ハルシオン・デイズ
幼い子供の頃、眠りにつくベッドのそばで、メリッサはハルシオーネの物語を聞かせてくれた。
宵の明星の息子であるケエクスと結ばれ、幸せに暮らしていたハルシオーネ。
ハルシオーネは最高神ゼウスの妻、ヘラの怒りに触れる。
嫉妬深いヘラは、仲睦まじく暮らす二人を快く思わず、激しい嵐を起こして、ケエクスの船を難破させてしまう。
海辺で夫を待つハルシオーネの前に流れ着いたのは、変り果てた夫の姿だった。
悲しみ絶望したハルシオーネは、海に身を投げて自らの命を絶った。
二人の死を憐れんだ最高神ゼウスは、ケエクスとハルシオーネにカワセミの姿で新しい命を与えた。
初めてその話を聞いた時、幼いわたしはハルシオーネが可哀想だと泣いた。
母は、わたしの手を優しく撫でながら言った。
泣かなくていいわ、レティシア。この話は悲劇ではないのよ。だって、二人はそれから永久に仲良く暮らしたんだから。
ハルシオーネの父、風の神であるアイオロスは、カワセミの産卵期である冬至の前後、娘が心安らかに卵を産み雛をかえすことができるように、海に吹く風を鎮めるようになった。
その言い伝えから、冬至前後の海が穏やかな日々を、「平穏で幸福な日々」という意味をこめて、「ハルシオン・デイズ」と呼ぶそうだ。
 




