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序章-1-1「心《こころ》の場合」その1



 週末の朝、まだ朝靄の残る早朝と言って差し支えの無い時間。私は一人、自転車に乗って峠の麓へとやってきた。自転車と言っても、通学・通勤に使う一般的ないわゆるママチャリではない。舗装路で行われる競技の為に最適化されたスポーツ車、ロードバイクだ。そして今来ている峠は、そうした自転車の地元の愛好家達がトレーニングの場として集まるちょっとしたメッカになっている。

 私も形式的にはこの峠を登る為にやってきたわけだが、それはあくまで建前。本当の目的は別にある。

 登り坂が始まる手前の道路脇に自分の自転車を置いて一休み。いや、正確には、一休みを装ってある人がやって来るのを待つのである。

 メッカとなっているだけあって、週末ともなれば早朝にもかかわらず多くの愛好者、流行りの言葉を使えば「サイクリスト」と呼ばれる人達が、皆それぞれのロードバイクに乗ってやってくる。

 一人、また一人。また時にはグループで、私の前を通り過ぎ、峠の山頂を目指してこの厳しい峠道へと挑んでいく。中には毎週のように通っている私の事を覚えてくれて、「今日も早くから来てるねー」なんて声をかけていく人も居た。

 しかし、ここに来て既に1時間。待ち人はまだ来ない。

 事前にあの人のSNSやブログはチェックしたけど、今日はレースや走行会には参加していないはずだ。 それとも、今日はどこか別の場所に走りに行ってしまったのだろうか。

「空振りだったかなぁ」

 サイクルジャージのバックポケットからスマートフォンと取り出して、短文投稿型SNSのアプリを開く。タイムラインを遡ってみたが、今朝からの更新は無く待ち人の動向はわからない。我ながらストーカーじみた事してるなと、少し後ろめたさを感じてしまう。

「このまま帰ろうかなぁ、体も冷えてきたし」

 時刻はまだ7時半、春とはいえ、まだまだ朝は冷える。自転車で走っていれば体も暖まるのでそれほど気にならないが、吹きさらしの田舎道で立ちっぱなしは辛いものがある。


「・・・・・おトイレ行きたいかも」

 体が冷えると尿意も近くなるのが世の常である。


 峠には登らず、来た道を戻り、コンビニに寄ってそのまま帰ろう。そう思ってガードレールに立てかけてあった愛車を引き起こしたその時だった。

 私が今まさに戻ろうとしていた峠に続く道を、誰かがこちらに向かって走って来ている。まだ遠くて、その姿は見通せない。

 でも私には判る。

 他の男性サイクリストとは違う、細身で小柄なシルエット。

 頭は起こし気味で、レース仕様と言うよりは、ロングライドに向いたリラックス型のフォーム。

 上半身の挙動を抑え、腰から下だけを使って走る独特の高回転型ペダリング。

 トレードマークとして周辺の自転車乗り達の間で認知された上下ブルーのサイクルジャージ。

 バイクはanchor RS6 SPORT で、ブルーのオーダーカラー。

 あの人は、あの人こそは。


「あ、おはよう。今日も会ったね!」


 私の憧れの人!!

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