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優しい西日・下  作者: 藍川牡丹
9/14

帰国

不思議とさほど日本を恋しいと思う事もなく、


夏休みに一時帰国をする事もなかった。


時は流れ

もうこれ以上休学が認められないところまで時間が経っていた。


二回生でフランス留学をした美香なので


在仏中に取得した単位がいくつか認められるとしても確実に卒業に必要な単位が足りないのだ。


数だけの話ではなく、必須科目の単位の為に帰国しなければならない。留年も確定だろう…。


気が付けばもう3年もパリにいた。


拒否すれば在学資格を失う。


本当のところ、それでも良かったが ここに至るまで沢山の人に助けられた。


もう思い出すこともなくなっていた達也と紙袋の三百万円。


「まりもは生きています」という北海道の土産。


恭子ママに廣川氏の顔…。


恩人たちに対する誠意もあり帰国を決めた。


それともう一つの理由は、パリに留まりたいという強い思いもなかったから。


不思議と充実した日々を送っているはずなのに

どういう訳か心からの充実感がない…。


私は幸せなんだろうか?

身辺を見渡せば「自分が幸せである」という物質的な証拠がごろごろと転がっていた。


おしなべて私は幸せである。


でもやっぱりパリに残りたい、

ここが自分の生きるべき土地である。

そういう強い強い思いが沸いてこなかったのだ。


パリに住み、もう一つ気が付いたことがある。

それは後何年ここに居ようとも

やはり自分が日本人であること。

日本人としてのアイデンティティーが変わることはない。


パリの青年は美香に求婚をした。日本の大学を卒業したら一緒に暮らそう。


結婚をして永住権を取って欲しいんだ。僕は子供が欲しい。ここで美味しい料理を毎晩楽しもう。


何故だろう…いつも祐介と重なっていた彼が 最後の最後になって別人に思えた。


彼の求婚には答えなかった。


少なくとも丸1年は男女の関係であったのに。


一緒に食材を買いに出かけたり、カフェで朝ごはんを食べたり その日々は本当に心地よく満たされていて幸せだった。


魂は繋がっていたはずなのに…


青年はひどくひどく落ち込んだ。


愛し合っているのに一緒にいられないのは受け入れがたい現実だった。


最後はひざまずき泣きながら美香を見上げて 関係の継続を懇願した。


それでも美香の心は変わらなかった…。


自分は結婚すべき人間ではない。心の奥底でそんな思いに支配されていたのである。

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