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終わりに始まる異世界鎮魂歌‐End is an absolute prerequisite‐  作者: 常闇末
おわるセカイとおわらぬイノチ
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第四話 郷に入っては郷に従え

「……いっ!……ろ!…………ろ!起きろ!」


ガンッ!


殴られたような鈍い痛み。


目が覚めた。

お世辞にも寝覚めが良いとは言えない。


「てて。……あれ?京二?なんで僕の部屋に…………いや!部屋にある物は、そうじゃなくて!」


僕のトップシークレットが!


「……お前の部屋に何があるのかは知らんが、ここはお前の部屋じゃないぞ」


僕がどうやって京二を消そうかと考えていると、京二がそう忠告してきた。

そう言われて、部屋を見渡す。シャンデリア、壁画、黄金、大理石。

確かに、僕の家のような一般家庭には縁のない部屋だ。


京二の死体の処理方法まで考えていた京二抹消案が採用されることはなさそうだ。……ちっ、命拾いしたな……、京二。


「……はっ……!騙したな!京二!」


こちらの単なる勘違いだと思われるのも癪なので、京二が騙したということにしておく。不手際は認めたら負けだ。


「勝手に騙されたのはお前だ!……ったく、お前は何を隠して……」


京二め。姑息な手を……。


誤魔化すためにも話題を変える。


「でも、なんでこんな部屋に?……まさか京二の部屋?」


僕は昨日は普通にベッドで寝たはずなんだけど。

さすがに夢遊病の点は考えなくて良いだろう。寝たまま夢遊病で不法侵入なんて目もあてられない。


「なわけねぇだろ。家の親父だって、お前の家と同じ一般会社員だぜ」


まあ、そうだろう。僕だってこんな家、親が宝くじに当たっても建てれないと思う。きっとパニクって全額貯金のまま肥やしになることだろう。


「……じゃあ、ここはどこなのさ?」

「さあな。そこの人に聞けばいいんじゃないのか?」


そこの人?京二は扉を指差す。そこにはいかにも使用人風、身も蓋もない言い方をするとメイド風の女の子がいた。

非現実的な可愛さを纏っていて、常に無表情だ。安易にミニスカにしないあたり……分かってらっしゃる。


そっちへ駆け寄る。


「あ、あのー。すみません」

「…………」


無言。


「……ここってどこでしょうか?」

「…………」


無言。


「あの!ここ!どこでしょうか!?」


少し大きめの声で聞いてみる。


「…………」


無言。


「……あのさ、京二。この子何も喋らないんだけど」


たまらず、京二に相談しにいく。


「そうか?じゃあ、土下座だ」


回答はあまりにも予想外のものだった。


「土下座!?」

「ああ、そうだ。人にものを聞くんだ。当たり前だろ」


だからって……。


「嫌だよ、土下座なんて。京二も一緒に頭下げてよ」

「俺は、俺が頭を下げないと世界が崩壊する状況になったって、」


メイドを一瞥し、


「頭を下げない!」


そう言った。


地球にとってあまりにも迷惑なやつだ。文字通り地球環境に悪いクズとはこいつのことだろう。


「それに、俺はここがどこだって構わない。それを知りたいのはお前だ。違うか?」

「うっ……」


そう言われると、頭を下げるのも道理にかなっていることだと思えてくる。


「まあ、強制はしない。お前が知りたいと思うなら土下座してくるといい」


そう言って京二は横になった。

こんな状況で寝るつもりだろうか。きっと心臓がビッグフット並みに毛むくじゃらなのだろう。


改めて、プライドと情報を天秤にかける。


「でも……」


知りたい。というか知るほかに手段はない。知るしかないのだ。


きっと後にも先にもこれ以上に下らないのはないであろう決心をする。瞬間、僕の頭にかかるGが倍加するという摩訶不思議現象が起きた。そう考えることにしよう。


足を一歩一歩踏み出していく。


(ごめんな、柚花。兄ちゃん、お前にも下げなかった頭を見知らぬメイドさんに下げてくるよ)


心の中で呟く。

呟いたからと言ってどうというわけではないが、決してこの行動が僕の本意の行動ではないということを読み取っていただければ、それで十分だ。僕に喜んでメイドに頭を垂れる趣味嗜好はない。


そしてメイドの前につくと、膝をつく。

相変わらずメイドは時が止まったかのようにこちらに見向きもしない。


「どうか、ここがどこだか教えてください!」


頭を、地面につけた。


我ながら美しいフォルム。少なくともアルファベット三文字の顔文字には勝ったであろう。


「…………」


だが無言。


「京二!駄目だったよ!京二!」

「うるさいなぁ。土下座されて答えるようなことだったら普通に聞かれても答えるにきまってんだろ!」

「じゃあ、やっぱり駄目じゃないか!」

「ああ、そうだが」


……こいつ、いつか殺しちゃる。

僕の恨み帳に新たな名前が一つ刻まれたことは言うまでもない。


「まあ、落ちつけ。俺にいい考えがある」

「よし、聞こう」


でも、こいつに頼るしかない。そんな自分が本気で情けなくなった。


「昔、本でこんなことを読んだことがある。“断れない頼み方”。知りたいか?」

「ああ、知りたいね」

「じゃあ、土下座するか?」

「よし、しよう」


フローリングに頭をつける。ひんやりしていて気持ちいい。


「……ついに土下座に抵抗がなくなったか……。良い兆候だ」

「良い兆候?」

「いや、次やるのはかなりハードルが高いからな。プライドの高い奴にはできないんだ」


確かにただで断れない頼み方ができるほうが怪しい。それなりのハードルはあるものだろう。

あまりにも高いハードルならくぐって通りたいところだが、それは僕が許してもメイドが許さないと言ったところだ。


「そんなことより、どうするんだ?」

「逆立ちして、鼻からラーメンを食べる」


コンマ一秒程も間を空けずに、即答した。

その反動かしばらくは静寂が場を舞い踊っていた。きっと僕の魂もあまりの的外れさに体を抜け出して静寂とともにワルツを踊っていたであろう。


「……できるわけないだろ!?それにラーメンなんて……」

「ほれ」


京二が懐からカップラーメンと水筒に入ったお湯を出す。


「準備万端。存分にやってくれ」

「…………お、おう」


こういう時の京二の準備の良さは涙が出るほど羨ましいと同時に恨めしい。


カップラーメンにお湯を入れて、待っている間に考えてみる。

……鼻と口は繋がっているらしい。すると、あるいは……。


おそらく幻影であろう成功のビジョンが見えた辺りでカップヌードルも出来上がる。


「そろそろいいだろう」


蓋にのせていた箸をどける。僕に与えられた三分の余命が終わった瞬間だった。


「じゃあ、この箸を使って、逆立ちしながら鼻からラーメンを食ってこい」

「……よっしゃ!僕、やってくるよ」


熱々のカップラーメンを片手にメイドに向かってあるきだす。メイドの前につくと、カップラーメンを置き、両手を地面についた。


下からメイドを睨み付けてやる。だが、メイドはこちらに見向きもしない。


僕は逆立ちをした。


少し前まで習っていた体操が幸いし、逆立ちで箸を持つところまではクリアすることができた。


勝負はここからだ!


メイドの方を向く。


「―――っ!」


抑えきれなかった熱い奔流が鼻から液体として溢れだす。


白だった。


液体ではなく、布地の色だ。


その白とは対照的に、カップラーメンは赤く染まった。


「っと、駄目だ!」


自分の純情さを自慢しながらも反省し、さっき落とした箸を再び持つ。


そして赤く染まった麺を、本来入るはずの穴の数センチ上の穴に、入れた。


ズズズズーッ


鼻で麺をすする音がする。口の中には血の味が広がり、そして麺は……、


口から出てきた。


「――ッッ!」


それをまた吸い込み、麺はなんとか喉の通過に成功したようだった。長旅ご苦労。


「ふふ……」


朦朧とする意識の中でメイドの方を自慢気に見る。


「…………」


無言。


こんなインパクトの塊を披露してもこちらを見ることなく、眉一つ動かさずに立っていた。


……失われていく意識の中で思ったことは、一つ。


(ここが、どこか……聞くの……忘れてた……)


そのまま僕は後ろに倒れ、足の方へと流れていく血流を幸せだなんて的外れなことを思いながら、目を閉じた。



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