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初心者妖精の願い  作者: ゆきのいつき
8/21

---8---

 夢を見た。

 

 それも妙に生々しい、現実みたいな夢。


 理菜ちゃん、そしてパパにママ……。


 車イスに乗った理菜ちゃんが白い棺の前で、そこに寄り掛かるようにして……


 泣いてた。


 ママがそんな理菜ちゃんの背中を優しく撫でてあげてたけど……、そんなママの目も赤くなっててしきりにハンカチを目元に当てるしぐさをしてた。

 そしてパパはママの肩を抱いて、必死に涙をこらえてるお顔をしてた。



 僕のお葬式だった。



 僕は泣いてる理菜ちゃんの横に行って必死に声をかけたけど……、そんな僕の声は全然聞こえないみたいで泣き続けたまま。


 僕はここにいる! 理菜ちゃんの隣にいるよ!


 精一杯、力の限り必死に声をかけたけど……。


 僕の思いは通じない。

 声も届かない。


 寂しくて、無力感に包まれて……、たまらず声を出して泣いた。

 理菜ちゃんの名前を呼びながら思いっきり泣いてしまった。



 会いたい。


 会いたいよぉ……。


 会って僕はここにいるって、だから泣かないでって……、


 伝えたい――、



 ――――。




「ううっ……」


 なんかすっごくざわざわする。

 騒々しい雰囲気っていうか……、実際ちょっとうるさい?


「な、何なのぉ?」


 僕は繭のように丸くなっていた体を緩め、膝に埋めていた頭をゆっくりともたげ……、

 そして目をそっと開ける。


 その瞬間、勢いよく二つの光が僕の目の前に飛び込んできた。


「はわっ?」


 優しく輝く二つの光。

 人の形はしてないけど……僕と同じ妖精。


「テル! メイ!」


 最近知り合ったばかりの大切なお友だち……。

 

 そっか、あれは夢。


「僕眠ってたみたい? 起こしてくれたんだ?」


 でも、随分生々しくてリアリティのある夢だった……。


「えっ、うなされてた? 苦しそう……だった?」


 心配して起こしてくれたの? やっぱ優しいな。


 あれって夢……、なのかな?


 あの泣き崩れてた理菜。

 パパとママ。


 あれが夢だなんて思えない――。


「えっ、また泣きそうなお顔してる? あは、ご、ごめん。心配かけちゃったね。

 あ、あれ、毛玉くんたちも来てたんだ? ありがと! うれしいなー」


 なんか騒がしいなって思ったら黒いけむくじゃらの妖精。彼らも来てたんだ。

 浮かんでるに僕に飛びつこうと、ぴょんぴょん飛び跳ねてる。


 かわいい!


 僕は地面に足を付け、せっかく来てくれた彼らに身体を預けた。あはっ、いっぱい飛びかかれてしまった。



 でも、そんな中でも僕の気持ちはやっぱ晴れない。

 妹の姿が目に焼き付いて離れない。

 忘れることが出来ない。


 僕は生まれ変わったんだ。

 もう理菜のお兄ちゃんの凜じゃ、遠見凛とおみりんじゃない。


 ただのりん。ううん、リィンになったんだ。

 

 だから……、


 忘れなくちゃ――。





 

 あの夢を見てからたぶん一週間は経ったと思う。

 時間の感覚が曖昧でよくわかんないけど。


 僕はあの気持ちを心の奥に隠し、表面上は何もなかったかのように振る舞おうとしてる。

 オーサーはひと所に長くは居つかないみたいで、この大樹のお家にはもたまにしか顔を出さない。


 僕はよく一緒に来るか?って誘われるけど、そのたびにやめとくってお返事を返す。

 オーサーは。「そうか……」って言って、そして軽くため息をついて見回りに行く。


 ごめんね、オーサー。


 ……ダメだった。


 何もなかったことにすることなんて僕には無理だった。


 その結果……、


 僕は正しく、


 引きこもりになってしまってた。


 幸か不幸か僕の体は何も食べなくても平気みたいで、完全引きこもりも可能だった。

 生まれてきたこの森の精、妖精である僕はどうやらこの大地や空気、木々たち、生き物たち……この世界そのものから生きる力を分け与えてもらってるってことらしく、ここで暮らしてる限りは何も食べなくても平気なんだって。もちろんこれはオーサー先生の受け売り。

 幻獣ユニコーンであるオーサーはもちろん、妖精スプライトのテルとメイも当然そうなんだって。

 かといって何も食べれないか?っていうとそうでもなく、普通に食べることも出来る。でもおしっことか……しないんだけど。お腹に入ったものがどうなるか? だなんて僕には全然わかんないし、知りたくもない。



 そんなある日。



 ひっきーな僕にオーサーがしびれを切らしたのか、樹洞こもってた僕を強引に引きずり出すって荒業に打って出て来た。

 地面から5mの高さにあるのにもかかわらず、手も使わず(つかユニコーンに手はないけど……ないよね?)わけわかんない力であっさり引っ張り出されてしまった。長い角が淡く光ってたけど、それの力なんだろうか?


 強引に、久しぶりに出たお外。

 でもそうなると僕は半ば意地でも、またくるっと丸まって翅だけ広げてフラフラと浮いていた。



「おいリィン。


 その辛気臭い態度も数日くらいなら我慢もしてやるが、十や二十の日、同じ様子が続いたとなれば話は別だ。もういい加減鬱陶しい!


 たかだか一匹の妖精ごとき、そうであればさっさと放り出してしまうところだが、生まれたてな雌の妖精でもあるし、そも見目を気に入ってここに置いてやっているところでもある。


 無碍にはしない。


 ほれっ、さっさと何をそう思い悩んでるかゲロしてしまうがいい!」


 丸まってる僕にオーサーが矢継ぎ早にそう言ってきた。

 テルとメイも今はオーサー側に付いて、オーサーの言うことにうんうん頷いてる感じだ。


 うー、雌の妖精って……、なんかやな言い方。


 でもなにさ、みんなして。ほんと……、おせっかいなんだから――。


 僕はみんなのちょっと押しつけがましくはあるけど……、でも優しい。


 そんな気持ちがうれしくて。



 いつしか心の中でずっとたまってた、悲しい気持ち。あきらめるしかない苦しい想い。

 そして人間だったころの記憶……が、今もこの体にしっかりと残っていること……を、ぽつぽつと、拙い口調ながら――、


 語り出していた。


読んでいただきありがとうござます!


次回から舞台が移り変わる……予定です。

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