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優しい西日・下  作者: 藍川牡丹
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諸刃の剣

日曜日にも何も出来なかった。


「本当に申し訳ない」という文面から 不慮の事故なのだろうか?


ようやくパンをかじる気になり外へ出た。


パン屋のイートインスペースで甘いデニッシュをかじりながらコーヒーをすすり


手紙の文面の「亡くなりました」がどんな意味か分からなくなっていった。


帰りに寮の近くの公衆電話から淳史の家に電話をかける。


17時を回っていて、日本では深夜0時過ぎにあたるが


もうそんな事はどうでもよかった。


何度かベルがなると淳史本人が電話を取ったようだ。


「美香ちゃん、祐介は俺のせいで撃たれてた。本当に申し訳ない。」


住む世界が違うからなのか 淳史は詳しくは語らなかった。


祐介はやくざ事に巻き込まれて命を落とした。


背格好の似ている組員と間違われて銃殺された。


そういう内容だった。


美香は悲しみよりも怒りに震えていた。


「なんで?なんで頑張って生きている人が死なないとあかんの? 自分が撃たれれば良かったとちゃうの? 自分が死ねばよかったとちゃうの?」


この落とし前は…と淳史は謝り続けた。彼女からの諸刃の剣に胸をえぐられながら…。


「あんたも今すぐ死んだらええねん」


美香にはもう自分が何を口走っているのか記憶になかった。


帰国したら線香をあげに来てくれないか。


もらって欲しい遺品があると淳史は静かに告げた。


その夜は涙が止まらなかった。


浮かんでくるのは未来に希望を見出していた祐介。


きちんと安全運転をしてくれる優しい姿。


白米やお寿司のしゃりを手伝って食べてくれるところ。


楽しかった普通の恋人のデート。


安心するまで抱きしめていてくれる優しさ。


いかにも都会育ちな清潔でシックな服装。


この若さで亡くなるなんて早すぎる…。


もっとずっと彼を見ていたかったし、その誠実な人柄に触れていたかった。


本当に祐介と結婚すると思っていたから…。


これから一生 一緒に生きてゆく人だと思っていたから…。


あの日から美香は、一人の若者の想いをずっと胸にしまっている。


幸せと希望を目前にして人生が終わってしまった青年。


その人の事をずっと忘れないし 忘れる事もない。

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