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終わりに始まる異世界鎮魂歌‐End is an absolute prerequisite‐  作者: 常闇末
おわるセカイとおわらぬイノチ
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第十六話 昨日の友は今日の敵

修行は明くる日も続いた。


明くる日も。その明くる日も。そのまた明くる日も。


けど、三人がこの事態の重要さを示唆するような発言をしたことはなかった。 私は何度目かのこの疑問を再確認する。


まだ、彼らは重大な事の全てに気づいてすらいないのではないだろうか。


……そして、それは果たして和巳たちだけに言えたことだろうか。


後者の疑問は根拠なんてないけど、なんだか胸騒ぎがする。 私たちの敵は神を守る獣だけなのだろうか。


いろんな不安を抱えたままの、私の足取りは重かった。


……こんな大事な日にイレギュラーなんて起こって欲しくなかったんだが。


修行の直後。


どうして自分がこんな大事な時に学校の廊下を歩いているのか、と考えてみる。


そうだ。


呼ばれたから、以外に理由はない。


けど、なぜ彼に呼ばれるのだろう。理由が思い当たらない。


そうこうしている内に目的の空き教室に着く。


少し憂鬱な感情に浸って、扉の前で一息つく。そして決めなければいけないのかはわからないが、一応 覚悟を決め、扉を開いた。


ガラッ


中へと入ると、彼は教室の真ん中に立っていた。


窓からは夕日が射していて少し寂しさを感じる。 ここが旧校舎だからか、床もいろんなところがささくれだっていて、机も椅子も、教室全体が木造だ。


「……なんだ?何の用だ?」


うざったらしく彼に尋ねる。文字通り投げかけるように。


「……はあ。ため息しか出ないよ。結局、ここに収束するんだからね」

「……なんのことだ?何か厄介事を持ってきたんじゃないだろうな」


言っていることが支離滅裂だ。 少なくともいつもの様子とは違う。


「厄介事……。そうだな。厄介事の一つだと思ってもらって構わない。持ってきたのはまた、別の人だけど 」


そして、じりじりとそいつは私に近寄ってくる。


「……お前、何か変だぞ?修行の内におかしくなったんじゃないか?」


彼の歩幅に合わせて後ずさる。 彼の妙なオーラが私にそうさせた。


彼は尚も薄い微笑みを浮かべている。


「おかしい?……ああ。そう思うよ。なんでこんなことをしなければいけないんだ。こんなのおかしい、って ね」


彼の視線から、明確な害意がとってみれた。 まさか、と最悪の事態が簡単に想像できた。そうならないよう願うばかりだ。


「……冗談、だよな。さすがにそこまで大変なことじゃ、ないよな……?」


彼の行動を察して、訴えるように確認をとる。 念のため、後ろをちらりと確認して退路を確保する。


今、ここでそんなことをして何になるんだ。動機なんてないはずだ。


「ミスズ、」


けど、次に口を開いた彼の表情は期待したものとは違い、


「ごめんな」


謝罪はこれから犯す罪に対してのものだと容易く分かった。


「……!?おい!誰か!」


すぐに扉へ駆け寄る。そして扉を開け放ち、


「!?」

「開かないだろ、扉。結果は神の下に収束する。お前はここから出られないんだ」


どこで引っ掛かっているのか。扉は開かない。 あり得ない、こんなこと。 この校舎がいくらボロいからと言っても、入ったときは開いたんだ。間違いなく。


とにかく、教室中を逃げ回ろうとする。


「って!?」


三歩目であっけなく転んでしまった。


なんで!?意味が分からない。


立ち上がろうとしても木の床のささくれが服に引っ掛かってとれない。逃げられない。何もかもが私に 味方してくれない。


「だから無駄なんだ。これは決められたことなんだから」


すっかり風変わりしたそいつを睨む。戸惑いと敵意を込めて。


「……ごめんな。本当にごめん」


ハンカチを口におしあてられる。


ああ。


駄目だ。


分からない。


なんでこんなことを……。




……、晋也。




あっけらかんと気を失った。








危機感はなかった。


何も警戒なんてしていなかったし、何かが起こるなんて全く思っていなかった。


……思えるはずがないんだ。 少なくとも僕の記憶の中では、彼はずっと前から一緒にいたんだ。


なのに……


「…………晋也?」

「そう間の抜けた顔をするなよ、和巳」


晋也はぐったりとして動かないミスズを脇に持っていた。


「……晋也。ミスズはどうしたんだ。何があったんだ?誰がやった?」

「俺だよ」


……………………は?


「お前をここに呼んだのも、これをお前に見せるために俺がやったことだ」


…………そういう、ことか。


第一にそんなわけがないと想像がついた。 晋也がそんなことをするわけがないと。


「……なんだよ!ドッキリにしては悪趣味だな!まったく……!人騒がせな……」


陽気に笑いながら晋也に歩み寄る。


加速ッ……!


瞬間、世界が遅くなる。


晋也の脇に挟まれながら寝ているミスズを奪いとれるくらいには。


走る。


走る走る走る走る走る走る走る。


どうしてこんなことに!


晋也は何故敵対した!


晋也が冗談や戯れであんなことをするわけがない!


なにかしらする必要があったんだ!


なぜこの光景を僕に見せる必要があるんだ!


疑問を振り払うように走る。


「無駄だよ」


急に膝からガクリ、と崩れ落ちる。膝をついた場所は元居た空き教室の床だった。


「お前はこの教室から出られない」


確かに走った!外に出た!けど、一歩も動いていない?


「お前は走らなかった。そういうことにしたんだ。……まあ、お前が魔法の射程距離を通ったのは一重に 決まっていたからだけどな」


走らなかった?決まっていた? 何を言っているんだ。


「ここはまだ神の敷いたレールの上だぜ?」


走っていた感覚に、止まっていた僕。脳が狂って動けない。 立ち上がろうとする筋肉が正常に動かないようになっている。


「運命論って知ってるか?まさにこの世界の仕組みはそれだ。神のレールはそのまま運命ってことだ」


地面に這いつくばって、晋也の話を聞く。聞くことしかできない。


「けどな、世界がレール上にある間にお前らに来られちゃ困るんだ。だからお前らは運命によってここ から一週間、出発することができない」


反論しようとするが、言葉が出ない。動け、と体にスムーズに命令ができなくなっている。


「馬鹿げた話だろ?運命、だなんて。でもよく考えてみたら分かることだったのにな。レールの上でしか 存在できないこの世界の仕組みなんて」


「……んなことはない!」


ようやく動けるようになった体を晋也に突進させる。 もちろん魔法で加速、威力を増させてから……。


「だから、こんなことは茶番だ。結果は神の書いたシナリオに収束する」


魔法が、使えない!?……くそ!修行で魔力を使い、過ぎた……。


急な眠気が襲ってきて、意識がだんだん閉じていく。


魔力の枯渇ってこんななんだ。抗い切れない疲労感。立っていられない。


「じゃあな、親友。いい夢見ろよ」


眠気。


最後に夕日を背に、その姿がおぼろ気となっている晋也を目の端に捉えて、僕は意識を手放した。

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