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夜舞う少女

作者: 晴空

水面には美しい三日月が浮かぶ。


人里離れた山奥の淀んだ沼。


風もなく波紋さえ起きない静かな夜。


一人の少女が沼へと近寄る。


少女の足先が沼に触れそうになった時、そこに小さな波紋が起きた。


少女の足先は沼に沈むことなく、一歩、また一歩と歩む度に波紋が増えていく。


そのリズムはまるで音楽のようだった。


沼全体が楽器で少女は奏者。


ひらりひらりと少女は舞うように三日月の元へと向かう。


美しい波紋と音楽を共にして少女は三日月が浮かぶ沼の中心へと消えていく。


一歩、また一歩と歩む度、少女の姿は薄くなり、月の光があるはずなのに少女の姿は消えていく。


美しい半月が輝く夜、少女は沼にやってくる。


波紋と音楽を共にして水面(みなも)にうつる月を目指す。


けれど少女は月に届かず今日もまた消えていく。


残された沼には波紋も音も残らない。


とうとう満月、普段は闇に紛れて見えない草木も虫も姿をあらわす。


少女は再びやってくる。


水面(みなも)に映る満月は揺れることなくただそこにある。


少女は今日も月を目指す。


近付くほどに自分の姿は消えるのに。


けれど少女は月を目指す。


それはある種、狂喜じみていて怖いけれど艶かしくて。


月の光が強いほど少女は楽しそうに舞う。


まるで光が強ければ強いほど嬉しいというように。


そして今日も消えていく。


空気の中に溶けるように少女は消えた。


新月の夜、少女は現れない。


暗闇につつまれる沼


いつもは風もない静かな沼


一筋の鋭い風が頬をかすめる。


水面(みなも)には何も映らない


沼は何も奏でない。


奏者は一体どこに行ったか。


沼は待つ。


再び月を水面(みなも)に映す。


けれど少女は現れない。


沼は待つ。


幾度と満月と新月が過ぎていった。


いつの間にか沼は消え去った。


長い長い時の中、沼は姿を失った。


けれど想いだけはその場に残し。


沼の無くなったその場所に名もなき花が咲き乱れる。


夜にだけ咲く白い花。



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