弐壱の段
「政宗様の寝所に忍び込んだ無礼者の私を快く受け入れてくださった事、心よりお礼申します」
「そなたとは一度会って話をしてみたかった…ただそれだけじゃ。恩に感じずともよい」
そう言って政宗は子供の様に声をあげ笑った。その無邪気さに藍も思わず笑みをこぼす。
傍に控える片倉は未だ警戒心丸出しの目で藍を伺っているが……
「優忍衆の噂は聞いていたが、まさか頭がこれ程若い男とは知らなんだ。藍、主や主の仲間の事を色々教えてくれ」
冒険話を聞きたがる子供の様に政宗はウキウキとしていた。その心を読み取った藍は苦笑しつつ、ゆっくりと話始めた。
「あまり面白い話はございませぬが……」
仲間の事、何処とは言えないが今住んでいる地の素晴らしい美しさ、最近赤子を連れた女が住人として増えた事―――政宗は最後の最後まで飽きる事無く藍の話に耳を傾けた。
「―――気に入った。ますますそなたを気に入った」
「殿?」
「これまで奥ゆかしき経験を持つ者に悪い奴はおらぬ。そうは思わぬか?片倉」
「殿、お言葉ですがこの者は忍。しかもただの忍ではありませぬ。忍を嫌う信長公が手元に置き誰にも譲る事はなかった恐ろしき才を持つ男です。慎重になされませ」
片倉の警告に政宗は口をへの字に曲げ面白くないといった顔だ。藍は笑いを堪えた。
「片倉殿が政宗様を心配なされるお気持ち、私には分かります」
疑う男に肩を持たれ片倉は虚をつかれた。
「しかし――私は己が見つけ出した信じる価値のある主人を決して裏切りは致しません。我等"優忍"は命にかえて政宗様を、殿をお守り致します」
藍の目は嘘偽りのない輝きを放つ。
片倉はただ黙って藍を正面から見据えた。
「どうじゃ?片倉。この男の持つ実直な目を見ても、そなたは尚疑うか?」
片倉は暫く藍と目を合わせ、真顔で答えた。
「いえ、もう十分です」




