人血の味
すでに解決済みの事柄なので、モーリスには演出を加える余裕すらあった。早く先を聞かせて、と言って欲しそうだったので、わたしはそう言った。
「兵士は、訓練と維持に莫大な金がかかる、貴重な国家の資産だ。どの国も簡単には手放さないし、法律でがっちりと守っている。無理に横取りすれば、目をつけられて活動もやりにくくなる」
モーリスは、愛しげにその機械の外板を撫でた。外板は六角形の金属板を集め、溶接してつくられていた。
「仕方がないから、ぼくとメリッサは兵士農場を作ることにした。きみが見たシミュレータさ」
「あのゲームのこと?」
「そう、それはリアルではあるけれど、一見、ただのネットゲームでしかない。でも、その操作はこの無人戦車を操作するのとまったく変わらない。参加者のスキルは厳密に計量されていて、ランキングされ、適性が見定められている。文明社会に潜む野蛮人を検索する装置だよ。認められた者には、ある日、スカウトのメールが届く。文面はそうだな……もっと面白いゲームをしてみませんか、っていうのでどう?」
モーリスは目を輝かして、わたしの手を取った。足が痛まなければ、たぶんモーリスは踊っていた。
「すごいアイデアだろ。このシステムは戦場で生き残る兵士を育成し、選抜する。しかもその全てに費用がかからない。だって参加者は自分のしたいゲームをプレイしているだけなんだから。ぼくって天才? ってそう思ったよ」
「そのシステムは、もう稼働しているの?」
「きみもプレイしてみるといいよ。ただのゲームとしてもよく出来ている。ゲームの名前は『バルバロイ』。いまを時めく、入荷待ちの人気タイトルなんだ」
わたしは、メリッサのしていることを知った。
これは、なんとか社会に適合しようとあがいている、わたしのようなあぶれ者を、殺人者に変えてしまうシステムだ。
例えば、人の価値観では善も悪も知らない野生動物に、ただその日の生を全うしているだけのクマやオオカミに、人血の味を教えるような行為だ。
「武器と兵士がそろったら、後はそれに目的を与える頭脳だけなんだけど、実は、これが難航している。べつに、ぼくにまかしてくれればなんてことないんだけど、メリッサはモデルの構築にこだわっている。『アーキタイプ』は人類の総意を表出するものでなければならないんだってさ」
モーリスは肩をすくめた。まるで理解できないよ、といった風にかぶりをふる。
「人間を殺し合わせるのには、ただ斧を与えればいい。アルゴリズムなんか必要ないんだけどね」




