5.旅立つ前の異世界飯
「そなたのための料理だ。家族の前であるし、礼儀など気にせず沢山食べるといい」
父様はにこやかにそう告げた。沢山食べろと言われるまでもなく食べるつもりではいましたけどもね。
華やかに彩られた食卓は今までに見たこともないような料理が並んでいた。見たことあるものだって色が違うし、何だこれ。じゃがいもみたいな見た目してるくせになんか...赤いんだけど。どうしよう、食べたくない。
「父上、シアンは産まれたばかりなのですし見た目はこれでも赤子同然。固形物は受け付けないのでは?」
父様が盲点だったとでも言うように、確かに...と呟いた。いや、全然気にしないで、食べれるからね!?
ていうか、セラ兄様見た目はこれでもって結構酷くないですかねぇ?確かに赤ちゃんというよりは幼女に近いですけれども?これでもなんて言い方はそれなりに乙女心にくるものがありますよ?
「ふむ、流動食にするか...」
ボソッと耳に入ってきた父様の言葉にバッと顔を上げブンブンと首をふった。それはもうもげるんじゃないかってくらいに。
「とうしゃ...とうさまっ!!」
ん?と父様がこちらを向く。端の方でシアンが噛んでるっ!可愛いっ!なんて悶えてるアレン兄様はほっておいて私は身を乗り出さんばかりの勢いで父様に進言する。
「わたしっ、ふちゅうのごはんでだいじょうぶですっ!」
「しかし、そうは言ってもなぁ」
渋る父様に、どうしようと悩みチラッと見上げ小さな声で囁くように言ってみた。
「とうさまや、にいさまたちとおんなじのたべたいにゃ」
「そうか、そなたは愛いな。せいぜい喉に詰まらせるようなことはするなよ」
愛い!?どこからそんな結論に至ったんですか、父様!?
しかし許可は取れたので食べたいと思います!初の異世界ご飯!!色合いは気にせず味わおうと思う!美味しさには色合いも大切て知らないのかな?!
と、とりあえず赤いじゃがいもモドキを食べよう。
恐る恐る口に運んでいきカプリと小さな口で頬張る。
「んんん~~~~!!」
なにこれ!!スッゴク美味しいんだけど!!じゃがいも何て誰が言ったの!?これはまさしく、甘い甘いサツマイモ!スイートポテトだよ!!
見た目に反して素晴らしい味だ。
「父様~見てみてシアンの顔が緩んでるー!美味しかったのかな!」
はい!それはもうだよ、アレン兄様!
こんなに美味しくて甘いサツマイモ初めて食べた!
「ほう、アマイモが好きなのか。甘いのが好きなのならばこっちも食べてみるとよい」
ほぇー、アマイモって言うのか。うん、そのまんまだね!!センスの欠片も無いよ!!
でも美味しいから許す。美味しいと可愛いは正義だよね!
で?こっちってどっち!?どれ!どれが甘くて美味しいの!!
「とーさま!あまいのとって!!」
くふぅっ、とお向かいから聞こえたぞ。何でご飯吹いたのセラ兄様。そんなに耳に毒だったかな?私の声は。まあ、耳に心地よいものではないかもしれないけどさぁ。ご飯吹くのは酷くない?!
「(うちの妹が可愛すぎてツライ)」
その妹は兄がシスコンの扉を開いたとは露知らず、父に取ってもらった甘いご飯を美味しそうに食べていた。
一通りご飯を食べ終え、お腹がいっぱいになったところで父様が話を切り出した。
「シアン、結局結論は変わらないのだね」
兄様方は話が分からないといった風に首を傾げている。いきなり深刻な話になっちゃうけどごめんね兄様たち。
こんなにも暖かい家族がこの世界にはいる。シアンはこの暖かい中で育っていくべきなんだと思う。けどね私は死にたくないんだ。むしろいく理由が増えちゃった。こんなにも素敵な人達を死なせるわけにはいかないよ。
「かわりゃない。わたしはせかいのしゅうまつを、とめりゅ」
私の発言を聞いた父様は悲しげに目を伏せ、兄様たちは目を見開き、言う言葉が見つからないように口を開閉させている。
ごめんね、ほんとにごめん。
私の我が儘で、シアンちゃんを連れていくことになって。
一番上として穏やかに見守ってくれていたセラ兄様。
一見怖かったけど、お皿を取ってくれたり親切にしてくれたレイ兄様。
初めて自分より下の存在ができて嬉しいと、いっぱい笑いかけてくれたアレン兄様。
何も分からない私にたくさんのことを教えてくれた。こんな短時間だけどたくさんの愛情をくれたこともとっても感謝している父様。
こんな素敵な家族からシアンちゃんを引き離すなんてこと出来ない、したくない。
けど、私は死にたくないから。この居場所を守りたいから。世界の終末を止める、そのためだったら、光から離れていくことも承知の上だよ。