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終わりに始まる異世界鎮魂歌‐End is an absolute prerequisite‐  作者: 常闇末
おわるセカイとおわらぬイノチ
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第十四話 老いてはますます壮んなるべし

“まったく、君は僕の想像以上におもしろいよ”


目がチカチカするほどの真っ白さ。決して純粋を意味していないであろうその白さの中に僕はいた。


ミスズ……?


名前を呼んでみる。けどその呼び方がしっくりこないことにはすぐに気づいた。


“分かってるだろう。僕はミスズじゃない。君ならすぐに気づくはずだ”


“ただ、呼び方は見たままで構わないよ”


……嫌だ。お前はミスズじゃない。


“……そうかい。やっぱり君はおもしろいよ”


“僕は君のことをずっと見てきた。それはこの異世界の中の出来事だけに限らない”


“1歳3ヶ月。君は歩けるようになったね”


“3歳5ヶ月。ようやくオムツを外せたね”


“4歳2ヶ月。君はかけがえない友達と出会った”


“6歳7ヶ月。君は人生の理不尽さに気づいた”


“そして、16歳4ヶ月。君は全てを忘れ、まだ何かを護れるなんて信じている”


……何が、言いたい?


“かつての僕にそっくりだ。君を見ていると友情だか愛情だかを無限だと信じていたかつての僕にかぶ るんだ”


“正直ムカつくね”


そんなのただの逆恨みじゃないか。


“じゃあ、君は言いきれるのかい?君が護ると誓ったお姫様が、その声で、その顔で”


“お前なんて死ねばいい”


“そう言うはずがないなんてどうして分かるんだい?”


そう言われたって構わない。僕は彼女を護るだけだ。


“いつまでそう言っていられるかな?もし彼女がナイフを君に突きつけて君にそう言えば、君は彼女を殺 さざるを得ないだろう”


“少なくとも僕は君にこう言える”


そう言うと、目の前のミスズの貌をした何かはどこからかナイフを取りだし、


“お前なんて死ねばいい”


僕に突き立てた。





「……い、和巳!聞いてるのか!」


はっ、と意識を取り戻す。 寝起きだったから意識が朦朧としていた。


「あー、えっと……なんだっけ?」


部屋を見渡すと京二と晋也がいた。 なんで二人とも僕の部屋にいるんだっけ?


「だから、今日から俺たち学校だ、って一話前の話の最後に適当な感じに書かれてただろうが」

「そんなメタなこと言うなよ……」


晋也がため息交じりにツッコンだ。


京二の言う通り、学校に行くという話は聞き覚えがある。そういやそれに際して緊急ミーティングをしよ う、って話になったんだっけ。


「まあ、確かに異世界の学校なんて不明瞭な所。不安要素でしかないよね……」

「俺にはそんな心配ないね!この美男の俺にはバラ色の未来が……!」

「あろう物なら全力を尽くして潰すからな、そんな未来」

「それに晋也って良く言ったって美男じゃなくて微男だよね……」


「お前らなんて嫌いだぁぁぁ!!」


晋也が泣き出してしまった。 まあ、その内泣き止むだろう。さして害はないと言える。


「……じゃあさ、京二。その学校に通う生徒に聞いてみるのはどうかな?」 「確かにそれはいい案だな。すると……」


京二が考え始める。 こいつ、頭の回転はいいのに思いつきに乏しいのが珠に傷だ。仕方がないので助け船を出してやる。


「ほら、ミスズとか」

「ミスズ?いくら知能レベルが低いからって小学校に通おうなんて自分を卑下しなくたっテンスティック アニメーションッッ!?」


十本アニメ?


「よく言った。ならお前は病院に通うといい」


いつの間にミスズが部屋に入ってきていた。


「あれ?ミスズ?何か用?」

「学校へ行くんだろ。そろそろ用意しろってサラ姉が」

「あ、うん。分かったよ」


もうそんな時間か。近頃学校へ行っていなかったせいで朝の時間感覚がルーズになってしまっている ようだ。やはり学校へ行くことは案外、大切なのかもしれない。


「あれ?ミスズはどうするの?」

「ちょっと京二の関節が変な方向に曲がってしまってな。形だけ正しい方向に直してから戻る」


見ると京二の腕は羽化しそうなセミのようになっている。 その様子はまさに先ほど京二が述べた十本アニメの棒人間をボキボキに折った感じだ。南無。


「う、うん。頑張ってね―」


今後の京二の魂の行く末に祈りを捧げながらも、正直引かざるをえない光景だった。





「まったく。二人とも遅いですよ」


京二と晋也が来たのは僕が準備を終えてから30分後だった。


晋也は泣いていたからか目を腫らしていて、京二は……、治そうとしたらなんかもう取り返しのつかな いことになっている。前衛芸術ってこういうのを言うんだろうなぁ……。


「学校へ通うのも訓練の一環なんですから真面目に行ってください!」

「それはそうと、ちょっと質問いいか?」


京二が手を上げようとしてやめる。きっと耐え難い痛みが走ったのだろう。


「なんですか?」

「俺らに学校へ行っている余裕があるのか?いくら魔法を制御するためだからといって、学校の登校中 にゲームオーバーなんてオチは嫌だぜ」

「それは、安心してください。レールが途切れてもしばらくはこの世界は持続していられるんです。具体 的に言うと一週間しか持続しないらしいですけど……」


不確定な言い方だ。 それも神のお告げというやつなんだろうか。


「ちなみに今のレールが途切れるのはこれから三週間後です」


つまりX-Dayは……一ヶ月後。


「けど、レール外の一週間は私たちにも神にもどんな一週間になるか分かりません。ですので今回の学 習期間、二週間の中で魔法を完璧にして残りでなんとかしてください!」


鬼畜だ……。鬼畜がここにおる……。


「人任せもいいところだな……」

「そうでもないわよ」


可愛らしい制服に身を包んだラミが答える。


「私たちだってそれについていくんだから」

「私たちって……誰?」

「だから、私と、ミスズと、サラよ」


三人を見渡す。


「おいこら、和巳。今足手まといになるかもって思っただろ」

「メッソウモゴザイマセン。ハハハ」


なんでバレたんだろう。


「……私たちだってそこそこは戦えます。三人合わせればあなた方一人分の戦力くらいにはなると自負 してますよ」

「そうだぞ、和巳。サラとミスズの戦闘能力に関しては身をもって味わったからな」

「ラミの鞭さばきも最高だったぞ!」


けど、心配なことには変わりない。心強いといえばそうなんだけど。


「それでは、お三方。準備はいいですか?学校へ参りますよ」


サラさんのその一言で、僕たちは言い知れないワクワク半分、緊張半分の入学式のような気分で学校 へ向かった。





「さて、今日は転校生が来ている」


教室の外からでも、荘厳な雰囲気の教師の一言一句が聞いてとれる。 僕らにとっては扉を挟んだ向こう側はある意味異世界のようなもので、有り余る想像力を刺激された。


「入りなさい」


ガラガラ


教師に促されるままに教室へ入った。


生徒達は割と平凡。制服のデザインはミスズ達のを見て知っていたが、どこか魔法学校ぽい制服がこ れだけ並んでいると圧倒される。


「では端から自己紹介を」

「相模京二だ。よろしく」

「棚月晋也です。よろしく☆」

「桐生和巳です。よろしくお願いします」


全員、簡単に自己紹介を終えた。


工夫しても良かったのだが失敗するリスクに牽制されてどうもできなかった。それでも晋也はホストクラ ブの如くポーズをとって歯を見せて挨拶していた。 それは見事に冷めた目で見られていたことをここに記そう。


「では、三人とも短い間の付き合いだが、良くしてやってくれ」


教師がそんな一言で締めくくった。


僕の楽しかった記憶はここまで。


「総員!!あの三人を簀巻きにするわよ!」


「「ラジャー!!」」


その声を最後に視界が真っ暗になり、持ち上げられたような浮遊感とともに僕の異世界学生生活は 遠ざかったようだ。





「んーっ!ーっ!!んーっ!!」

「落ち着いてくだされ。今、外します」


ようやく簀巻き状態から解放される。


「ぷはっ!一体何が!?」


周りを見渡すと、見知った顔を見つけた。


「……タボルさん?」

「いかにも。手荒な真似をして申し訳ない」


いつかの執事長さんだった。


「……てっきりタボルさん、モブキャラ扱いで当分出てこないかと……」

「そうではなく、腰をやっていたもので。お恥ずかしい限りです」


こういう執事キャラって空気になりやすいから出番はないものだと思っていた。


「というか、なぜこんなことに?」

「なぜって……。説明を受けていらっしゃらないのですか?」

「いえ。ただ、学校で魔法を制御する術を身につけるとしか……」


タボルさんがため息をつく。


「失礼いたしました。お嬢様のイタズラ好きが過ぎたようで……」


イタズラ?


「確かに概ねはその通りでございますが、正しくは。学校で魔法を制御する術をマンツーマンで身につ けるとのことです」

「マンツーマンで、ってことは僕たちが最初に行ったあのクラスには……」

「二度と戻ることはありますまい」


……本当に短い間の付き合いだったようだ。


「そういや他の二人はどこへ?」


二人も簀巻きにされていたはずだけど。


「ああ。晋也様はラミ様の所へ。……あの無礼なヤクザの二代目のような馬の骨は不本意ながらお嬢 様と……、ぬおおおお!やっぱり安心できぬ!今すぐにでもやつをすりつぶして魚の餌にでも……!」


そういえば前の事件で京二に対して怒っていたんだっけ。


「タボ爺。京二はサラ姉に頭が上がらないから安心しろ」


タボルさんを諫める声がする。振り向くとミスズが座っていた。


「あれ。ミスズも何かするの?」

「いや、今はただの見学だが。……一応、食事係だ」

「へー。そうなんだ。僕たちの分も残しておいてね」

「ちょっと待て。会話が噛み合ってなかったぞ」


ミスズが僕を制止する。


「いいか、私が食事係だ」

「うん。全部食べないでよ」

「お前は私が何の係だと思ってるんだ!?」


何って……。


「味見と称してつまみ食いする係」

「そんな係あるか!」


ミスズに突っ込まれる。


おかしいなぁ。その係名で完璧だとおもったんだけどなぁ。


「はっはっは。お二人様も楽しげですな」


タボルさんもさっきとは打って変わって満面の笑みを浮かべていた。不自然な程に。


「ですが、和巳さん。修行中はそう笑ってられると思わない方が良い」

「へ?」


タボルさんが黒い気を帯びはじめる。


「私はあのツンツン頭への恨みをあなたとの特訓にぶつけることにしたのですから……」

「え?いや、その……。いやあああああああ!!」


修行はまだまだ始まったばかり。

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