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優忍  作者: ハル
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十八の段

塵はこんな(とも)を見た事がなかった。


藍の放つ眼光には殺気と悲哀と深刻さが入り混じっている。何にしても何か悪い事があったのだ。


馬から降りる藍に近付く。


「おかえり」


「……ああ」


感情のない声が返ってきた。

藍の目には自分を心配する(とも)の姿など映っていなかった。そのまま塵の隣を幽霊の様に通り過ぎそして行ってしまった。


『とりあえず、1人にしとくか』


そう思った。



「ただいまっす!塵さん」


後ろからの陽気な声に塵は振り向く。

そこには信長の側近 今常に扮した翡翠が無邪気な顔をして笑っていた。可愛い後輩に塵の顔も綻ぶ。


「お前らも無事だったか」


「無事じゃないですよ。いきなり枯錆に桶渡されて、中を見れば知らない奴の生首が入ってるし、それを信長様の前まで持っていけって言われるし…あぁ〜、もうクタクタ」


今常の変装を解きながらその場に座り込む翡翠を馬上の枯錆はケタケタと笑った。


「翡翠さん、流石ですよ。ほんとに今常そっくりだ」


「あのオッサンの眉、なかなか難しい形してるんだ。何回も描いては直し描いては直し」


「もう一回、見せてくださいよ」


翡翠は垂れた前髪をあげ枯錆に近くで見せると、その出来の良さに枯錆は腹を抱えて笑う。


「アハハハハハッ、上手い!あの人の困り眉毛。翡翠さん、ずっとそれでもいいんじゃないですかぁ」


「馬鹿言うな。もし俺にこんな眉が生えてきたら全部剃ってやる」


乱暴に服の裾でゴシゴシと顔をふくと元の美しき男に戻った。苦虫を噛んだ様な顔で手網を掴むと再び馬に跨った。


「俺帰る。もう疲れたし、風呂入って寝る」


そう言うと翡翠は馬を走らせ闇の畦道に消えた。

しかし、枯錆は黒鹿毛の馬を動かす事無く、馬上で佇んだままだ。


「?枯錆、お前は帰らないのか?」


「何だか疲れすぎちゃって。今夜は眠れそうにありません。どうしたもんだかなー」


『若い奴はいいな』と枯錆に小さく嫉妬しつつ、塵は案を思いつく。


「それなら(まむし)を取ってきてくれないか、葉紅に酒と薬を作らせておきたいんだ」


枯錆のクリクリとした幼気な黒瞳が輝く。彼は蝮取りの名人なのだ。枯錆の取ってくる蝮で酒を作り、蝮の毒で薬を作るのだ。葉紅はそのどちらも作り上げるのが上手かった。が、やはり女だ。生きた蝮を見ると甲高い悲鳴を上げ塵の背にガシリとしがみついて離さない。


「か、枯錆(からさび)っ!!早くっ!早く殺してっ!」


「何言ってるんですか、葉紅さん。よく見れば可愛いでしょ?ねぇ、塵さん」


クネクネと自分の首を這う蝮を枯錆は可愛がるように優しく扱う。


「葉紅、お前何回蝮見てるんだ。いい加減慣れろよ。ほら、触ってみろ」


籠の中でうねうねと動き回る蝮の一匹を掴むと後ろにいる葉紅の顔に突きつけた。


葉紅、絶叫。


そのまま外に飛び出すと刀を研いでいた藍の元へ転がり込み塵が迎えに行くまでずっと押入れに引きこもったままだった。それから三日は塵と口も利かず目も合わせてくれなかった。



「――また葉紅(あいつ)が騒がないように、蝮の頭は全部切り落しておいてくれ。死んでいれば大丈夫だから」


「分かりました。そうします」


笑いを堪える枯錆はそのまま暗黒の森へと馬で駆けて行った。



「………?晶か」


いつの間にか背後には気だるい顔をした晶がいた。


「あの颯季とかいう女は大丈夫なのか?」


コクリと晶は頷く。


「どうする?しばらくはお前の家に居させてもいいか?嫌なら葉紅と住まわせるが」


暫く目を瞑り考えているようだったが、やがて目を開け首を横に振った。"問題なし"と言いたいらしい。


「分かった、それでいい。ところで――藍から何か聞いたか?様子が少しおかしいんだ」


すると晶は眉間に皺を寄せ、首を横に振る。


「そうか……。なら、俺が聞こう。お前はあの女を風呂に入れてやれ。疲れてるだろうからな。葉紅にも行かせる」




























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