2.竜って何だ只の不思議世界か
「りゅうじょく...りゅうじょ、ぞくってなに?」
噛みまくったが、そこはご愛敬で。
父様そんな生暖かい目で見ないでよっ。私を抱っこしたまま、歩きだした父様に降りると言っても聞いてもらえずこの年で(中身の話)背中をポンポンされながら抱っこして散歩?するという辱しめを受けた。散歩では無かったようなんだけど。
少し開けた場所に来て大きな木の根に座る(このために私を抱っこし、歩いてきたようだ)。
「竜族の話だったな。この世界にはたくさんの種族が存在している。」
「人族や竜族、魔族などといった代表的なものから、神族といった極少数の種族までが共存している。」
魔族に神族だって?何処のファンタジーだよ。あ、自分が竜な時点でファンタジーなのは分かってたわ。他にはどんなのがいるのかなぁ、すっごく気になるんだけど。妖精とかへんてこな生き物とかがいるのかな?
「人族以外は互いに干渉しないという暗黙のルールで領域を守っている」
人族以外はってことは人族は守ってないって事なのか?何処に行っても人っていうのは強欲な生き物なんだね。本質は変わらないってことか。首をかしげ父様を見ると、難しい顔をして頷いた。
「人族は他族の領域を武力によって奪い支配し自分達の領域としている。けして許される行為では無いが、竜族の領域は犯されていなくまた他族からの要請も無いため動けないのが現状だな」
「そなたが大きくなるまでに...この世を平和にしたいものだ」
「だいじょうぶだよ、わたしがへいわにしてあげりゅかりゃ」
何で最後の大事な所で噛むかなぁ。納得のいかなかった自分の滑舌にもんもんとしていたが、そっと父様を見た。父様の顔は晴れた様子もなく、いまだに苦しそうに顔を歪めて悲痛そうに私を見ている。
私は父様の笑顔が見たいのに。どうしたのだろうかと、不思議に思っていると、ゆっくりとした動作でフワリと父様に抱き込まれた。
「すまない、本当にすまない」
いきなり謝られ混乱中なのですが。父様、私になんかしたんですか?え、え?何にもされた記憶は無いよ?物忘れって事は無いからね!こんなにもピチピチなのに、物忘れは流石に私が可哀想すぎる。
「良く、聞いてくれ。本当は伝えるつもりは無かったのだが、そなたならば受け止める事ができるであるろう」
隠そうとしてたの?何を?疑問しか生まない父様の発言に困惑し、それと同時に恐怖をおぼえた。父様が思っているよりメンタル強くないんだよ、私。むしろ、豆腐だよ豆腐。
「そなたは......生まれるはずが無かったのだ。世界の終末·ワールドエンドが始まっている、この時期に。」
生まれるはずか無かった?いったいどういうこと?ちょっと待って、私は此処にいるんだよ?それに世界の終末ってなに。ワケわからないこと言わないで......それ、ホントの事なの?嘘って言ってよ。
「わたしは、うまれなければよかったの?」
少しいや、かなり震えた声で父様の耳に入ったその声は、自分が思っていたよりも掠れていたように思う。小さな掠れた声で紡がれた、己の存在を否定するような言葉は、幼子が発するには重すぎる意味を持っていた。父様は目を見開き、言葉を続けた。
「思い詰めるな、シアン。そなたに罪は無い。世界の終末の間に生まれた子など今までにいなかったから、周りが恐れているだけなのだ。」
父様に抱かれた状態で背中を優しく撫でるようにさすられる。私の震えていた体は段々とおさまったが、心の中は全く晴れた様子は無かった。
前世で死んだばっかなのにまた死ななきゃいけないの?ふざけないでよ、折角貰った新しいこの命をそうみすみす無くしてたまるもんですか。
「その、せかいのしゅうまつはとめられないにょ?」
ぎゅっと父様の服を掴んで聞く。噛んだことはこの際気にしない。父様は視線を私から外し、遠くを見て答えた。ちゃんとこっち見てよ、不安になるじゃん。
「有るには有る。しかし、シアンにその役目を押し付けるのは...」
もどかしいその言葉に私はいっそう強く父様の服を掴み、ゆっくりとした口調で伝えた。服にシワが出来ることなんか構ってられないよ。
「せかいのしゅうまつはとめられないの?」
「...方法としては有る」
父様はくっと顔を歪め、固く言葉を発した。
そんな、辛そうな顔は見たくなかったけど私は死にたくないんだ。何としてでも生きてやるんだから。だから、とうさま、ごめん。
「シアン、そなたが辛いと思ったのならば止めろ。それほどに過酷なものなのだ、世界の終末を止めるというのは」
それでもやるよ。命は掛けることが出来ないけど、人生を注いででも止めてみせる。