表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルシオン  作者: ずかみん
13/37

ちゃんと明日が来ると思っている

 モーリスは、部屋にこもって姿を見せなくなった。

 平和な日常が戻った。


 学校で退屈な授業を聞き流してはいたけれど、あまりにも無意味な気がして、わたしは、午後からはエスケープをした。


 同級生(クラスメート)たちは、みんな無邪気だった。優しくて、満ち足りていて、なにも努力をしなくても、ちゃんと明日が来ると思っている。

 少なくとも、目が見えないまま、おなかをすかせて、泥の中を這いずった経験はない筈だ。


 バーモント州はとても広いので、通学にはマウンテンバイク(MTB)を使う。白い雲が映る湖のほとりを走り、風に揺れる牧草地の真ん中を横切って、わたしは家を目指した。


 釣りをするおじいさんが、わたしに手を振った。

 わたしは大きく手を振り返して、先を急いだ。隣家とはずいぶん距離があるけれど、みんなとてもいい人たちだった。あのおじいさんの奥さんは、鱒の切り身でパイをつくり、時々、おすそ分けをしてくれた。

 パイ生地の編み方は、それぞれが家の紋章になっている。みんなが同じカマドで調理をしていた頃の名残だ。


 家に戻ると、噴水になったロータリーのところにコンラートの車が止まっていた。汚れた中古のフィアットだ。

 コンラートは、クマさんみたいな外見なので、可愛らしい車が、とても似合っていた。


 巨人が使うようなドアを、わたしは全身の力でこじ開けた。この家はなにもかもが大げさで、家に入るという日常の行為だけでも、無駄にエネルギーを使う仕組みになっている。


 以前、メリッサは料理に薪を使おうとしていたので、それだけは反対してなんとか止めた。煤けた料理なんて食べたくないと言ったのだけれど、本当は、そんな馬鹿げたことで、メリッサの貴重な時間を無駄にして欲しくなかったのだ。


 ドアをくぐっても人の気配がないので、わたしは大きな声で、コンラートを呼んだ。

「クマさーん。どこなの? いるんでしょ」

 返事はない。


 コンラートは、留守の家をぶらぶら歩くような不躾な真似はしない。どこかで、母と一緒の筈だった。


 あまり光が差さない家の中を探して歩くと、地下へ続く通路のドアが、薄く開いているのが見えた。


 この城壁みたいな(ロッジ)は、半分ほどが岡の斜面に埋まっている。

地下には、トラックが収まりそうなガレージがあるけれど、わたしには用がないので、あまり近寄ったことはない。

 地下への通路は、自然石と錆びた鉄板で出来ていて、どこまでも続くように深かった。


 石段を下りて、ガレージのドアをあけると、話し声が聞こえた。

 わたしはは思わず、物置の扉に身をひそめた。

 母と、コンラートの声だった。


「メリッサ、なんの真似だい、これは。市民の重武装は犯罪だぞ。バーモント州では拳銃の所持すら許可されない」

「これが拳銃に見える? コンラート」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ