たいへんな悪戯者
「設計データを公開したわ。対戦車ミサイル、機体構造、電子制御部分。誰にでも同じものを作ることができる。ビートルズの歌が七十年たった今でも繰り返し世界に出現するように、この機体は少しずつ姿を変え、繰り返し地球上に現れて、破壊をばらまくことになる」
メカニックは笑っていた。終わったら夕食を奢るよ、と言ってくれた。彼氏はいるのかいと聞かれた。優しいお母さんがいてうらやましいね、と言われた。
頭が、おかしくなりそうだった。
わたしは彼に告白しそうだった。
この女は、あなたの母親を殺そうとしています。
この女は、あなたの子供に、今日の命をなんとかつなぐだけの、残酷な未来を与えようとしています。
この女は、本当のことを言うと、あなたも、死体も、人殺しも、人の姿をしたケダモノも、区別なんかしていないんです。
どれも、同じように価値なんかないんです。
「メリッサ。あなたは人の善意を……優しい人たちを裏切っている。そんなの許せない」
「裏切ってなどいないわ、レティシア。わたしは心優しい人々の望みを、地球の上に実現する。兵士として使い捨てにされる子供たちを救うために必要なのはなに? ナタやクワで殺しあう人々を止めるのに必要なのはなに?」
メリッサは、彼女の機械を指さした。
「……ここにあるわ。この機械を、わたしは『ピクシー』と名付けることにしたの。コーンウォールの民間伝承に登場する妖精の名前よ。赤い髪、尖った耳、緑色の服。三角の帽子を被って、寝静まった夜の間に貧しい人の為に仕事をする。素敵でしょ」
メリッサは、好きな男の子の名前を打ち明けるように、恥ずかしそうにくすくすと笑った。
「でも、ピクシーはたいへんな悪戯者で、旅人を迷わせたり、赤ちゃんを取り換えたりするのよ。おかしいでしょ」




