ああいう種類の狂犬
モーリスが『戦車』で攻撃をする様子が、モニターに映っていた。
相手はニュースで見るような、よく知られた形の戦車だけれど、モーリスが操作しているのは、バイクに両サイドの車輪を追加したような、華奢な構造の車だった。
モーリス自身は、脳に直接情報を投影するヘッドセットを身に着けて、戦車を操作しているのだけれど、わたしにもその様子が見えるようにと、平面のモニターに戦闘の様子を映してくれた。
戦車と呼ぶには、華奢で壊れやすそうな形をしていた。細身で、バイクのようで、ミサイルだけを抱えて『カミカゼ』みたいに突っ走る車だ。
機体は、砲弾を受けてばらばらになった。普通のニュースでよく見かける形の戦車に、一撃でばらばらにされた。
弱いんじゃないの? こんなに繊細な兵器って、ありうる?
モーリスが顔に似合わない罵り声をあげて、頭に被ったヘッドセットを投げ捨てた。その王冠みたいな機器を接続すれば、脳に直接画像や、音を送れるらしい。少し前に実用化された軍事技術だけれど、実はゲーム機の方が五年は進んでる、とモーリスは言っていた。
「やられちゃった?」
「うるさいな。ぼくは筋肉頭の軍人じゃない。武器なんか使ったことない、仕方ないだろ」
「怒らないで、ただのゲームでしょ?」
「ただのゲーム? ぼくの芸術をただのゲームだって? ふざけるなよ。ぼくが扱うのは超現実だ。現実の上をいく現実だよ。ぼくはまぎれもない本当の戦場を、このサーバーの中につくった。スケールダウンすれば現実にも応用可能だ。わかるかい? 現実の方がぼくを追うんだ。決してその逆じゃない」
「……悪かったわ。よく分からないけど」
「馬鹿にするなよ」
モーリスの目つきが少しおかしかった。ケモノみたいに吊り上がっているし、すこし充血している。逆上しているのだと気付くのに、少しかかった。母の言葉を思い出した。
気をつけるのよ。あの子、時々、感情をコントロールできなくなる。わたしにはわかるの。ああいう種類の狂犬を分析するのが、わたしの専攻だから。