知らせ
婚約中という人生で最も幸せで、特別な時間の中でその悲劇は起きたのである。
講義の後、寮に戻ると手紙を手渡された。
毎月届くはずの祐介の手紙が少しばかり遅れてはいたが、彼も忙しいのだろうと思っていた。
差出人が「内藤淳史」(祐介の兄)だと分かると 一瞬みぞおちの辺りがキュッとするような
身体が嫌な反応を見せた。
それでもゆっくりと封筒を開封してゆく。
「美香ちゃん、1月8日に祐介が亡くなりました。本当に申し訳ない、」
頭が真っ白になりその文章の意味がよく分からなかった。
意味が分からないというのに鼓動がだんだんと早くなり息苦しい。
みぞおちが今度はキューっとはっきり痛む。
無意識に少しだけ動かした手にグラスが触れ 床で粉々に割れた。
動揺してまた手を動かし、今度は草花を活けてあるグラスも床に落ちた。
うまく呼吸ができない。
その日の事はここまでしか記憶にない。
翌朝、机に置いてある手紙を見つめてやはり 知らせを受け取った事が真実だと再確認させられた。
「美香ちゃん、1月8日に祐介が亡くなりました。本当に申し訳ない、」
汚い文字も昨日見た通りのままだった。
その日は何も口にせずに一日中寮にこもっていた。
幸いにも土曜日で留学生のサロンがあるだけだった。