人に話をつけてたくさんの奴隷を買いました。それが私たち村人です。最初は皆、怖がりましたがだんだんと打ち解けていき、今では立派に村を支えています。そんなある日でした、彼の提案で立ち上げた冒険者ギルドにある連絡が届きました。『使徒出現、直ちに退避せよ』との知らせでした。彼は考えました。村を捨てるべきか守るべきか、悩んだ末にでた答えが守るでした。翌日には、愛用のロングソードを持ち討伐に出ました。そして、死にました」
「…この村で日本語が使われていのは、ソウゴさんの影響ですか?」
「その通りです。奴隷の私たちにとって文字はわかりません。そこで、彼に読み書きを習いました」
「では、この村以外では通じないんですか?」
「いえ、漢字は王侯貴族などしか知りませんがひらがな平仮名・片仮名なら誰にでも通じます」
「そうですか」
王侯貴族が漢字かぁー、イメージ違うなぁ。
やはり時代設定はどこかズレている、そんな気がする。
「私からも質問いいですか?」
「もちろんです!」
「夫の世界について教えてください」
「いいですよ…………」
トウマは元の世界のことを全て話した。元の世界の技術や食べ物や国など、思いつく限りのことを語った。あまり熱心に聞いてくれるものだからついつい会話にも熱が入った。
お互いの世界についてある程度の知識をつけたところで夜が明けた。
「トウマさん、ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ」
「他に私に質問はありますか?」
「そうですね‥では、公爵家の事情について教えてください」
「公爵家ですか。私たちはあくまで村人なので夫から聞いた話になりますけど、この村を治めるモノロイド公国の現在の君主はサラバ・グルス・モノロイド公爵です。サラバ公爵はとても傲慢な方で公国歴50年の恥さらしと呼ばれています。そのため使用人も減り続けているらしいです」
「そうですか。じゃあぼくが見た使用人募集の勧誘は……」
「はい。このためだと思います」
「なるほど」
「もし、公爵家で働くつもりでしたら住み込みになりますね。トウマさん現在の資金は大丈夫ですか?」
「ん?そうだった金がない!」
「やはりそうでしたか。私の宿は夫からの遺言でツケが効くんです。今度また返しに来てください」
「いいんですか?」
「はい!」
ミカさんと別れて死んだように床に就く。
異世界に来て初日で色々ありすぎだろう。
WEB小説でたくさんの異世界転生作品を読んできたけど、1日でここまで過激なものはないだろう。
◇◇◇
──翌朝というか今朝。
少し仮眠をとり、トウマは荷物をまとめて市場に出ていた。まだ疲れはとれていないが、さほど問題ない。
ミカさん曰く、宿のすぐ側ににアイテム鑑定をしてくれる店があるらしい。
ここかぁ……。着いたのは元の世界で言うと雰囲気の良い喫茶店のような店だった。
「すいませーん!明清のミカさんのご紹介で来ました」
「いらっしゃい」
出てきたのはバーテンダーのような服を着た老人だった。どうやら店主のようだ。
「えっと、ミカさんの紹介だったかな」
「はい、アイテム鑑定をお願いしに来ました」
トウマは予めメニューから出しておいたアイテムの宝石を差し出す。
宝石は5つ。
色も大きさそれぞれ異なるが、金額に期待できるのは元々アイテムの中に入っていた『売却用鉱石』とミストを倒したときにゲットした『使徒への転生権』だ。
「では鑑定を始めます」
店主はポケットから老眼鏡をとりだして、片眼につける。
「──はっ」
店主が何かを念じるように見えたその瞬間、アイテムたちの姿が変貌する。
鉱石やツノが姿を現した。すごい!まるで魔法だ。昨日も自分で使った気がするけど、とにかく魔法だ。
目の前の現象にトウマは心惹かれていた。
「ん?」
興奮の最中に異変が起こる。
「1・2・3・4…ん!?5つ目がない!」
アイテムの本来の姿が見えるなか、『使徒への転生権』が消えていた。
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次回は15時投稿です。
1日1話投稿はあと3回まで続けます。その後は3日に1話投稿になります。