戦士の育つ場所
「これはぼくのアイデアだけど、優秀な兵士を探すのに教会へ行くのは馬鹿のすることだ」
「……わからないわ。もっと詳しく」
「先進国の教育は、道徳的で清潔だ。どう考えたって、戦士の育つ場所じゃない。教会に行ったってぼくみたいなアニマルはいないだろ。だって教会でのSEXはもともとルール違反なんだから」
モーリスのSEXは、実際にはそれほど激しい物ではないけれど、傷つけたくはないので余計なことは言わなかった。
「じゃ、絶倫男はどこに行けば見つかるの?」
「優秀な兵士を探したければ、戦場を探すんだ。もし戦場がないのなら、戦場を作ればいい。代用現実の時代だよ。ネット上であれば、どんな戦場だって思いのままだ。いっそゲームにしてしまえばいい。世界中に配布すればいい。たとえば君の母国からは優秀な兵士が生まれそうだ」
わたしの母国、リジエラでは長い内戦が続いている。それは神が与えた限られた資源を奪い合う争いでもあるし、どの神を信じるかを、お互いに押し付けあう争いでもある。
「どうして兵士が必要なの? ここはアメリカよ。アフリカじゃない。誰も誰かを殺さない場所よ」
「……メリッサはすごい。メリッサの計画だよ。メリッサは少しだけ世界をいじって、ちょっとだけ、マシなものにしようとしている」
メリッサは、戦災孤児のわたしを引取り、育ててくれた。
モーリスは、母が、自分のSNSサービスをメンテするために雇ったシステムエンジニアだ。まだ幼いけれど、その筋では有名なハッカーらしい。
どういう筋かというと、FBIに追われたり、クレジットカードで買い物ができなくなったりする、たいへん不便な筋だ。
悪意あるハッカーはクラッカーと呼ばれたりするらしいけれど、そのことを聞くとモーリスはすごく怒った。
ぼくがしていることを、子供の悪戯と一緒にするな! と顔を真っ赤にして怒るモーリスは、ちょっと普通じゃなくて怖かった。
「戦士を使って、世界をマシにするの? わたしをからかってる? なにも知らないお馬鹿さんだと思って」
「大真面目だよ。メリッサはすでにあるゲーム会社を買収した。もう計画は動き出しているんだ」
「……教えて、あなた達は、なにをしようとしているの?」
「おっと、守秘項目だった。ごめんよレテシィア。ぼくはメリッサの鎖みたいな契約の奴隷だ。いつか教えてあげるよ。それが実現した日にね」
そう笑って、モーリスはわたしを振り向き、キスをした。
モーリスのキスは、パインキャンディの味がした。