表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルシオン  作者: ずかみん
5/37

魂をどうか救ってください

 母、メリッサは、犯罪学の権威で、FBIの捜査にもプロファイラーとして手助けをしたりする有名人だ。

 たとえば最近のフィラデルフィアの爆殺魔事件では、犯人の年齢、職業、家族構成などを全て予測してみせた。


 完璧な容姿と、知性を鼻にかけない柔らかなトークで視聴者を魅了する母は、熱心な人権活動家としても知られている。

 母の運営するソーシャルネットワークサービス(SNS)は少しずつユーザーを増やしていた。


 それは、世界に溢れる不幸を一掃するために、少しずつお金を出し合って、世界をマシなものにしようとする優しい人たちのSNSだった。

 集まった善意に溢れる人たちは、病気で死ぬ赤ちゃんを気にかけ、商品として売られてゆく少女たちの未来を案じる。


 気味が悪いくらいに優しくて、見ているこちらが気恥ずかしいほどに、心の闇を知らない人々。

 そういった人たちに、母は、情報交換のサロンと、世界に貢献する機会を与えた。


 匿名で寄付されるお金の総額について、母は説明を避けて微笑んだ。


――金額は問題じゃないのよ、レティシア。大事なのはなにかをしたいという気持ちだけ。


 母のSNSはまだ名前がなくて、『名無しの手(ノーネームハンズ)』という愛称で呼ばれていた。


 あしながおじさん、みたいな感じだ。

 誰のものかはわからないけれど、困った人をたすける優しい両手。


 母はどんなに忙しくても、わたしの食事を、必ず、自分自身で準備した。買い物をし、下ごしらえをして、時間を費やして手のかかった料理を作る。

 母の財力であれば、家政婦さん(ハウスキーパー)を雇うこともできるのに、そうはしないでわたしの世話を焼く。


 実際には血がつながっていないわたしに、どうしてそんなによくしてくれるのかと聞くと、母は完璧な笑顔で、わたしを抱きしめた。


「あなたはわたしの娘よ、レティシア。わたしの半身。わたしの魂を受け継ぐ者。あなただけがわたしを、本当のわたしにしてくれるの」


 幼い頃、母のその言葉を聞くと、わたしは天にも昇るような気分で、神に感謝をしたものだった。

 そしてお願いをした。どうかメリッサが永久に美しく、幸せでありますようにと。

 今、わたしは神様に別のお願いをする。


 どうか、神様、母を止めて下さいと。


 メリッサの魂をどうか救ってくださいと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ