4)新入生歓迎会1
四番手の燐肖です!
『四』という数字は不幸と言われますが、野球の四番手はエースだし、バスケの四番はキャプテンですよね!
つまり僕は期待されているという意味ですよね!
はい、そんなわけないです。
ではではでは、四番手らしい文で書いていきたいと思います!
…………四番手らしい文って、なんだろう?
「ああ、教頭は下がっていいよ、お疲れ」
女生徒はそう言って、手で教頭をあしらう仕草をする……って、何様だこの人。相手は教頭だぞ?
しかし、教頭はただ苦笑いを浮かべるだけで、「失礼するよ」と一言述べただけで教室から出て行った。
「さて、自己紹介が遅れたね」
彼女は今一度、俺の方へと視線を向けると、椅子から立ち上がった。
凛とした目つきに腰まで伸びる長髪。背丈は俺と変わらないくらい。リボンの色が俺らと違うところを見る限り、上級生だろう。
「私は星宮景里だ。よろしく」
「はあ……」
未だ状況がよくわからず、俺は曖昧な返事をする。
次に彼女――星宮先輩は壁に寄りかかっている二人に視線を写す。
「で、こっちの二人が――」
「白岡姫乃生徒会長に、三津山剣子生徒副会長……でしたよね?」
星宮先輩の前に俺が答えると、先輩は感心したように目を見開く。
「ほう、よく知ってるね」
「まあ入学式で生徒会長の挨拶もありましたし、覚えてますよ」
「立ちながら寝てたのに?」
「…………」
そこには突っ込まないで欲しい。
すると黒の短髪、鋭い目つきをしていて背が俺の一頭分高い女子生徒がスッと前に出てくる。
「白岡姫乃です。よろしくお願いします」
それに呼応するかのように、茶髪ボブカットの目がクリッとした女子生徒が慌ただしく前に出てくる。
「み、三津山剣子ですっ! よろしくお願いしまひゅっ!」
緊張しているのか、ペコーッと太ももにオデコがつきそうなくらいに深々とお辞儀をする。
こちらは白岡生徒会長と比べて、随分と背が低い。中学生なのではないのだろうかと思わせるほどだ。
くっくっく、と星宮先輩は笑う。
「背が高くて格好いい方が『姫乃』で、背が低くて可愛い方が『剣子』だなんて……名前が逆の方がいいんじゃないかって、たっちーもそう思うだろう?」
「は、はあ……」
「……景里。怒りますよ?」
「おおっと。怖い怖い」
額に青筋を浮かべる会長に、星宮先輩は両手を小さく挙げて拒否のポーズを取る。
「それより景里、ちゃんと説明してやらないと弧達が困っていますよ?」
「え? ああ、そういえばまだ説明してなかったね」
会長の指摘に、星宮先輩がポンと手を打つ。
……いや、本当だよ。俺は何の為に、ここへ呼び出されたんだ?
星宮先輩は人差し指一本突き立てると、俺に指を差す。
「弧達翼……もとい、たっちー。君には午後から行う、裏生徒会主催の『新入生歓迎会』の新入生代表として出てもらいたい」
「…………は?」
一瞬、頭が停止する。言っている意味がイマイチわからないのだ。
歓迎会? 新入生代表? それに……。
「あの……色々とお聞きしたいことがあるのですけど」
「どうぞどうぞ、何でも答えるよ」
「裏生徒会って、なんですか……?」
俺の問いに「待ってました」とばかりに星宮先輩が目を輝かせる。
「まず、そこから質問するとは……流石たっちー!」
「いや、だから、たっちーって呼ばないでください……って、そうじゃなくて」
そりゃ、一番意味がわからないところだったし。
「生徒会っていうのは、そこにいる白岡会長と三津山副会長……姫と剣ちゃんが率いるところだ」
『姫』と『剣ちゃん』というのは、どうやら会長と副会長の渾名らしい。
「で、裏生徒会っていうのは、この私――星宮景里会長が率いるところなんだ」
「い、いや、ちょっと待ってください」
そんなに一気にベラベラと話されても困るんだが。もう少し、詳しく説明が欲しい。
「裏生徒会というのは、謂わば非公認の生徒会のことです」
見かねたのか、会長がため息をついて補足をしてくれる。
「主な活動内容は生徒会のバックアップをしてもらっています」
「は、はあ……それで、何で非公認なんですか?」
「そりゃあ、ボランティアだからさ」
星宮先輩は胸を張って答える。
「私たち裏生徒会は、別に公式の委員会じゃない。ただ、そう名乗っているだけのグループなんだ。斯く言う私も、入学したての頃にスカウトされてね」
「昔から、あったんですか? なくなっちゃう可能性だってあるのに?」
「うん、あったんだよ。いやあ、日本人のボランティア精神というものは素晴らしいものだね」
そうか、そんなものなのか……。
今の説明を聞く限りだと、ただ『裏生徒会』って名乗っているだけのボランティア活動グループ。別に継続する義務もなければ、いつ解散してもおかしくないから、そんなに長く続いているとは思わなかった。
それに、と先輩は続ける。
「非公認だからこそ、出来る範囲は広がるんだよ」
そういう星宮先輩の目が怪しく光った気がするが……うん、気のせいだろう。
「今回の『新入生歓迎会』も、生徒会の手が回らないとのことで私達が主に準備することになったというわけさ。あっ、表向きは生徒会主催だよ?」
表向きとか言っちゃっていいのだろうか……?
俺は手を上げて、次の質問をする。
「じゃあ次……新入生代表って何ですか?」
「は、はいっ! それは私から説明しますっ!」
三津山副会長がピシッと小さな手を上に挙げる。
「『新入生歓迎会』というのは、私たち在学生が弧達くんたち新入生に向けて歓迎するものですっ。それで、何を行うかを色々と考えていたんですが……」
「『誰か新入生一人に、代表して何かスピーチしてもらうのも必要なんじゃないか』って案が出てね。採用することにしたんだ」
ふむ、大体の事情はわかった。つまり、俺に歓迎会の新入生代表をしろということなのだろう。
ただ、わからない事が一つだけある。
「……何で俺なんですか?」
それだったら他の人でもいいのに、何で俺を選んだのかがさっぱりわからない。
「えっ? なんとなく」
「なんとなく!?」
「入学式の時に一人だけ立っていて、目立っていたから」
「そんな理由で!?」
ああ、何てことだ。あの時の自分を呪うぞ。
「要するに、君はめでたく私のお気に入り登録されたから、という理由だ」
「それはめでたいものなんでしょうか……?」
どこにもありがたみを感じないのだが。
「スピーチというのは、何を言えばいいんですか?」
「まあ短すぎず長すぎず、ごく普通のスピーチをすればいい。別に難しいことじゃないだろう?」
「そりゃ、そうですけど……」
まだ首を縦に振れない俺に、星宮先輩は続ける。
「これもボランティアの一環だと思って、私たちに協力してくれると嬉しい」
「…………」
俺は額に手を当てて考える。
ボランティア、という事は義務ではない。当然、拒否しても構わないということだ。
俺は代表をやってみたいとか、スピーチをしたいとは思わない。だから、俺がこれをやりたい理由なんて一つもないのだ。
俺は考えた末に、結論を出す。
「……わかりました、やります」
「……!」
確かにやりたい理由なんてない。
けど、それは別にやりたくない理由ではない。
高校生になって何かしてみたいとは思っていたし、ボランティアならやってみてもいいだろう。
「ありがとう、ありがとう! それじゃちょっとここで文を考えてみてくれ!」
何故か執拗にお礼をされ、俺は一緒にスピーチを考えることになった。
しかし、この時もう一つ質問するべきことがあったはずなのだ。
否、しなければならなかったのだ。
もし裏生徒会が非公認ならば、人を集めるのも生徒会や他の委員会のように募集するわけではないのだ。
つまり……裏生徒会はどうやって人を集めているのか。
それを訊くべきだった。