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終わりに始まる異世界鎮魂歌‐End is an absolute prerequisite‐  作者: 常闇末
おわるセカイとおわらぬイノチ
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第五話 一日逢わねば千秋



「……さい!起きてください!」


声が聞こえる。

まだ意識がはっきりとしない。


「いや、ここは俺に任せろ。殴ってでも起こす」


早く起きないと身の危険が!


「おはよう!京……」


ガッ!


「おはよう!和巳!」


悪魔の声が聞こえる。


僕はなぜか目が覚めたばっかりなのにまた眠くなって……。


ビュンッ!


「容赦ないね!?」


次の瞬間には京二の拳が僕の頬を掠めていった。


「そんなに褒めんなよ。気持ち悪い」

「褒めてないし、気持ち悪くもないよ!」

「じゃあ、お前に嫌われるために言うが、実は俺、さっきからお前を起こすために何度もお前を殴ってるんだ……」

「知ってるよ!というかそんな理由で言うなよ!」


ふと、さっき目覚めた場所と違うことに気づく。

殺風景だったホールとはまるでかけ離れているが、高級そうな品々が置いてあるところは変わっていない。おそらく建物自体は変わっていないのだろう。


そんな部屋の中で、見ると僕はベッドの上にいた。


「あれ?ここどこ?」


その疑問は当たり前だった。

さすがに外を見ずに場所を特定することなんてできない。ただ、うすぼんやりと県内だったらいいな、とだけ思っていた。この時の僕の意表をつく解答をいえば県外、むしろ国外だったりすると、それになりえただろう。だが、お姫様はおよそ悪意のない顔で僕の予測を文字通り次元越えしてくれたのだ。


「はい!ここは位置情報H-bV-.bM、あなた方のところで言う異世界です!」


最初の位置情報とやらは全く分からなかったけど、最後の言葉ははっきりと聞き取れた。


「……異世界……?」


“いせかい”と聞いてさすがに伊勢海とあてる人は皆無だろう。明らかにそちらの方が現実味があるだろうに、多くの人はこう漢字をあてる。


“異世界”と。


僕も例に漏れなかった。


もっとも今の状況はそんな屁理屈をごねてられる状況では全くなく、ただの現実逃避と考えてもらって問題ない。


「ああ。サラさんの言うように、ここは、異世界だ」


その言葉で、さっき話していた女の人はサラというのだと分かった。

花のようなドレスを着て、ピンクの髪を肩程までに伸ばしている。少し大人っぽい妖艶さと少女のような可憐さを合わせ持つような人だった。


そして、彼女の名前を教えてくれた声の主を探す。


その顔は見ていてどこか懐かしく、久しく感じられた。


「…………晋也?」


文字通り信じられないものを見たような顔をする。


「おう。ちょっと会わない間に顔を忘れたか?」


短く切り揃えた髪。ガサツそうに見えて、実はしっかりしている、僕の幼なじみ。


捜し続けた生意気な顔はすぐそこにいた。


ちょっと?……ああ、ちょっとだ。でも本当にちょっと会わなかっただけなのだろうか。古い記憶のように思える。


ガッ!


晋也を殴る。


「あれ?ホントだ。ホントにいる」

「つつ……。せめて触るくらいにしといてくれよ」


晋也が毒づく。


「ああ、俺もちょっと腹たってるんだ。平気な顔でそこに立ってられるとな」


京二も軽く晋也を殴る。


「ってぇな。しばらく見ない内に随分と暴力的になったもんだ」


そんなことを言っている晋也は笑っている。……ふと晋也がドMということを思い出した。


「あ、ごめん。だってさ、幽霊かと思って」


すると、晋也は笑顔を崩さず、


「幽霊なわけないだろ」


と言った。



「死んだわけでもないんだし」



ああ、そうだ。晋也は生きている。死んでいない。


あれ?


じゃあ、なんで幽霊だなんて思ったのだろう。


「それにお前ってドMだろ?喜ぶと思ってな」


京二が晋也に笑いながら言う。

けど、心配した分、当の本人がけろっ、としているのに苛ついているのか、語調は粗い。


「冗談。俺は美少女にしか興奮しねぇよ、それに」


晋也の表情に一瞬陰りが見えた。



「死ぬほど痛いのは、御免だ」



その後も、表面上は馬鹿にしあいながらも、互いに再会を祝っていた。


でも、晋也のその言葉はその間にも僕にしつこく絡み付いてきた。





「じゃあ、歓迎パーティーをしましょう!」


サラさん、という女性がそう言ったのはその後、どれくらい経ったころだっただろうか。僕たちはパーティーの準備を手伝うことになった。


それに際して、


「じゃあ晋也さんは倉庫からテーブルを、和巳さんと京二さんは厨房でお料理の様子を見てきて下さい」


三人ともこきつかわれていた。


「三人ともって、どう見てもこきつかわれているのは俺だけだよな!?お前らは料理、下見してくるだけだよな!?」


晋也だけが不平を漏らしていた。


「いやいや、公平だよ。フェアだよ。ベリーフェアだよ。な、和巳」

「ああ。フェアフルだよ。むしろこっちがヘビーだよ。ベリーヘビーフェアフルだよ」


その不平に対して、適当なことを言って誤魔化す。


「すいません。お二人はまだこの城についてよくお分かりになっていらっしゃらないので……。それに、晋也さん。こういうの大好きですよね」

「はい!大好物です!」


欲望に忠実なやつだ。きっと晋也はあの性格でいると早死にする質だ。違いない。


「じゃあ、私たちも行きましょうか」

「「はい!」」


けど、僕らも食べ物の下見、しかも女の子と、ともなると下心を全く出さないというわけにはいられなかった。


見事にその下心が僕らに仇なし、結果的に恐怖心へと世紀の大変身を遂げることになるのだが。




「……で、こっちが使用人の部屋です」


僕らはサラさんに部屋の説明を受けていた。案の定、城には部屋が大量にあり、その様子は当に蟻の巣を連想させた。


使用人の部屋がここらにあるということはあのメイドもこの辺に部屋があるのだろうか。さすがにあのまま別れていると、誤解を招くかもしれない。あの娘の居場所だけでも聞いてみよう。


「あ、あの。サラさん」

「はい?」


サラさんが桃色の髪をなびかせ、こちらを振り向く。


「僕たちが最初にいた部屋にいたあのメイドさんもこの辺に住んでるんですか?」

「メイド…………?…………あっ!」


しばらくその小さな顔に拳を当てていたが、どうやら思い当たったようだ。


「あれはフィギュアです」

「…………え?」


思わず聞き返す。


「あれは、フィギュアです。そんなに完成度高かったですか?あはは……」


ということは、僕はもの言わぬフィギュアの前で土下座や逆立ちを……。


京二を睨み付ける。


「ん?知ってたぞ」

「知ってたんなら言ってよ!おかげで僕は人として大変なものを失ったんだよ!?」


京二が思い出そうとして顎に手を当てる、が。


「すまん。覚えてない」

「この野郎ォォォ!!」


振りかぶる手をサラさんに止められる。


「ダメですっ!暴力は!」

「止めないでください!僕はこいつに鼻からラーメンを食べさせないと怒りが収まらないんです!」


あと逆立ち。


「ああ、あれか?騙したのは良かったんだが、思ったよりも退屈で寝てたわ」

「そうかそうか。それは良かった。ついでに永眠しろォォーっ!!」

「やめてください!落ち着いてください!」


京二への制裁をなんとかサラさんに止められる。仕方ない。


「ちっ……!サラさんが止めてくれて良かったな。今頃、サラさんが止めていなかったらどうなっていたか……!」

「どうなってたんだ?」

「今頃、お前はラーメンを食うはめになっていた!」

「……随分と美味しそうな目に合わしてくれるんだな……」


哀れみの視線を京二とサラさんから向けられる。


やめて!僕をそんなバカを見るような目で見ないで!鼻から、って言い忘れてただけなんだ!


改めて言い直す。


「鼻からラーメンを食うはめになっていたんだぞ!」

「端からラーメンを食うはめになっていたのか?」


うん、どっちにしろ同じだったね。


哀れみの視線を振り払うようにさっきの話題に戻す。


「そんなことより、なんであんなところにメイドのフィギュアが?」

「ああ、あれは私の妹が作ったんですよ。よくできてますよね」


嬉しそうに言ってくる。余程、その妹さんが大事なんだろう。


「そうですね……。僕なんて土下座しましたし」

「土下座?」

「い、いえ。ど、土下座させたくなりましたし。あははは」

「そ、そうですか……」


墓穴を掘った上にそれに埋まって墓を建てられた気分だ。


「お前の思考回路って一体どこに繋がってるんだろうな……」

「うるさい、京二。元といえばお前のせいだ」


あの時は冷静さを欠いていたから、気が動転していたからあんなことをしたのであって決して素ではない。


僕の珍妙な一言を最後に僕の話のネタはなくなり、サラさんと京二は静寂が気にならないのか、しばらく会話がなかった。


ふと、思い出したことをそのまま京二に小声で囁く。


(あのさ、京二。この前お姫様風の女の子が好きって行ってなかったっけ)

(ああ、そんなことも言ったな。それが、どうした?)


どうもこうもない。これで気が晴れるわけでもないが、少し京二をからかってやりたくなった。


(じゃあ、サラさんとかどうなの?ほら!)


サラさんを指差す。本人の全てを包容するような物腰や、裾がふわりと広がったドレス。周りに癒しを振り

撒く雰囲気など、どれをとってもお姫様らしい。


(は?サラが?俺はお姫様がタイプなんだよ)

(だから、)


今、気づいた。


まさか、京二。サラさんがお姫様って気づいていない?


……見た感じで分かると思うんだけどなあ。


(そうだな。異世界だったらお姫様くらいいるやもしれん。聞いてみるわ)


京二が小声で囁いてくる。


(バカっ!やめ……)


「おい、サラ。この世界にはお姫様っていねぇの?」


事も無げに聞く。

それにしても大人っぽいサラさんをいきなり呼び捨てというところも含めて京二にはだいぶ度胸があると思う。


ギギッ、ギギギギッ、と音がなりそうなスピードでサラさんはこっちを向くと、


「…………(ニコッ)」


無言で笑った。全くの無音で。

そしていつものように歩き出した。さっきの質問は笑顔でなかったことにしたかのように。


「どうなんだ?答えろよ、サラ」


だが、この男はそれを許さなかった。凍っていく空気が見えないのだろうか。


「……そんなに知りたいですか?」

「ああ、知りたい」

「……あなたの寿命が縮むことになろうとも……?」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、何も」


今、この人。すっごい笑顔ですっごい怖いこと言ったよね。寿命がどうとかって、言ったよね。


僕は僕なりにフォローを入れてみる。


「そ、その……。女の子がお姫様じゃないかと……」


「「分かってるよ(ます)!」」


総ツッコミを受けた。


この場にいる女の子、っていう意味だったんだけど。

僕の言葉はいつも少なすぎる。


「まあ、女の子ったって会ってないもんな。お姫様っぽいやつと」


そして、こいつの言葉はいつも一言余計だ。


京二の地雷を的確に踏み抜くような言動は次第にサラさんを震わせる。噴火寸前だ。


「…………(ニッコリ!)」


彼女の笑顔が輝きを増した時、僕は覚った。


噴火だ。


こうなっては本人にそのまま伝えても状況はそう変わらないだろうし、自分の死因を知ることで、より安らかに逝けるかもしれない。僕は最期にそんな心遣いを発動してやることにした。


「おい、京二。お姫様」


サラさんを指差して言う。


「は?誰が?」


自分の危機さえ感じ取っていない呑気な顔。遺影がわりに携帯のカメラ機能でパシャッ、と撮ってからこの朴念人に告げてやる。


「サラさんが」

「???」


京二は頭にハテナマークを浮かべている。

それもそのはず。今のサラさんは虫も殺せぬお姫様のイメージとかけはなれて、熊も素手で殺せそうだ。


「……はっ!ガタガタガタガタ」


今頃、ガタガタ震えたってガタガタ言ったって関係ない。僕にできるのはこいつの死に様を見届けることだけだ。


「京二、さん」

「ひ、ひゃい!」


サラさんは笑顔をは崩さないまま。


「とても、残念です」


京二は別室に連れていかれた。


十分後。


二人が帰ってきた。


「京二さん。私は何ですか?」


サラさんが僕の前で、京二にその質問をする。


「……はい、お姫……。いや、違う!こいつは悪魔だ!和巳!たすけ、ぎゃっ!」


突然、気を失う京二。サラさんはなおも表情を崩さず。


「とても、とっても。残念です」


再度別室に連れていかれる京二を僕は静かに見送った。



三十分後。



帰ってきた京二は、しばらく敬語だった。




「そして、ここが厨房です」


ちょうど、京二の語調がタメに戻ってきたころ、僕達はようやく厨房に着いた。


「さあ、行きま……あれ?」


サラさんが止まる。

そのサラさんの視線の先を見てみると、中学生か小学生だろうか。可愛げな少女が食べ物にその小さな手を伸ばしていた。


「……こら。ミスズ。つまみ食いしてはいけません」


サラさんがそのミスズと呼ばれた少女をつまみ上げる。


少女はというと、


「っっ〜〜〜〜〜〜」


両手両足をパタパタさせながらもちゃっかりと口に肉をくわえていた。


「あー!もう……。お行儀悪いでしょ!」


サラさんがミスズの頭をペチッ、と叩く。


「った!」


ミスズは頭を押さえながらサラさんによって地上に下ろされた。


「すみません。お恥ずかしいところを……」


サラさんが僕達に頭を下げてくる。それは少し筋違いだ。


「そんな!僕も小学生くらいのころはつまみ食いもしましたし、それくら、いぎゃ!」


突然、腹部への痛み。見るとミスズが頭突きしていた。


「誰が小学生だ。……お前、何歳?」


小学生じゃないのだとすると中学生だろうか?そんな疑問を抱きながらミスズの質問に答える。


「桐生和巳。十六歳。そっちは相模京二。同じく十六歳」


ついでに京二の分も含めて自己紹介をする。


「十六歳……。じゃあ、タメだな。ミスズ・ティルレッタ。十六歳。まあ、知ってると思うがそっちはサラ・ティルレッタ。十七歳で、私の姉だ」


へー。みんな名字ティルレッタって言うんだ。で、ミスズちゃんはサラさんの妹で、タメっていうことは、



「高校生!?」



あまりの驚愕に目の前の少女をもう一度まじまじと見る。


シルクのように艶やかな黒髪はサラさんと同じように身長を覆うように伸ばしている。身長は僕の腹辺りまでしかないから、柚花を縮めたような印象だ。だからこそ、柚花は中学生なんだから年相応の容姿だと考えると小学生か中学生だろう。なのに、



「高校生!?」



「二回言わんでよろしい!」


「ぐはっ!」


再び頭突きを食らう。これがまた、鳩尾を的確に狙って外さない。


「良かったな、和巳。幼女に抱きつかれ放題だ、そびゃ!」

「誰が幼女だ」


京二も同じ痛みを味わっていた。


「サラ姉。本当にこの人たち、救世主なの?」

「……はい、そのはずなんですが……」


救世主?


「おい、救世主ってなんだ?俺たちが喚ばれたことに関係あるのか?」


京二も救世主という単語が気になったのかサラさんに聞いていた。


「あ、はい。そのことは話そうと思っていたんですが……」


サラさんが厨房の方を振り向く。


するといつの間にか料理は既に運ばれ始めていた。


「料理が冷めてしまいます。その話はパーティーが終わってからにしましょう!」


そして、わけもわからぬままにパーティーは始まりへと現在進行中。その間に口を挟むのは許されぬ所業となった。

強制イベントというやつだ。




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