息をするのがやっとの、からっぽの子供
母がわたしを拾ってくれなければ、わたしはたぶん、世界を呪ったまま、ケダモノの一生を終えていたのだ。
「ありがとうコンラート。もう、終わったわ。またこの子と遊んであげてくれる?」
「もちろんさ、メリッサ。いつでも声をかけてくれ、こんな素敵なレディーと時間を過ごせるのなら、勤務中だってログインしたいくらいさ」
「ありがとう、コンラート」とわたしが言うと、
「またね、レティシア。ぼくのお姫さま」と、コンラートは手を振ってくれた。
当時のコンラートは、金色の髪を短く刈り込んでいて、ドイツ系らしく几帳面な風貌の青年だった。いつも同じ服ばかり着ているのが気になってはいたけれど。
今にして思うと、コンラートはきっと、わたしの生い立ちを知っていた。
お姫さまじゃなくて、可哀想な戦争孤児の、ケダモノとして育った哀れな生き物の相手をしていたのだ。放っておくと死んでしまいそうなその生き物に自信をつける為、コンラートは、わたしを素敵なレディーと呼んだのだ。
だって母が立ち上げた、そのソーシャルネットワークサービスは、心優しい人道主義者の集まりで、参加者は、いつだって世界の悲劇を探しては、その力になろうと、機会を伺っていたのだから。
でも、コンラートを責める気はない。
だって本当のことだ。わたしは、無知で世間知らずの、なにもできない哀れな小動物だった。たまたま拾われただけの、なにも特別なところなどない、息をするのがやっとの、からっぽの子供だった。