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オーサーのお家はまぁああなんというかすごかった。
そりゃ人間のお家みたいに建築物がどーんと建ってるなんてことは、さすがの僕でも思わなかったけど……。でもあれはいい意味で予想の上をいった。
なんかわくわくした。
おおきい、それはもう、でっかい木だった。
どっかの島のご神木なんかめじゃないふとーい幹で、高さだっててっぺんなんか全然見れないほんとに立派な木だった。僕なんか十人いても囲うことが出来ないくらいには太っとい。
そんな太い幹した木の根っこが幾重にも折り重なるように地面に伸びてて、地面と幹の間には結構空間が出来てる場所がある。それに木の幹にも所々人一人くらいなら余裕で入れる穴(樹洞っていうらしい)が開いてる所があって、オーサーいわく、「リィンはそこで休むがよかろう……」なんて言われちゃった。
都会っ子だった僕としては、冗談でしょ? なんて思ったけど、テルとメイもそうすれば? っていう風な感じで僕に勧めてくるから、ちょっと戸惑ったけど結局郷に入れば郷に従え。大人しく従うことにした。地面から五メートルくらい上にあるとこだけど……、飛べるから関係ないし。
まぁそもそも妖精に眠る必要なんてあるのか? なんて思ってみたり。
だいたい、目を覚まして自分が妖精になったって認識させられてから随分時間も経った気がするけど、一向にお腹がすいてくる気配もないし、その……、おしっことかしたくなることだってない。
どうなってるんだろ? この体。
それと、テルとメイ。
やさしく輝く光の玉の二人。
オーサーが言うにはスプライトって種類の妖精さんで、この世界じゃわりとたくさんいるみたい。
自由気まま、それにとっても気まぐれで、なんか気にいったモノとか場所があるとそこに居ついたり纏わりついたりとかするんだって。ったく、纏わりつくって、言い方がちょっとイヤミったらしいよね。
でも僕にとっては二人がすぐ僕を見つけてくれて……、こうして今も一緒に居てくれるのはすっごく心強い。
これからもずっと一緒にいてね!
そう心の中で思ってたら二人にきっちり反応されて僕の周りをうれしそうにクルクル回ってくれた。あはっ、僕の思ってること、二人にダダ漏れかな? 恥ずかしいな。
でもうれしい……。
よろしくね、テル、メイ!
僕が入れるようなおっきな樹洞以外にも、木の幹には小さな室が数えきれないほどあって、そこにも色んな生き物が住み着いてる。
ふふっ、なんか高層やマンションやアパートみたいで面白い。
オーサーが割り当ててくれた樹洞に僕が入ってもそんな子たちが次々顔を見せに来てくれた。(つうか僕のこと珍しがって見に来たってほうが正しいかも?)
かわいいリス君やキツツキさん。ムササビさんも来た。あと……、僕の知らないちょっと変わった生き物さんとかも来たんだけどちょっとびっくりした。黒っぽい、毛むくじゃらのふわふわしたボールみたいな子で、そこから足だけ2本、ちょこっと出ててかわいいの! そんな子がわらわらと一杯まとめてやってきたかと思うと、ぴょこぴょこ僕の周りを飛び跳ねるように回って、僕の体の上にまでへーきで乗っかってきた。
「ふわっ?」
僕、びっくりしてアタフタしちゃったけど……乗られても痛くもないし、重さを感じるわけでもない。あっけにとられ口をぽかんと開けて呆然としてたら、騒ぐだけさわいだらまた一斉に出て行っちゃった。
「な、なにあれ? なんだったの……」
僕は不思議な毛玉さんたちが居なくなったあともしばらくぼーっとしてその場でへたり込んでた。
やっぱわけわかんないやこの世界。
オーサーは自分の縄張りを見て回るらしくって居なくなった。そもそも僕を見つけたのもそんな時だったらしい。
幻獣ユニコーンであるオーサーに、敵になるような動物や生き物はそうは居ないって、偉そうに僕に話してくれた。そんなオーサーがいるこの森は精霊たちにも愛されてて、精霊が多い場所は僕や他の妖精たちにとっても住みやすいとこみたいで、それは妖精以外にも言えて、ホント色んな生き物たちが暮らしてるんだって。
偉そうにするだけのことはあるんだ。ちょっと見直した。
それに……、精霊って存在の話が普通に出て来てびっくり。そんでもってそれを普通に受け入れてしまう僕自身にも……。
で、僕にも一緒に来るか? って聞かれたけど遠慮した。
正直いろんなことがありすぎで、ちょっとゆっくりとしたかったっていうのが本音。オーサーには悪いけど……僕も結構いっぱいいっぱいです。
大きな木の、大きな穴の中。
外の光は入って来ないけど僕自身が知らず知らずのうちに出してる淡い淡い緑色したやさしい光で案外明るい。
不思議……。
僕は体を丸め、膝の間に小さな頭をうずめ繭みたいになる。背中の翅がふわっと広がって空中に浮かんでる僕のバランスをとってくれる。
ほんと不思議……。
テルとメイはどっかに飛んでいって今は居ない。でも心配はしてない。
なぜか二人の気配はずっと感じてる。僕が会いたいって思ったらすぐ来てくれる。そんなわけわかんない確信めいたものが僕の中にあって……、不安なんか全然感じない。
自然に満ち溢れた、おとぎ話にでてくる妖精の国みたいな世界――。
大きな樹洞の中、丸くなってフワフワ空中を漂っている僕。
僕は静寂に包まれた自分だけの世界の中、なんとも安らぎに満ちた気分になってきて……、いつしか目も虚ろになってきて――。
やっぱ妖精でも眠くなるんだ?
夢心地な気分の中、そんなことを想いつつ。
僕はとうとう意識を手放し、夢の世界へと旅立って行った――。
読んでいただきありがとうございます!
次くらいからお話に動き出てくるかな?