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終わりに始まる異世界鎮魂歌‐End is an absolute prerequisite‐  作者: 常闇末
おわるセカイとおわらぬイノチ
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第七話 禍福は糾える縄の如し

”ここに来て、いろいろありすぎた?”


真っ白な世界。一面の雪とかはそう表現されるけど僕のいるところは、またそれとは違う。


何もないから代わりに白を置いているだけ。


“ねえ、聞いているかい。”


そんな世界で誰かが語りかけてくる。


見たことのある黒髪。長い間、一緒に育った女の子とそっくりだった。だから、その名前を呼んだ。


……柚花……?


“違うよ。僕は柚花じゃない。形を借りているだけさ”


“おかしな奴と思ったかい。けど、君はもうこんなおかしな奴と出会ってるんだ。会話するのは初めてだけ どね”


君は……誰?


“それについては答え難い。僕にも名前はあるけど、その名前はもう僕を表すには違いすぎた”


“それに君が僕を呼ぶのはおかしすぎる”


“だから君は見たままに呼んでくれ”


……分かったよ、柚花。


“うん。話を戻そう。ここに来て、いろいろありすぎた?”


何故かそれの問答には答えるのが当然に思えた。だから僕はそれに答えた。


ありすぎたさ。疲れたよ。僕は平和主義者だからね。日常を愛するのさ。


“じゃあ、なぜ日和見主義者にならないの?君は平和になれるはずだよ?”


それは極論だよ。僕は来るものを拒まない。


“そうか。それは辛いこと。君の平穏は約束されない”


いいよ。だったら僕が平和にする。


“……うん。君はそんな奴だったね”


“思い出したよ”


柚花の姿をしたそれは柚花の声で、柚花の顔で、柚花の体で、 僕を殺した。


……。


目を開ける。


いつの間にか眠ってしまっていたようだ。天井のシャンデリアがまず目に入った。


周りを見渡すと既に料理が全て準備されていることに気づく。 結構眠ってしまっていたんだな……。


「おう!和巳!起きたか!」


京二が声をかけてきたので体をおこす。


ヒラッ


僕の体にかかっていた毛布が落ちた。


「あれ?この毛布。京二がかけてくれたの」

「冗談。俺なら濃硫酸かけてるよ。ほら」


京二が顎で料理をじっと見ているミスズを差す。


また、料理をつまみ食いしようとしているのだろうか。体相応に小さく、白い手を料理へと伸ばしている 。


「あいつがかけたんだ。礼代わりに土下座してこい」

「ああ、うん。土下座してくるよ…………ってちょっと待て!」


ミスズに向かって歩き出した足並みを突然に止める。 間一髪のところであからさまな違和感に気づくことができた。


「なんだ?」

「なんだ?じゃない!僕に土下座することの抵抗がなくなったじゃないか!?お前のせいだ!」

「良い兆候だな」

「良い兆候なわけあるか!」


京二に詰め寄る。 僕をどんなキャラに改造しようとしているのやら。……恐ろしくて考えたくもない。


「まあ、土下座は冗談だとしても礼は言ってこい」


しっしっ、と京二に追い払われる。


「んなもん言われなくても分かってるよ」


唇を突きだし一生懸命、機嫌悪いアピールをしながら再び歩き出す。


「あ、あと。あいつ随分お前のこと気に入ってると思うから」


思うから?


「だから、通報されないように気を付けろよ!」


余計なお世話だ。 だけどあれもあいつなりのお節介なんだろう。婉曲しすぎてただの迷惑だが。


ミスズに後ろから近づいて声をかける。


「ねえ、ミスズ」


ミスズはあまりの質量でなかなかたなびかない髪とともに振り返った。


「ん?どうした?私が働いている間にも寝ていた和巳よ」


あれ?


「……いや、毛布を……」

「ああ、あれか。濃硫酸と迷ったが一応毛布の方をかけてやった」


何か物騒なことを言われる。


というか濃硫酸人気すぎだろ。 案外、スーパーなんかに売っているのかもしれない。濃縮還元硫酸100%として。


ミスズは体の大きさに似合わず、大人びた表情のまま、頬を膨らませていた。 これもきっと僕と同種の機嫌悪いアピールだろう。


「そ、そう。でも一応お礼を言おうと……」

「濃硫酸をかけなかったことか?」

「毛布をかけてくれたことだよっ!」


やっぱり。働かずに僕が寝ていたことを怒っているのだと思われる。


「まあ、ありがと。毛布も、働いてくれたことも……」


と言っても僕に今頃何も言えるはずもなく、とりあえず礼だけ伝えておく。 形一つで誠意は伝わるものだ。


「?お前は何か勘違いしているぞ?」

「え?ミスズが毛布かけてくれたんじゃないの?」


さっきだって濃硫酸と毛布とで迷って毛布をかけたって。


「いや、毛布をかけたのは私だ」

「ああ、ありがと」


頭を撫でてやる。


「……ゅ〜〜……。……って違う!」


とっても気持ち良さそうにしていたのに、これではないらしい。 一瞬出した満面の笑顔をすぐに引っ込めて、これまた微笑ましいぷんすか顔を出してきた。 どちらにしても微笑ましいものだ。


「和むな!」


気持ちがあまりに顔に出ていたらしい。さらにミスズの機嫌を損ねてしまう。


「……言っとくがな、」


ミスズが腕を組んでしかめっ面で言う。


「私は、自分が働かないと世界が滅びる状況になっても、」


働いている召し使いを一瞥し、


「働かない!」


と言った。 同じようなことを言った幼なじみの姿が目に浮かぶ。 二人まとめて地球に迷惑な奴らだった。


「だからな、私はお前が寝ていた間も働いていない」


最初は働いたって言っていたような……。ただの見栄だろうか。


「じゃあ、なんで僕に怒ってるの?」


怒る理由に点で見当がつかない。


「だって、」


ミスズがお腹をくー、と鳴らせて円らな瞳を潤ませる。


「ご飯食べるのが遅くなるもん」


こいつは本当に同学年だろうか。そうであったとしても変な薬を飲んで体は子供、頭脳も子供、年齢だ けは高校生とかになったにちがいない。


「まあまあ、あと少しだから」


ミスズの頭を撫でてやる。 ミスズは抵抗する気力もなく、なされるがままになっていた。


「邪魔するわよー!」


「邪魔するんやったら、帰ってー」


「はーい!」


ラミが外へ出ていく。


…………。


……ドタドタドタドタ!


「って、なんで私が帰らなきゃいけないのよ!」


しばらくすると、激しい足音とともにラミが帰ってくる。 一体どこまで行っていたのだろうか。


「いや、こっちの世界のネタの一つだったり……」


言った本人である京二が名乗りを上げる。


「……そういや京二。大阪生まれだったね……」


残念ながら、理解できたのは僕一人。他の人たちはポカンとしていた。


分からなかった人は是非、大阪の休日昼にやっている番組を見るといい。


……いや、一人でもなかったらしい。


「あれ?晋也?」


ラミの片手には晋也が掴まれていた。


「ああ。こいつの症状が少し良くなったから来たの。パーティーも遅くなると悪いしね」


そういう晋也のズボンには埃が大量に付いていた。 ……雑巾になって身を呈してまでお掃除していたんだね。偉い偉い。


「…………」


晋也はすっかり物言わぬ雑巾に成りきっていた。


「あら!ラミも来たんですか」


サラさんの声が聞こえる。


「サラ!私は晋也を連れてきただけだけど、邪魔だったら帰るわよ」


「邪魔なんて!是非参加していってください!」


人間のできたサラさんはいくらネタでも京二のような暴言は吐かない。


どうやらサラさんとラミは仲が随分と良いらしい。ラミとサラさんだって歳が違うのにタメ口なんてなか なかできることじゃない。 ……京二のような失礼な奴を除いて。


結論。京二、クズ。


「じゃあ、皆さん!主役も揃った訳ですし……」


パンッ、とどこからかスポットライトが当てられる。 矛先はもちろん、僕と京二とボロ雑巾もとい晋也だ。


「それでは、パーティーを始めましょう!」

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