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初心者妖精の願い  作者: ゆきのいつき
9/21

---9---

半分きました。

「ふん、なるほど。


 そんなことでウジウジと長い時間、鬱陶しくも悩んでいたわけだ。


 ばかばかしい」


 僕の決死の告白。


 それをあっさり――、

 あっさりそんな言葉で切って捨てられた。


「な、そんな、ば、ばかばかしいだなんて……。


 僕、ずっと、ずーっと! どうしようもないことだからって……あきらめようって。自分の中で折り合いつけようって……、


 頑張って思ってたのに~!」


 僕はついほっぺをおもいっきし膨らせて、オーサーに突っかかった。もう開き直った僕に怖いもんなんてないんだもんね。


「ふっ、だからそれがバカバカしいと言うのだ。


 会いたければ会えばよかろう! さっさと会いにでも行けばいい。


 生まれ変わって、前世の記憶があると?


 そんなことは会ったその時より、リィンの様子を見ればわかろうというもの。無垢な妖精は何物にも染まっておらん。ましてや生まれてすぐ、自分の名前なぞ間違っても言うものか。我に名前まで付けたではないか?


 それで前世の記憶が無いといわれたほうが驚きだ。


 我から言わせればそんなことで二十の日をウジウジと過ごし、周りに鬱陶しい空気を振りまいていられたかと思うと、腹が立って仕方ないわ」


 へっ?


 ほぇ?


 今なんて……、なんて言ったの?


「お、おーさー? いえ、オーサー様?


 ねぇ! 今……なんて言ったの?」


 僕は自分の耳がおかしくなったんじゃないか、聞き間違いじゃなかったのかと……、自分の耳をほじほじしながらそう問い返してしまうのは仕方ないことだと思う。


「会いたければ、会いにいけ。


 そう言ったがどうした? それとも前世の話が気になったか?」


 も、もちろん前世の話も気になるけど……、そ、そんなことより!


「あ、会いにいけるの?


 ここから僕の住んでたとこに行くこと出来るの! ど、どうやって?


 ねぇ、オーサー! もったいぶらないで教えてっ!」


 僕はもうオーサーに飛びつかんばかりの勢いでそうまくしたてた。つうか、実際ぱたぱたと飛び、首周りにおもっきしすがりついた。


 オーサーはそんな僕を口では鬱陶しいと言いながら……、でも、なんかちょっとうれしそうな顔をしているような気がしてならない。


「ええい、わかった。わかったから少し落ち着け。そんなにせっつかなくとも教えてやる!」


 オーサーがでもやっぱ鬱陶しいと思ったのか、首をブルブルとふり、僕はちょっとびくっとし、しぶしぶオーサーから離れた。

 テルとメイはそんな僕らの様子をちょっと離れたとこから静かに見てた。


 ううっ、呆れられちゃったかな? でも仕方ないじゃん……。

 ダメだって思ってたことが……、無理だって忘れようとしてたことが……、もしかして諦めなくていいかもしれないってわかったんだもん。


 仕方ないよ……。

 

 ねぇ?





 

 オーサーから元の世界、僕の住んでいた、生きていた場所に戻る方法を聞いてから、僕の主観で二週間ほどたった。

 僕の……と言ったのには訳があったりする。

 どうやら現実世界とこの幻想世界(区別がめんどくさいから勝手にこう呼ぶことにした。そのまんまじゃんって言わないで……)じゃ、時間の流れが微妙に違うみたいで、向こうでは僕が死んでからすでに三か月近く経ってるみたい。


 何その浦島太郎状態。早く戻らないと理菜がおばあちゃんになっちゃう!


 ほんと、すぐにでも飛んで行きたかったけど……。

 いや、実際飛んで行こうとしちゃったけど。


 あの時。

 オーサーにそのままじゃ無理だって言われ、でも何もわかってなくて……。

 それでも行こうとした僕はオーサーの例の力でがっちり拘束され、そこまでされてようやく僕はあきらめて、その場にぺたりとへたり込んで……泣いちゃった。



 僕は妖精としてあまりにも未熟だった。


 母なる大自然が生み出してくれた僕たち妖精を慈しみ守ってくれる大切な存在である精霊。そして、そんな自然、この森の守護霊である精霊さんに助けてもらうすべも全然わかってなかったし、自分自身何が出来るか? なんてことも全然わかってなかった。



 この二週間でそんなことを色々叩き込まれちゃった。


 オーサーは鬼のようにスパルタで、テルとメイも……その、きょ、協力してくれた。(まぁ、周りでくるくる飛び回ってくれてただけ……ともいうけど。でもがんばろうって気力が湧いてきたのは確かだ)


 僕は変わった。――はず。



 まぁ所詮、小さな妖精である僕に大したことなんか出来ないんだけど。




 それでも飛ぶしか能がなかった二週間前の僕とは違う。


 違うと思う。


 違ったらいいなぁ……。


 って、


「ふぇーん、何弱気になってるの? 僕。


 今日はついに出発するんだ! そして理菜に会って……、


 どうするかはまだ全然……考えてないけど! とりあえず行くのみ!」


 はうぅ、空元気だなぁ、僕。

 一人でばかなことやりながらついと前を見る。

 


 僕は帰って来た。

 

 自分が生まれたあの泉――。


 

 あの時も今も。

 ここは変わらず静かで、そしてすっごく綺麗。


 明かり一つない夜。

 

 波一つたたない、相変わらず鏡のような水面の泉のまま……。

 自分の姿を写し込んで驚いてた時がもうすっごく昔の様な気がしちゃう。



「もうわかっていると思うが、リィンが生まれたこの泉こそが、前世のリィンとの接点となりうる。逆もまたしかり。前世のお前が死んだ場所がこの泉との接点となり、再び戻って来ることも出来よう。

 生きたまま世界を渡ってくる低位の存在である動物どもとは違って、高次の存在、妖精たるお前は繊細であり、直接世界を渡ることは出来ない。くれぐれもそこを理解しておけ」


 いつになく真面目な口ぶりで僕に説明してくれてるオーサー。

 もう同じこと何回も聞かされてるんだけど……、オーサーなりに僕のこと心配してくれてるのわかるから、おとなしく聞いてる。


「更に言えば、精霊が少ない向こうの世界では妖精の力は極端に弱まる。戻るとき、力が必要な時は必ず満月の夜にするがよかろう。向こうの世界でも満月は精霊の力を引き上げる。精霊自体、非常に少ない世界だとはいえ……、きっと力になってくれるだろう」


 オーサー、やっぱいいやつだなぁ。


「うん、わかった。十分気をつける。


 オーサーも僕が居ないからって寂しがらないでね? きっとまた戻ってくるから。


 だから元気でいてね!」


「ば、な、何をいうか。


 私は寂しがったりはしない。元々我は孤高の存在、ユニコーン。この世界の王だ。寂しいことなど……あるわけがない!


 が、まぁしかし、リィン。お前の樹洞は他の者たちには使わせず空けておいてやる。ゆえに無事に帰ってこい。


 あと餞別だ。これを持っていけ!」


 強がり言いながらも、なんか僕にくれるみたい。なにくれるんだろ?


「ふわぁ!」


 オーサーの螺旋を描きながら長く伸びる立派な角がまばゆい光を帯び、その先端がじわじわ離れだして……、ついには分離し、一つの光になった。銀色にまばゆく輝くの塊。


「ほれ、何をしている、持っていけ」


 僕はその言葉に慌ててオーサーの目前まで飛んで行き、そしてその光を両手のひらに収める。それは熱くも冷たくもなく、そして光がだんだん収まってきてその形があらわになる。


「つ、角? これって……オーサーの?」


 僕は思わず不思議そうな表情を浮かべオーサーを見る。 


「我の角は万物、万病に効く特効薬にして解毒薬でもある。それがあればたかだか人間の病など、なにするものぞ。

 かの昔より人間の王どもがこぞって欲しがった物だ。


 せいぜいありがたく使うがいい」


 お、オーサー。き、君って、君ってやつは……。


「あ、ありがとーーー!」


 僕は我慢なんてとてもできず、オーサーの首に力いっぱい抱き付いた。


「ありがとう……オーサー。ぼく、僕、これ、だいじに、大事に使うね……」


 僕の目からは涙がとめどもなく流れてきちゃう。

 妖精でも泣く時は泣くんだもん。人と同じでちゃんと泣けるんだもん。




 そしてついに、別れを惜しみつつもその時はきた。



 この世界にも月はある。

 現実世界とおんなじ月。


 それが泉の上にぽっかりと浮かび、そしてだんだん泉にその姿が映り込んでくる。

 世界が幻想的な月明かりに包まれ出す。


 僕はそれに合わせて泉の上へと飛び出していく。

 岸辺には別れを惜しんでたくさんの動物たちが来てくれてた。


 オーサーが毅然とした態度で僕の方を見てる。

 あれ? テルとメイはどこだろ?


 別れがつらくて来れないのかな? ずっと気落ちしたような感じだったもん……。


 ごめんね。



 二人を気にかけてる間にも月はどんどんのぼって来て……、


 ついにはくっきりと泉にその姿を写し出した。



 空の月と泉の月。


 そしてその間にぽつんと浮かぶ僕。


 僕は祈る。自分自身がお月様になったかのように輝きますように。

 大地の精霊様、森の精霊様、そして泉の精霊様!


 僕に力を貸してください!



 手をぎゅっと合わせ、おでこにあて、ひたすら祈る。



 そして繭のように丸まった僕。


 優美に伸びた四枚の翅だけが月の光を受けキラキラと輝く。


 それはいつしか、僕自身から満ち溢れてきた淡い、それでいて強い、エメラルドグリーンの光の中に埋まっていき……、



 月の光と一つになった――。




 泉の上は光に満ち溢れ、オーサーと動物たちは寂しげにそれを見つめる。


 そんな中、二つの光が泉の光の中に……、お互いが引き合うように回りながら、すうっと溶け込むように入り込んでいくのが見えた。



 オーサーはそれを見て大きなため息を一つ、つく。



「ふっ、付いていくか。


 ま、それもよかろう。きっと苦労するだろうがな……。



 リィン、しっかり面倒みてやれよ。


 くくっ、それはリィンにも言えるか?」



 そう言って孤高の幻獣、ユニコーンのオーサーは泉から静かに姿を消したのだった。




 泉は今は静かに、ただ静かに虚空の月を映し出していた。




すみません、舞台移りませんでした。

次回は確実!


読んでいただきありがとうござます!

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