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ハルシオン  作者: ずかみん
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わたしの仕様

 モーリスは、宗教画の天使のように、柔らかな金色の巻き毛だ。


 年の頃は、わたしと同じで十五歳くらいの筈だけれど、ほっぺが赤いし、おでこも少し大きいので、同じ年頃の男の子としては、すごく幼く見える。

ピンクの肌は赤ちゃんみたいにすべすべしていて、つつくと丸めたパンの生地みたいな弾力があった。


 そう言いながら、柔らかな髪を指で撫でていると、モーリスは少し拗ねたように言った。


「いいよね、レティシアは大人っぽくて。背が高くてほっそりしてて、モデルみたいだ。学校ではもてるんだろ?」


 そう、ミドルスクールになってから、わたしの身長はたいていの大人より高くなった。

 もう誰も、わたしをお姫さまとは呼ばない。友達はわたしのことを、セイタカアワダチソウ(ゴールデンロッド)と呼ぶ。ひょろ長くむやみに伸びて、下品な黄色い花をつける雑草だ。


「あたしなんか……ほめてくれるのはモーリスだけよ」

「そう? ぼくは好きだよ、レティシアの顔。個性的だけど綺麗だ。胸は……もう少し大きい方がいいけど」

「悪かったわね、薄い胸で」


 母の邸宅は、街を見下ろす丘の中腹にあって、山小屋(ロッジ)というよりは、中世のお城みたいな外観だ。

 外から見ると円錐形に屋根が尖った塔や、かっては綿を紡ぐ工場だった作業場が、ミスマッチな統一感で、邸宅(ロッジ)にくっついている。


 レンガ色の作業場は丘の斜面に半分埋まっていて、今は巨大なエレベータで車を上げ下ろしするガレージになっていた。


 当然、部屋も時代がかった代物だ。モーリスが使うこの部屋にも、大きな暖炉があった。さきほど、どうやっても火がつかないのでモーリスが癇癪を起していた。


 モーリスは日常の細々とした作業をやらせると、なにをしても不器用なので、ちょっとカワイイ。けっきょく、モーリスはヘアスプレーを火炎放射器にして、問題を解決した。


 わたしたちは暖かい火の前で抱き合ったけど、部屋には、焦げたおじさんの匂いが立ち込めていた。ヘアスプレーは、うまくない作戦だった。

 わたしは、モーリスの汗ばんだ胸から頬を離し、起き上がってパジャマを肩にかけた。


「怒ったの?」


 モーリスは傷ついた顔をするのがうまい。わたしは、そんなモーリスの演出にとても弱くて、わかっているのに、ついつい甘い顔をしてしまう。


「いいもの見せてあげるよ」


 裸のままベッドから駆け出して、モーリスは机に座った。

 机に転がっていたキャンディを拾い、包み紙も破らずに口に放り込む。これはモーリスの特技だ。モーリスはブドウの種を捨てるみたいに、包み紙を吐き出した。


 モーリスの部屋は、仕事部屋と私室が兼用になっている。重厚でものものしい部屋の中で、そこだけがLEDの冷たい光で照らされていて、机はカーボンコンポジットの高級品だった。

 壁際のアルミ製ラックには、むき出しの基盤が数えきれないほど突っ込まれていて、大きな冷却ファンが、何台も稼働していた。


 音の小さいファンはなかなか手に入らないんだよ、とモーリスは言っていた。

 すごい技術なんだ。ファンも核爆弾も、この世界は数学が作っているんだよ、とモーリスは目を輝かせて言った。


 モーリスが机のキーボードを操作すると、画面に現れたのはサバンナの景観だ。もうわたしの記憶にはない、遠い海の向こうの世界。

 アフリカ大陸で生まれたことは知っているけれど、アフリカについてはなにも知らない。

 わたしの仕様(アイデンティティ)は、北アメリカで教育を受けた、良識に溢れたキリスト教徒のもので、こうしてモーリスと親しくなっていることさえ、なにかの罪悪感なしには受け入れることができない。


「なに? カメラの映像?」

「違うよ。これはCGだ。グーグルのデータで、世界のどんな場所でもプロットして、戦場として再現できるんだ」

「戦場? どういうこと?」


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