十九の段
『どこまでもどこまでも儂は貴様を追う』
『逃げてみろ、藍』
信長に言われた言葉、信長の残忍な笑みがしつこく蘇る。
「……はぁ、俺は馬鹿だ。あんな人の言いなりになってたなんて……」
何もかも気付くのが遅かった自分に腹が立つ。ここまで状況が悪くなった以上、大切な仲間達にまで害が及ぶ事になってしまったのだ。
「いっその事、皆の前から姿を消すか」
月に照らされた美しい地を見ながら呟いた。
信長の元を離れおよそ半年。この地を見つけ仲間達と壊れた廃家を直したり、土地を開墾したり、温泉を見つけたり、と楽しい日々を過ごした。
誰にも壊されたくなかった。
トンッ…「っ!?…なんだ、お前か」
隣に現れた塵はニヤリと笑みを浮かべたまま太い木枝に座る藍の横に腰を降ろした。
「信長様に脅されたか」
「………」
やはり塵は全て知っている。隠し通す事を諦め深く息を吐いた。
「ああ、完全にあの人から嫌われちまった。どこまでもどこまでも追いかけるってよ」
「ふぅん…捕まればどうなる?」
「八つ裂き」
「怖…」
二人して顔を合わせハハハッと笑った。
「残念だが休暇も終わりだ。また忙しくなるぞ」
「ふぅ…短い休みだったなぁ。葉紅と子でも作ってゆっくり過ごそうと思ってたのに」
「…塵お前、子が欲しかったのか」
「普通だろ。惚れた女と暮らしてれば自然とそう思ってくるものさ。お前も濃姫様と一緒になれば分かる」
すると、いつもは動揺を見せない藍の顔がわかり易く瞬きを繰り返す。塵は意地悪げにほくそ笑む。それに気付いた藍は横目で塵を睨んだ。
「人をからかうとロクな目に遭わんぞ」
「ハハッ、悪かった。まぁ、それはさておいてだ。これからどうする?ただ逃げるってのもつまらないもんだぜ」
「そーだな……。だったら――」
木枝上で立ち上がる藍は何か大きな閃きを思いついた顔で笑っていた。
「匿ってもらいますか、俺達の新しい主に」