表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルシオン  作者: ずかみん
11/37

こんなの悪い夢だ

「教えてやるけど、おまえ、体だけは一級品だ。これまで出会った哺乳類で一番だよ」

 モーリスが、火掻き棒を振り下ろした。


 目を閉じて、おなかを庇ったわたしは銃声を聞いた。そんなのおかしい。モーリスは銃なんて持ってなかった。


 おそるおそる目を開けると、モーリスは必至の形相で、自分のつま先を握って、転げまわっていた。声も出ない様子だった。


「馬鹿ね、歩きづらいわよ、きっと。爪先は歩くための器官だもの」


 母だった。ナイトガウンを羽織ったメリッサは、小さなプラスチック製の銃を手にしていた。扱いなれた様子で銃をかまえていて、銃口はモーリスに向けられたまま、繋がっているみたいに動かなかった。


「おまえ、契約どうすんだよ。これじゃ働けないだろ」

「どうして? 手は大丈夫、脳も無事、契約を変更するつもりはない。安心して。医者は呼んであげるわ。はずみで死なれたら困るから」

「おまえ……殺すからな」

「契約を果たしたら、そうして。あなたにできるのならね」

「くそ……いてぇよ」

 モーリスは泣き出した。幼児みたいにしゃくりあげながら。


「ばかね、わたしの娘に手をあげるなんて」

「いてぇよ、報酬よこせよ。頭がおかしくなりそうだ」

「報酬? いまお金が必要? 医者ならわたしの負担で呼んであげるわ」

「そっちじゃねぇよ」

「……変わっているわね、あなた。快楽は苦痛を上書きしないわよ。普通の人間はね。すくなくともわたしの時はそうだった」


 母はナイトガウンを床に落とした。身体には、他になにも身に着けていなかった。雪のように白い肌だった。窓からの月光が、息をのむほど美しい、完璧な曲線をシルエットにした。


 モーリスの膝の間に、手を突くのが見えた。屈んで、服従するように、首を下げた。


「レティシア。部屋を出てくれると助かるわ。あまり、見られたくはないもの」


 わたしは、部屋を逃げ出した。

 こんなの悪い夢だ。きっと目を覚まして、朝日を浴びて、夢だったとわかってほっとするのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ