表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルシオン  作者: ずかみん
19/37

人血の味

 すでに解決済みの事柄なので、モーリスには演出を加える余裕すらあった。早く先を聞かせて、と言って欲しそうだったので、わたしはそう言った。


「兵士は、訓練と維持に莫大な金がかかる、貴重な国家の資産だ。どの国も簡単には手放さないし、法律でがっちりと守っている。無理に横取りすれば、目をつけられて活動もやりにくくなる」


 モーリスは、愛しげにその機械の外板を撫でた。外板は六角形の金属板を集め、溶接してつくられていた。


「仕方がないから、ぼくとメリッサは兵士農場を作ることにした。きみが見たシミュレータさ」

「あのゲームのこと?」

「そう、それはリアルではあるけれど、一見、ただのネットゲームでしかない。でも、その操作はこの無人戦車を操作するのとまったく変わらない。参加者のスキルは厳密に計量されていて、ランキングされ、適性が見定められている。文明社会に潜む野蛮人(・・・)を検索する装置だよ。認められた者には、ある日、スカウトのメールが届く。文面はそうだな……もっと面白いゲームをしてみませんか、っていうのでどう?」


 モーリスは目を輝かして、わたしの手を取った。足が痛まなければ、たぶんモーリスは踊っていた。


「すごいアイデアだろ。このシステムは戦場で生き残る兵士を育成し、選抜する。しかもその全てに費用がかからない(・・・・・・・・)。だって参加者は自分のしたいゲームをプレイしているだけなんだから。ぼくって天才? ってそう思ったよ」

「そのシステムは、もう稼働しているの?」

「きみもプレイしてみるといいよ。ただのゲームとしてもよく出来ている。ゲームの名前は『バルバロイ』。いまを時めく、入荷待ちの人気タイトルなんだ」


 わたしは、メリッサのしていることを知った。

 これは、なんとか社会に適合しようとあがいている、わたしのようなあぶれ者(・・・・)を、殺人者に変えてしまうシステムだ。


 例えば、人の価値観では善も悪も知らない野生動物に、ただその日の生を全うしているだけのクマやオオカミに、人血の味を教えるような行為だ。


「武器と兵士がそろったら、後はそれに目的を与える頭脳だけなんだけど、実は、これが難航している。べつに、ぼくにまかしてくれればなんてことないんだけど、メリッサはモデルの構築にこだわっている。『アーキタイプ』は人類の総意を表出するものでなければならないんだってさ」


 モーリスは肩をすくめた。まるで理解できないよ、といった風にかぶりをふる。


「人間を殺し合わせるのには、ただ斧を与えればいい。アルゴリズムなんか必要ないんだけどね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ