滑稽な才能
滝の音が、聞こえていた。
涼しげなミストのような物も、風向きによっては、漂ってくる。
名前も知らない鳥が、馬鹿にするように鳴いた。頭にくるけど、この鳥は銃声を聞いても逃げない。銃声を真似て鳴きさえした。
あまり夢中になっていたので、わたしは人の気配に気づかなかった。
「時間の無駄よ。まずは目を開けたまま撃てるようにならないと、それからシューティンググラスをしてね。薬莢や破片で目を傷つけるといけないから」
ウォールナットの木陰にもたれ、メリッサは腕組をして、わたしを眺めていた。
そう言われて気がついたけれど、わたしは引き金を引く前に、固く目を閉じていた。
「わたしに悲しい思いをさせるのね。レティシア」
メリッサはそう言ったけれど、べつに悲しそうな顔をしてはいなかった。顔からは、どんな表情も読みとれなかった。
「貸してごらんなさい」
メリッサは、わたしから銃を受け取ると、一度マガジンを抜いて、弾の数を数えた。それからスライドを軽く引いて初弾が装填されていること確認し、軽く曲げた両腕を上げた。
その瞬間、メリッサの体が、骨と筋肉でできた工作機械のように、精密で頑丈な構造に見えた。
一秒もかからなかった。瞬きするほどの時間で、メリッサは六つの空き缶全てを弾き飛ばした。
「……すごい」
「すごい?……もし、こんな滑稽な才能を誇りにする人間がいたら、わたしはその人間を軽蔑するわ」
そう言ってメリッサは、マガジンを抜いて捨てた。スライドを引いて薬室の弾も捨てた。それから、空っぽの銃を滝つぼの方に投げた。バックパックの方に歩いて、新品の弾丸も全部、滝つぼの中に投げ込んだ。
メリッサは、一言もしゃべらなかった。
なにもかも捨ててしまうと、メリッサは目を合わせずに、森の中に歩いて行った。
それでわたしは、メリッサを傷つけてしまったのだと知った。
メリッサは、わたしに銃なんて握って欲しくなかったのだ。




